依頼と事情聴取と特訓と
大変申し訳ありません。投稿します。言い訳は後書きに書きます。
こんな不定期な作品を読んでくださる皆様に感謝です。
ある晴れた森の拓けた場所ーーー
「やああっ!!」
青みのかかった肌の特徴的なエルフ耳を持つ幼げな少年が掛け声とともにナイフを手に躍り掛かる。
「甘い!」
しかし、仕掛けた相手、紅蓮を連想する髪の少女に難なくナイフを叩き落とされ、トドメとばかりに回し蹴りが突き刺さる。
「うあっ!」
少年はゴロゴロと茂みに転がっていくがすぐに起き上がり突進を繰り出して来る。
しかし、それも少女は少年の腕を左手で捕まえ、襟を右手で掴むと突進してくる勢いを利用し受け身が取りやすいように加減しながら投げ飛ばす。
「みきゃっ?!」という少し情けない悲鳴が聞こえてくる。
「イズール、動きが分かり易すぎる!相手を揺さぶれ、フェイントを入れるんだ!」
渇を入れるが戻ってこない。少し心配になったので見にいくとどうやら投げた時に受け身は取れたもののそのまま気絶してしまったようだ。
仕方ないので近くにあった桶の中のタオルを手に取ると軽く絞って少年、イズールに駆け寄りタオルをかけてやる。ついでに木影に運んで直射日光には晒さないようにしておいた。
「こら、イザヴィラ!十分休憩しただろう!これの次交代だから備えておけ!」
「も、もうですか!?魔力が回復してないです‥‥‥‥。それにもう立てないですよ!」
イザヴィラ、と呼ばれた少女は魔法使いである。彼らはイズールと2人で姉弟であり、先日まで奴隷として売り出されていたダークエルフの子供達である。それをエストレアが将来を見込んで買い取ったのだ。
今現在ゴブリン討伐の依頼を終わらせたため、こうして彼らにマンツーマン指導で特訓を施している。
イザヴェラはイズールの前に組み手をしていたのだが魔力切れのため小休止させていた。
「イザヴィラ、魔力というのはな筋肉と同じで使い続ければ続けるほど保有魔力量が上がるんだ。見た感じ最後に魔法を使ってからかなりの時間が空いてるな。要はスタミナ切れだ。これが終われば、今日は終わりだ。ふむ、食生活にも気を配らねばならんか‥‥‥。」
「え、あの仮にも私たち奴隷なんですけど主人と同じ食卓に立つというのは‥‥‥「何か文句があるのか?」いえ、何も!!」
別段、怖がらせる訳でもなかったのだが、あちらが勝手に勘違いしたのか何故か怖がってきた。
『お前に話す事などない。』
そう言っていたのが嘘のようで、少しばかり素直になったのだろうか。
どのような心境の変化なのかは知りようもないので、素直に良かったと思うことにした。
「ほら、早く立つんだ。お前は特に近接格闘はマスターして貰わないといけないんだ。時間は有限だぞ?」
パンパンと手を叩きながら、立ち上がりを促す。よろよろと立ち上がるイザヴィラは明らかに疲労困憊している。
本来なら後二、三種くらいは動きを覚えて欲しかったが疲労が余りにも酷いので一つだけに絞ることにした。
「ゼェ、ゼェ、な、何をすればいいのですか?」
「‥‥‥‥‥、うん。これにするか。」
顎に手を当てしばらく考えてみたが、どれも今の彼女には少しばかりキツイものがあった為、一番シンプルな、だが覚えれば力にはなる。そんなものを今日最後の課題にすることにした。
「イザヴィラ、今日最後の特訓だ。なに、単純にシンプルなものだ。」
ごくり、そんな音が聞こえてきそうな、緊迫した感情を読み取った。
次の瞬間、
イザヴィラは組み伏せられた。
「え、え?な、なにを?!」
「今日最後の課題だ。敵に拘束された。今にも殺されそうになっている。時間はない。如何な対処が考えられるか?だ。」
今回の課題である敵の拘束から考えられるプロセスを使い、脱出するという命題に目を白黒させてあたふたするイザヴィラ。
敵に拘束されるという事態はこの時生において珍しくもない。戦で敵国に捕虜になったり、あるいは魔物に繁殖ないし養分として拘束されて連れ去られたり、一対一の対人戦で拘束からの致命的な傷を負うなどがある。
相手を確実に仕留めるには、やはり相手の動きを止めることが重要になってくる。特に手練れの暗殺者などはそうすることを徹底している。
エストレアの前世である紅 諸葉は継承した殺人術、《紅流 総合古武術》において拘束から仕留めるまでの訓練を何千、何万と繰り返すことを徹底した。
あの時代においては《紅流 総合古武術》は法律に触れてしまうレベルなのだが、加減すれば護身術として使えるので積極的に取り組んだ記憶、よりは意識が強い。
だが、この世界においてやりすぎるということがない。隙を見せれば待っているのは死だ。
ここまでくる時、自分を再認識させた黒装束の暗殺者達しかり、国内トップクラスだった盗賊団しかり、そして変異した赤飛竜しかりであった。
バタバタと拘束から逃げようとするイザヴィラを尻目に呆れながらも、思考を別に飛ばしていく。今、エストレアはイザヴィラを組み伏せた、正確には瞬時に足を払い、利き腕側の肩と二の腕を抑えて背中に乗っているだけなのだが、いつまでも同じような動きしかしない。
「頭を使え、そのままだとむしろもっと体力を減らすぞ?こういう状況だからこそ冷静になれ。魔法使いというのはそういうものだ。」
「それにだ、私は言ったと思うが・・・・・・魔法使いなのだろう?魔法は使わないのか?」
「え?」と絵に描いたような惚け顔を晒しているのをため息を吐かざるを得ない。何故ならこの訓練はエストレアが技術を伝授しているがどのように上手く活かせるかはあまり言わないようにしてあった。
「私は一度も魔法を使ってはいけないだとか一言も言っていない。魔力切れだとしても生命力で行使することは可能なはず。それこそ、質量軽量化や、密度維持縮小化などあるだろうに。」
「あっ!」
今更気づいたかのように情けない声を上げる。無論、質量軽量化を使っても脱出は簡単にはさせないが。密度維持縮小化は小さくなるため、どうしようもない。
さて彼女には魔法を使ってもいいと言ったが、何を使うのか少し空想にふけるのだった。
彼女が選択したものはーーー
「亜空間移動!」
亜空間に逃げること。もともと彼女は地面に抑えられた状態で組み伏せられていたのだ。ならば地面に亜空間を形成し、脱出を試みたのだ。
亜空間を形成した魔法は希少で、こうして形成する魔法は珍しい。総じて空間魔法と呼ばれるのだが‥‥‥。
また空間魔法を利用したものはマジックアイテムにも転用され、アイテムの収容目的で使われる事が多い。
そう言う事でイザヴィラは見事亜空間に逃げ込む事に成功し、エストレアの拘束から脱出出来た。
そして、少し離れた場所から浮かぶように現れる。
「よし、いいだろう。今日はこれで終いだ。戻る準備をしておくように。」
エストレアは木影に置いていたイズールを背負うと、今度は切り株の上に置いておいた今回の依頼、ゴブリン討伐の証であるゴブリンの耳の入った麻袋を腰に巻きつけていた。
「今回はお前も私もこのような特訓は初めてだったのでな、少しやり過ぎたかもしれん。お前たちの主人として失格だ、詫びておこう。」
「いえ、大丈夫です。こうして私たちが未熟だって事が分かったので‥‥‥‥。」
「そうか。」
「それはそうと、今日の昼前にギルドに呼び出されてましたよね?何かあったのですか?」
「なに、大したことじゃない。私について知りたいと言われただけだ。」
エストレアは今日の昼頃のことを思い出すーーー
今日の昼頃、外に2人を待たせていて依頼を確認していると隣のエリザから声が掛けられた。
「あ、エストさん。少しお話頂けますか?この前の飛竜の一件で。」
「あの件については既に話はついたはずではなかったのか?」
疑問を浮かべるエストレアに受付嬢のエリザは困った顔をして問いを答えた。
「そうなんですけどね、どうしてもとギルド長がおっしゃっていまして、それに貴族の方々が納得してないんですよ。」
面倒なことだとため息をつきたくなる。
目の前のエルザにはこちらの精神を丸削りにされ、さらに密かに聞こえていた薬を盛ろうかなど物騒な事も聞こえていたので内心頭を抱えたい一件なのだ。
別段、自分がやった事なので全部とはいかないが話す気はあった。
「それに此度の件で、冒険者ランクを2段階引き上げる審議がありまして‥‥‥‥。『むしろ、そっちの方が大事ではないのかっ!?』まあ、その通りなんですよ。」
思わず声を荒げてしまう。実はエリザには天然なのでは?という疑いが浮かび上がってしまう。
「ということで来てくれませんか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。分かった。」
連れてこられたのはこの前の一室ではなく、客人を招くための部屋で豪華絢爛として輝いていた。
何処にこんな予算があったのかと養子とはいえ執政者の娘として気になったが。
正面を見れば、かなり立派な杉の木を使った執務テーブルがあり、この部屋の主人と思わしき人がいる、のだが。
率直にいえば、サイズが合ってない。
さらに言えば、幼い少女がいる。時節ピコピコを動く黒い狐耳が愛くるしい。少女という点では自分も変わらないが、あれではよくて小学三年生といったところだ。
しかし、目の前の執務テーブルの上には役職を表すプレートが置いてあり、そこには『城塞都市ウルマト配属冒険者ギルド 統制長』とある。
つまり、目の前の少女がここウルマトのギルドマスターということなのだろう。
少女はエストレアの視線に気づくとふっ、と笑みをこぼした。
「来たな、ようこそ。私がここギルドのマスター、ルディナ・カシフォルダ・ネルク。長いのでルディナギルド長と呼べ。こうして面と向き合うのは初めてだな。Fランク冒険者、エスト。相違ないか?」
「‥‥‥。相違はない。」
確認のつもりで聞いているのだが、言葉通りの威厳さが全く伝わってこない。寧ろ違和感しか感じないのだ。
「む、なんださっきからこっちをジロジロみおって。それとどこかそこはかとなく哀愁が漂うのだが何を思うているのかはっきり申せ。『ギルド長、話が脱線しかけています。』む、仕方あるまい‥‥‥。」
秘書と思わしき女性がルディナギルド長を諭している。かなり、優秀な人なのだろう。
「ごほん、さてこうして呼び出したのはな、先ずは昇格の件だ。エルザから聞いていたかもしれんが、過程はどうあれお前は変種・赤飛竜を倒したのだ。その功績で、ギルド貢献ポイントが溢れてしまってな。よって余剰分を計算したところ、2段階昇格が決まった。更に難易度が上がった依頼が受けることが出来るぞ。」
良かったな。と言われ嬉しくないと言われれば嘘になる。するとギルド長はパチンと指を鳴らすと秘書の女性がお盆に乗せられた少し縁が豪華になった銅色プレートを持ってくる。
「これがDランクの証明になりますギルドカードです。これからも、ギルドでの奮闘を期待しています。」
エストレアは持っているギルドカードを秘書が持ってきたギルドカードと交換する。短時間で躍進したことで少しだけ心が浮かれてくるのは罪ではないはずである。
さらに秘書は麻袋に包まれたジャラジャラ音がするものを持ってきた。音からして金貨数枚、銀貨沢山。
「此方が赤飛竜討伐による報奨金です。ただ、規則によりいくつかは此方で税として貰っていますので実際よりは少ないのはご了承ください。」
受け取った袋はずっしりと重い。そもそも赤飛竜だけでも討伐は困難を極める上に並みのモンスターの3倍の難易度と言われる変種個体を倒したのだから、これぐらいは当たり前だろうか?
「さて、褒賞の件はこれで終わりだ。次が本題なのだが‥‥‥‥‥‥、エスト、貴様何者だ?」
一瞬にして変わる雰囲気。ギルドマスターというだけあって様々な冒険者をまとめ上げる立場なのだからこれぐらいの覇気はあってしかるべきものだ。
しかし、エストレアは心の中で、無理にカッコつけているようにしか見えなかった。おそらく迫真の演技みたいなものだろう。
「何者だ、と問われてもだ。冒険者には訳ありな者や訳あって素性を明かさぬ者もギルドに所属していて追求はしない筈。違うか?」
「確かに。深く踏み込むのはこの業界ではタブーだ。だが、お偉方が納得しないんだよ。ギルドは中立と謳っているが、それぞれの国に所属しているようなものだ。だから出来るだけお偉方には反発したくないんだ。」
目に見えぬ火花が飛び散る中、秘書が介入に出た。
「立ち話はなんですし、お互い席に座ったらどうでしょうか?」
「やはり、出来る秘書だな。『ギルド長が気が利かないだけでは?』‥‥‥‥ぐっ!」
立場が弱いらしい。
席に着くと秘書は水が注がれたグラスをテーブルに置く。エストレアは喉が渇いていたので、ギルド長が飲んだのを見てから口を近づけた。
が、口には含まなかった。
「ギルド長、貴方も悪い人だな。」
「さて、何のことかな?」
「隠しても無駄だな。全く隠せてない。これからは薬を盛るならもっと巧妙にやるべきだ。水がかき混ぜられたことで若干濁っている。自然に混ざったものと人為的に混ぜられたものは1発でわかる。」
すん、とグラスを近づけて匂いを嗅ぐと僅かに口に入れる。
「無味無臭か。だが、自白剤の類かな?然程強力なものではないな。ここまで分かりやすく盛ってくるのは逆に気づかれるのが大前提としか思えない。」
それとだ、エストレアはさらに続ける。
「自白剤は飲ませたから、と自白する訳ではない。自白剤は判断力を鈍らせる軽い麻薬のようなものだ。耐性がある人には効果がないと知るといい。」
自然体で立ち上がるエストレアは特に咎められる訳でもなくギルド長の部屋を退室した。
退室してからしばらくしてからギルド長の部屋から
「やっぱ気づかれてたじゃない!もう嫌よ!こんな役回り!!秘書、私と変わって!」という言葉が聞こえた。クスッと笑いが溢れるほどあの部屋の主人は見栄を張っていたようだ。
ーーー「と、いうことがあったんだ。不謹慎だが、人の上に立つというのは心が折れることもあるのだなと渋々思ってしまった。」
「うわぁ、なんか共感出来ますね。中間管理職って辛いんですね。」
依頼を終え、訓練も初日が終わり、帰路に着くエストレア一行。
道中目を覚ましたイズールがエストレアにおんぶしてもらっていることを知ると顔が真っ赤になっていたことをここに記す。
この日の依頼の報酬は銀貨2枚、銅貨10枚の収入。恰幅亭までの道中で彼らは途中で合流したジッド達と一緒に帰ることとなった。
続く。
実は、仕事がクビになりましてね、再就職するため奮闘してたため投稿を疎かになってました。現在、すぐ面接が控えているため、就職出来れば早めの投稿を出来るよう努力を致しますので、この世界の応援をよろしくお願いします。




