大森林の中で その1
お、遅れました‥‥。
「なに、全滅した?どういうことだ、説明してもらおうか。」
とある執務室。白髪が特徴のいかにも厳しい男が報告にきた身なりのいい男に問い詰めていた。
「ですから、シェートリンドの暗殺に向かわせた暁の影全員の死亡を確認したのです。皇帝陛下。」
「それは今聞いた。なぜかと聞いている。この阿呆!」
近くにあったグラスを投げつけ、怒鳴る。当てられた方は額から血を流し、声を出すことなく静かに沈黙する。
皇帝と呼ばれた男はファンテリム帝国現皇帝”カエサル・ジン・ウォード・ファンリムIV世”。とばっちりを受けた方の男は"ウィーミルド・ローファル・ジステア”。ファンテリム帝国の宰相で真面目だが皇帝の我儘に振り回される不憫な男でもある。
「現状では詳細は不明です。後方で待機していた部隊からの報告では彼らのバイタルサインが消えたと。」なんらかの事態に遭遇したのではとと付け加える。
「ふん、不測の事態だあ?腑抜けなあの国で?冗談いうんじゃねぇ。ダンスだぁ、茶会だぁなんだぁとやってるとこで魔獣にでも出くわしたかぁ?」
「魔獣はともかく、そうであればいいんですがね‥‥」
ファンテリム帝国は年単位であるが近々シェートリンド王国に戦争を仕掛けるつもりであった。その際少しでも戦況を良くするために暁の影を生誕会に差し向けたのだが失敗したようである。
「ま、しょーがねえ。王子はやれなかったがダメージはかなり与えたはずだ。今はそれで我慢すっか。」
「陛下が我慢を覚えてくれた‥。感無量です!」
「ぶっ殺すぞ、ゴラァァッ!!!」
夜は更けていく‥‥。
ーー ーー
薄暗い大森林の中、一人の少女が彷徨っていた。月明かりの下、かつて白いドレスだったものは血で真っ赤に染まり、見た目は重傷を負って彷徨っているようにしか見えないだろう。 だが少女にとってはそうでもなかった。
「ふふ、今宵は月が綺麗だな。かつてはこんな綺麗な光景は見れないからな。」
少女”エストレア・クレイ・アルシャイン”は内側から止めどなく溢れる力を抑えることなく周囲に放出していく。その真紅の瞳を興味深そうに辺りを見渡しながら。魔獣や動物たちは彼女から逃げるように、いや実際逃げて行った。夜の支配者たる吸血姫の放つ力の影響は絶大である。それこそやろうとすれば力に物言わせて使役させることすらできるほどの。故に本能的にわかるのだ。逃げなくてはと‥‥。
「この森を抜けよう。そして城塞都市ウルマトを目指す。今のままではパンドラに行けないからな。」
リリスとの約束とまだ見ぬ魔族という存在に心を昂らせてエストレアは満月を見上げていた。
ーー ーー
場所は変わって複数の人影が薄暗い大森林の中を歩いていた。皮鎧を着込み、ブロードソードやメイス、杖などを装備している男たち。彼らは盗賊、その下っ端である。盗賊の頭の命令で街道を通る馬車を狙うべく絞り込んだ場所、その最後のポイントを移動中であった。
「ふぁあふ、ねみぃ‥。なんたって頭はこんな少人数でやるのかねぇ?なぁ?」
「無駄口叩くな、俺たち以外にも別で動いてる奴がいんのさ。第一俺たちは下っ端だ、働いて上がんねぇとよ。」
「それにしても今頃頭たちは先日捕まえた女共とお楽しみなんだろーなぁ。 羨ましい‥‥。」
「け、どうせオメェじゃ一ラウンドももたねぇだろうがよ。」
「ったく、オメェらは‥‥、お?」
「どーした、獲物か?どこだよ、見えねえぞ。」
無駄口叩くなか、一人が何か見つけたらしく、周りが注目するが獲物である馬車はない。
「ちげえって、ほらあそこ。すげえ上玉。でもなんでこんなとこにいんだ?」
男が指差す方向、そこに月明かりで照らされた美少女がいた。赤いドレス?あるいはその服をきた赤髪のポニーテールの少女。
「うお、マジだ凄え。馬車なんか待たずあれを獲物にしようぜ。」
その提案に賛成するのに時間は掛からなかった。
ーー ーー
エストレアは森の中を進み、最後の小休止をした辺りから複数の尾行を感じとった。あと2日ほどでウルマトにつく距離なのでおそらくは盗賊の類であると判断した。なので‥‥、誘い出すことにした。服の交換と路銀、そして賞金首を得るためである。
「くく、楽しませてくれ‥‥は無理だな。素人すぎ。」
気配を消すのが中途半端すぎて、呆れてしまう。消せてはいるが空気が揺らいでいるのでバレバレであった。
「ヒヒ、嬢ちゃんこんな夜中に何しているんだい?悪〜いおじさんに捕まっちゃうよ〜?ヒヒヒ。」
茂みから一ダースぐらいの人数で構成されたいかにもな男たち。ものすご〜いまでの、テンプレな盗賊でございといわんばかりに落胆するエストレア。
落胆する姿を絶望と見て、ひとりが彼女に近づいていく。薄汚い下衆な笑みを浮かべて。その手を肩に近づけながら笑みを深める。
「げひひ、さあ来る『ドスッ』‥‥え?」
何がと確認すると自分の胸元に少女の腕が生えていた。そして訳が分からず彼の意識は闇に沈んだ。
「このアマ、よくも!お前ら、やっちまえ!」
ひとりがやられたことで怒りを露わにする盗賊たち。怒りで我を忘れているのかは知らないが連携が取れてない。エストレアにとってはいや紅諸葉にとってあまりにもお粗末だった。先ほど倒した男に使ったのは<紅流総合古武術 弐式 紅貫刺>。琉球空手の突きの極意をアレンジしたもので人体程度なら貫通する。とはいっても条件を全て満たした上でだが。あらためて吸血姫の身体能力の高さがうかがえた。この世界、そして地球で伝承として伝えられる夜の王。それが彼女エストレアである。
一斉に飛びかかるように襲い来る盗賊共。エストレアは真紅の瞳を輝かせ、獰猛な笑みを浮かべた。
屍の山。それはすべて盗賊の骸であった。ただひとり生き残った男は生きている理由がただ生かされているだけだとわかっていた。そしてそれは自分に向けて一言だけいった。
「お前たちのアジトに私を案内しろ。」
シリアス展開は前編、後編など、それ以外などの話はその1とかにします。ぶっちゃけ新キャラとか戦いとかがそうですなw
長いのでいろいろとやらかしているかも‥‥。指摘お願いw