必要悪の秩序
少しずつ増えていく評価。焦らず焦らずコツコツと‥‥‥‥頑張ろうっと。
改稿いたしました。
ーー
「これが理想的であることはわかってはいるけれど、現実にはそんなことは不可能だ」と少しでも思ってしまったら、どんなことも実現することはできない
ーー
やってしまった。
一体私は何をしているのか。
エストレアはある建物の中で頭を抱えたくなるのを我慢しながら冷や汗をダラダラ流していた。
「だから!正直に白状してください!!どういう魔法で赤飛竜の、しかも変種を倒したんですか!?色んな冒険者さんから聴取しましたけど、やはり本人から聞かないとダメだと思うんです!」
バンッ、バンッ!!
机を叩く音が反響しすぎているのが逆に怖い。
そう、今エストレアはギルドの一室に押し込められて、事情聴取を受けていた。
よく考えれば色々おかしいのは当たり前であった。あの時は皆必死だったし、アドレナリン分泌のせいで細かいことは気にしてなかったがいざ事が終わってみれば皆揃って此度の異常を理解したというのだ。
特に一番異常だったエストレアをテスラとジットらで首根っこ掴んでウルマトのギルドマスターの元に連行。そのあとギルドマスター参列させた上で受付嬢のエルザが尋問官になって今に至るというわけである。
「そ、その、さっきも言ったが魔眼のおかげなのだ。そ、それ以外に何もないぞ?」
「嘘おっしゃい!魔眼というのは確かに突発的に発生するケースや先天性なものがありますが!断じて竜種を倒すような魔眼なんて多くの冒険者を見てきたけど聞いた事ないです!」
当たり前である。飛竜といっても竜種を堕とす魔眼があるなど当事者であるエストレアでも聞いた事がない。
「さあ、吐くのです!早くしないと酷いですよ!?」
ーー
「で、どう?進展はあったのかしら?」
窓を見ていた見た目は幼いながら黒い狐耳をぴこぴこ動かしながらくるりと見る人には精錬された動きでこの部屋に入ってきた人物に問いを投げた。
「ギルドマスター、ダメです〜。固すぎます。本当に心当たりがないかもです。どうしましょう。」
尋問を任されていたエリザはどうやら苦戦してるらしく、彼女の同僚であるおっとりした受付嬢、ラムが報告に来た。
「いいえ、何としても彼女から聞き出しなさい。実際に私が見てきた訳じゃないので、判断材料を揃えたいの。他の冒険者からはある程度は揃ってるから後は彼女よ。多少は手荒にしていいわ。」
「え?手荒に、ですか?流石にそれは‥‥‥‥。」
「何も暴力を振るえとは言ってないわ。荒事はあちらが本領なんだから。そうね、自白剤とかは許可するわ。」
「ですが、危険な薬剤などは保管できないこともあってここではなく領主館から取り寄せる事になりますが‥‥‥。」
「構わない。領主様にはそれっぽいこと言っておくから。そろそろ時間かしら。日が陰って来たわね。明日からお願いね。」
「わかりました。では、失礼いたします。」
パタン。ドアが閉じられ人の気配が薄れると聞き込みした資料が冊子状に纏められている。
「残光を残す赤い眼光。うっすらと見えた魔法陣。竜すら堕とす閃光と彼方で時間断層を起こす威力。本当なら由々しき事態じゃない。『リリスの御子』だけが持つ継承された大権能の欠片そのものじゃない。己の種族的に何とも知りたいわ。」
それに、それを持てるのは‥‥‥、十五年前に滅ぼされた種族である吸血鬼だけ。
それでも権能を発現できたのは数えで魔王アレクサンドル陛下より五代前の方が最後。
「全てが明るみになったら‥‥‥世界を巻き込む戦乱が起こるわね。」
滅ぼした血が生きているなんて、あの信仰深い『祈人族』が知ったら、十五年前の再来だ。『祈人族』というのは神聖国の坊主共の蔑称である。かの信仰心は生活の全てに浸透しているほど。人族が最高の存在でそれ以外は邪悪なもの、という考えに縛られている。
だから、彼女から聞き出さないと。戦乱を起こさないために予防線を貼るのだ。
あの国は亜人も魔族として数え差別する。だからあの国は冒険者ギルドがない。情報が入ってこないのだから冒険者ギルドは情報統制をしなければ。情報はなるべく手に入れて尚且つ流出を抑える。
これだけは統制をしないといけないから。
「事実ならば血は途絶えず、か。私達一族からすれば嬉しいことなのだけど‥‥‥‥。多分口は割らなそうね。」
もし、絶えずにいた血が再びかのパンドラの地で覇を唱えるなら‥‥‥‥
「忠誠を示さなきゃ、ね。」
事実かどうかわからない、けれど彼女の目はうっすらと潤うのを見たのは夕暮れの空だけであった。
そういった意味では亜人種達の『リリスの御子』に対する感情も信仰なのかもしれない。
けれども彼女が、彼女を含めた亜人達が再び希望の星を得るのは未だ遠い未来である。
ーー
「つ、疲れた‥‥‥‥。」
フラフラと如何にも疲れた顔でギルドを出たエストレアはさっさと宿に戻ってベッドに入りたい気持ちだった。
あの後は、拷問とはいかないが精神的に来る仕打ちを受けていた。中には幼稚なものもあったが。
具体的には、
・エリザにひたすらくすぐられたり
・耳かき棒?で耳掃除される上で背中をツツーとなぞりながら耳元をフゥーとされたり
・「お腹すいたでしょ?あげる!」といいつつ、上にあげた。そして欲しかったら、吐きなさいとのたまう。
・催眠術で使うような如何にもな安っぽい道具を持ち出し、「貴方はだんだん〜〜〜」と効きもしない暗示を掛けてきたり‥‥‥。
極め付けは焦れたのか、駄々を捏ね始め「さっさと答えてよ!」と大の大人があるまじき振る舞いを敢行するという逆にこっちが気まずくなるような行動をしたりするようになった。
これが続いたために別の受付嬢と思われる女性、見た目としてはおっとりとしている‥‥が中身はなかなかに腹黒い。いつもニコニコ笑顔絶やさず語尾を伸ばす口調であるがそれが逆に不自然に気持ち悪かった。エリザを部屋の外に連れ出されると部屋に残されたエストレアは椅子にもたれかかるように天井を仰ぐ。
しばらくするとエリザを連れ出した不自然な笑みを浮かべる受付嬢、名前をラムと自己紹介してくれたのだが明日もう一度ここに来て欲しい、今日は帰っていいですよ〜といってくれたので逃げるようにその場を離れたのだ。
部屋を出る時、ちらっと背後を見れば、ラムはニコニコと笑っていたが、何処か人ならざる気配がしたのは気のせいだったのか、のだろうか。
宿として利用している恰幅亭までは少し距離があるもののその道中では屋台がしきりに客を呼び込んでいる。とはいえ、もう夕暮れなのでちらほらと片付けに移行している店が多く見える。
八百屋みたいな食べ物を扱う店はほとんど店仕舞いしていて逆に飲み屋のような飲食店は夜の掻き入れ時になっている。
視界の外れには娼館があり、ちょうどほろ酔いになっている男を引っ掛けている女性がいた。
哨戒中の兵士が二人組編成なのかこういった街の治安維持に精を出している。基本的にこの国の人たちは真面目なので業務をサボったり、酔った余り乱暴が起きたなどはあまり聞かない。特にここは冒険者ギルドのお膝元であるということもあり、そのような事態には兵士はもちろん冒険者が仲裁に入るからだ。
しかし、だ。
やはり街が、国が栄えるということは闇があるということだろう。
「へへっ、そこのお嬢さんいや冒険者だろう?どうだい?ウチの『モノ』買っていかないかい?キヒヒッ安くはするぜぃ?」
大通りの小道、実に裏通りに通じる脇道にエストレアに声が掛かる。
見れば顔のほとんどを覆い隠すフードにボロボロの外套を纏った小柄な男がいた。
エストレアは綺麗な目を睨め付けるように細めながらその男を見る。
「おっと、そう怖い顔をするなよ。俺は臆病なんだ。心配すんな、合法だからよ。いや寧ろあんたなら買ってくれるんじゃないかと思ってんだぜ?」
「だからよ、見るだけなら。見るだけでいいからよ、ちょいと俺について来て欲しいんだぜ。」
この男がいう『モノ』。それは奴隷である。
奴隷は3つあり、
・犯罪などを犯して、労働で償う形の労働奴隷。主に業界用語で『蟻』と呼ばれる。こちらは鉱山や使用人という形で働く。
・娼館などで用いられる通称『花』と呼ばれる奴隷。多くが女性であり、ほとんど娼館で働いている。こちらは貧しくて身売りされたり、したりして行き着く奴隷である。
・最後に闘技場で活躍する剣奴隷。古代ローマのコロッセオの剣闘士がわかりやすいだろう。この奴隷は血が奴隷であるという点である。生まれながら剣奴隷として生まれ、戦い続ける。無論勝ち続けばその功績によって市民権を獲得出来る。
が、剣奴隷は闘技場専用の奴隷。
この男がいう『モノ』は蟻か花。自分が男であったならば花になるのだろうが、エストレアはむべなるかな女性であるためおそらく蟻であろう。
エストレアはだんだんと入り組んくる道を男についていきながら思考を重ねる。
奴隷は前世の時代的に聞けば嫌悪感を出すかもしれない。しかし、奴隷は奴隷で存在がなくてはならない上に奴隷を所有には奴隷に必要最低限の生活が出来るようにする義務がある。
人をモノとして扱う以上、それ相応の責任が所有者につく。必要とする物だからこそ奴隷はこの世界において必要な悪なのだ。
「随分と裏通りを通るじゃないか。まだなのか?」
「へへっ仕方ないんですわ。ご覧の通り、『モノ』を光の通り近くには置けないんでねぇ‥‥‥。おっと、ようやくですぜ。この店ですぜ。ささ、どうぞどうぞ。」
開かれた扉を潜ると檻がいくつか置かれていて中に首に首輪と鎖で繋がれた亜人の男女と何人かの人の男女がいた。
つまるところこの男は奴隷商人なのだろう。
「へへっ、あんたに進めたいのがあってな、これさ。」
檻の部屋を抜けると檻の中には兄妹、いや姉弟なのか二人の子供がいる。薄暗い為か顔はよく見えないが吸血姫の目であれば見える。
「神聖国からの横流し品でなぁ‥‥従者としちゃ乱暴すぎるんで手を焼いてるのよ。冒険者ならって思っても生半可な奴じゃあ殺されるのが目に見えてるしな。」
「手を焼いてる『モノ』を私に売ろうというのか?」
「そいつは耳が痛え話だがよ。あんたを見てな、こう臭うのよ。人じゃあない匂いがな。」
顔には出さなかったが、心の中では酷く動揺を隠せない。こいつ、何者‥‥!?と
とりあえず動揺を隠す為、檻に入れられているこの商人から勧められた奴隷を見る。
それは銀色の短髪で揃えられてなにより特徴的なもの、やや青みを帯びた褐色の肌。そして‥‥‥特徴的なエルフ耳。
そう、それはいわゆるダークエルフの姉弟であった。
続く。
大変、不規則な投稿ですが、読んでいただきありがとうございます。
様々なコメントお待ちしてます。




