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紅蓮の姫は覇道を紅く染める【凍結】  作者: ネコ中佐
第1章: 目覚めし力
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初めての‥‥‥従者?

初めての工場勤務‥‥‥、か、身体が筋肉痛で動けない‥‥‥‥!!

ダークエルフ。


かつての親友がファンタジー好きだったので一応は知っている、が厳密にはいくつか異なる部分がある。


ダークエルフは確かにエルフと呼ばれるものの一つ。だが彼らがダークエルフと呼ばれるのはその気性の荒さに他ならない。それは男女問わずに一度戦闘のスイッチが入ると狂戦士(バーサーカー)の如く暴れまわる。密林で短弓を駆使し翻弄させるエルフとは真逆なのだ。元々、ダークエルフは対になるハイエルフ、両者を原点とする《観測者(アルフス)》から別れたというのが歴史学的見解である。


観測者(アルフス)》というのは未だなんなのかよくわかっておらず様々な憶測が飛び交う程謎に包まれている。ただもっとも信憑性が高いのがのは神聖国から邪神と呼ぶ《リリス》の生み出した魔物であるというのだ。

当然、あの国が勝手に主張しているだけなので歴史学士達はこぞって無視していると聞いている。

こうして考えて見るとかの神聖国は魔女狩りに明け暮れていたキリスト教の異端審問官並みの狂気だ。


ともかくエルフの起源は元を辿れば《リリス》に行き着くというだけしかわからない。


「主人、一時私だけに出来るか?彼らと対等に話してみたい。」


勧められた所で買うと決まったわけでもない。奴隷を買うならば、一度腹を据えて話さないと気がすまない性質であった。


「構わないさ、んじゃ外で仕事してくらぁ‥‥‥「ああ、少し待ってくれないか」んあ?」


戸を開け外に出ようとする奴隷商人にエストレアは背を向けたまま呼び止めた。


「なに、ただのお節介さ、受け取ってくれたまえ。」


腰のポーチからジャラジャラ音が聞こえる。おそらくというより間違いなくお金であろう。擦れる音からして金貨かーー。

エストレアはこの男に保険として口止め料を渡している。つまり、この後の彼らとの対話は聞かれると都合が悪いということなのだろうか。


裏に生きる者にとって何かしら都合が悪い時に渡されるお金というのは二種類あるというのを知っている。ずばり個人的なものか、政治が絡んでいるか、だ。

前者であれば特に問題はない。あれこれ顔をを突っ込む必要はないし、お金を渡されて口を閉ざして欲しいと言われればそうする。後者は別だ。国が絡んでいるなどの危ない物件は即座に判断しなければならない。自分の器量とその危険を天秤に掛けないとならないからだ。

エストレアは、間違いなく前者。冒険者に国が絡むことはほぼない。神聖国みたいな剣聖だけが例外である。


「へへっこれはこれは。俺も裏に生きるものさ。詮索はしないと誓いますさ。」


袋を袖の内側に入れそそくさと外に出て行く。気配が完全になくなったのを確認すると改めてダークエルフの姉弟を見る。

近くに椅子があったのでそこに腰掛けると座り心地が悪かったのか座るのを諦め壁にもたれかかる。


「‥‥‥‥お前たち、名はなんという?」


腕を組みながら観察するように彼らに問いをかける。


「‥‥‥‥‥。」


顔を上げることもなく、だんまりを続けるダークエルフの姉弟。まるで話すことなど何もない、というのがよく分かるというもの。


「黙っていては何も分からないではないか。其れとも、言葉は話せないのか?」


問いを投げたというのに反応が一切ない。それどころか目も合わせようともしない。

仕方ないので、ほんの少し殺気を放つことにする。するとようやく顔をこちらに合わせてきた。


「ようやく顔を上げたか、なら「お前に、話すことなど何も無い。」ほぉ‥‥‥‥。」


言うじゃないか、と逆に殺気を込めるのに少し多くしておく。弟だと思われるダークエルフの子はビクッとしているが逆に姉のほうは身体を震わせながら此方をキッとにらめつけてくる。


大した担力だ。いや、虚勢を張っているだけなのか。


多分この子たちは強くなる。魔法などは身体強化以外は専門外だが基礎的な身体能力だけならば鍛え甲斐がある。

奴隷を買わないかと声を掛けられ付きまとわれるのが面倒だったからついてきたが、これはいい。エストレアは口がニヤけるのをなんとか押し留めるのに少し苦労した。しかしだ、エストレアとしては聞きたいことがあるのに無視されるのは癪に触る。


「私は寛容だからな、もう一度聞くぞ?二人とも名前はなんだ?」


もたらされた返答は




無視



である。


ただ目だけは此方をじっと見つめているので完全な無視ではないのだろう。だがそれも一瞬のこと。すぐに此方から目を離してまるでいないかのように弟の方へ向く。

やれやれとエストレアは目を閉じる。少しだけ力を解放しながら。


「!?」


直ぐに感じ取ったのか此方を向き直る姉弟。彼等は見た。先程までは目の前にいた女は何処にでもいる偉そうな冒険者だったのに、今はどうだ。身体を締めつけられる圧倒的 威圧感(プレッシャー)


別段変わった様子はない、いや変わっていた。

目だけは。


燃える真紅の、ホウズキにも似た何処までも紅いーーー。




ーー



「ふっ、良い度胸をしているな。奴隷になっても気高さを保とうとしているのは良いことだが、それは誇りではない見栄と言うのだぞ?」


道化を見るような笑みを浮かべているが薄暗いこの部屋でも目だけは此方を捉えて離さない、夜に舞う木兎の鋭さの如き眼力は彼等の魂に刻まれた本能を刺激する。それは激情を称える水流と静動な灼熱()を合わせ持つ彼らの王の証左を知らしめたからであり、幼い彼らでも王が何なのかを知ることであった。


先ほどまでの強がりは何処へやら身体をガタガタ震わせて二人ともエストレアを見ている。



「み、御子様‥‥!?」


御子様。それは彼らの故郷、パンドラにある深い森の中の集落で生まれ育った彼らの両親がよく聞かせてくれたものだ。


遠い昔、《リリス》がその身を削り十二の種族を作った。自分たちもその中だと。

そして仲違いを忌避すべく彼らの象徴を生み出した。それこそが御子と呼ばれるものと聞かされてきた。御子は《リリス》が身を削るのではなく存在核の半分を使って生み出したとも。


人で言えば、御子は魂、十二種族は身体を削って生み出したのだ。存在順位も比べるはずもない。



しかし、しかしだ。


御子はいないはずなのだ。15年前の戦争で、アレクサンドル陛下が討ち死し、妻であったナターシャ皇后は亡命に失敗したと神聖国の奴隷商から盗み聞いたから。

今でも思い出すだろう、神官どもに檻ごと運ばれて辿り着いた先は十字架に磔られ晒し者にされたアレクサンドル陛下のご遺体。

下卑た笑いを浮かべる司祭と涼しい顔をする剣聖。


その光景に檻をガンガンと揺らしながら怒りの咆哮をあげていた大人の人たち。


人狼(ウェアウルフ)》、《妖精(ピクシーズ)》、《森狩人(エルフ)》、《悪魔(ネビュラ)》、《獣竜(ドラウル)》、エトセトラエトセトラ‥‥‥、あげればキリがない虜囚となった我らの母の系譜。

子供ながら自分たちも見ていたから、心の底から怒りが湧いてきたのは忘れられない。


故にわからないのだ。目の前にいるのは本物なのか。


わからない、ワカラナイ。ギュッと弟を抱きしめて先ほどより強くなった殺気に体が耐えられなくなったのかガタガタ震えてくる。別に殺気に慣れてないわけではなかった。これは怯えではないと心に言い聞かせながら。


「おねぇちゃ、‥‥‥くるし‥‥!」


はっと気がつけば弟をかなり強く抱きしめていたようでバタバタともがいていた。


「ごめんねイズー、‥‥‥‥!貴方は何者なんですか‥‥‥!私たちに何をしようと‥‥‥‥!」



檻越しにエストレアを睨むように見るイズーと呼ばれた少年の姉は険しい顔を崩そうともしない。

「お姉ちゃん、怖いよ。」


「何もしない。ただこちらが聞いているのに聞き返すのは感心しないな。先ほどの無視といい、まあ無理はないが。ふむ、イズーといったか。君から話がしたいな。差し支えなければ自己紹介してほしいものだ。」


「え、僕?」


そうだ、と肯定する。赤い瞳に気圧されていたが、よく考えれば自分たちのことが知りたいだけなのだろう。


「分かってくれてなによりだ。私から自己紹介しないといけないか。私はエストレア、エストレア・クレイ・アルシャイン。まあ今は訳ありでな、エストと名乗っている。」


「僕はイズール、誇り高き《観測者(アルフス》の直系、イズール・カラティン・アルフスだ!」


堂々とした名乗り。姉はギョッとして弟のイズールを再び抱きしめる。姉はこの冒険者が名乗った事に困惑というかありえないものを聞いたからだ。弟の真名よりも何といったか。


「アルシャイン」、そう言わなかったか?


そもそもダークエルフの幼子といえども人間の年数と数えれば50年は生きてる。それまでにいくつかの常識、パンドラで教えてもらったからある程度は分かっている。

「アルシャイン」はそう、《吸血鬼(ヴァンパイア)》の血筋を表す神聖な言葉。おいそれと口にしていいものではない。


頭の中で思考していると私に対し視線が向けられている。


「弟の方は教えてくれたが‥‥‥お前はどうなのだ?」


「‥‥‥‥っ、私達をどうするつもりなんですかっ!」


まだ決まったわけじゃない。この冒険者が御子様であるはずがない。そうに決まっているはずだった。


「教えれば、答えてくれるのか?」


ようやく気づくことが出来た。この人と自分とでは認識がおおきくズレている。自分達の事が知りたいというのは嘘で惨めな自分達を嘲笑っていると思い込んでいた。いつもそうだったから、檻に入れられてからずっと。

目の輝きに気圧されかけているが見つめて見ればその目は教える者の目であった。


知りたい事はいくつかあるけれどこのままだと何も進まずになるだろう。



「やっとか、頑固すぎるぞ?大方私に関する事だろう?まあ、私としては今はどうでもいいと思っている。全てが早すぎるからな。」


心でも読めるのかと疑問に思う。感情の抱状すら分かっていると錯覚しそうだ。


言葉にウキウキと喜びに含まれているのはこれからのことに期待しているように見える。

息を吸い、吸い込んだ空気を一気に吐き出して高らかに二人の姉弟に叫ぶ。


「お前達とかかりっきりにしたのはな、簡単だ‥‥‥、私とこい!そして鍛えてやる!誰にも負けない、強くあれとして世界を見せてやろうっ!!」


他の奴隷たちがいるというのに気にすることもなく高らかに宣言してみせるエストレア。

それは理想に憧れて、理想に駆け抜ける若さだけが持つ輝きにダークエルフの少女は近親感を覚える。


「手を取れ!!これが私とそしてお前達の明日(みらい)への第一歩だ!」



姉弟はその手をとる。光を見て、希望が見えた気がした。

その姿を見た姉弟にとって忘れられない日になる。










しかし、物語はまだ始まってもいないのだ。運命の歯車はまだ動かず、回るときは遠い。








続く。

毎度毎度不定期で申し訳ありません。誤字脱字等ありましたら教えてください。なお、いつかはわからないですが全編改稿修正しますので報告させていただきます。


感想あったら書いてね、罵倒でもいいのよ?(チラッ

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