事後処理は軽やかに
今までない量書いた。のちに修正は入れます。
シェートリンド王国 会議室卓上
昼だというのに、黒いカーテンで室内を締め切っており、光源は円卓に備え付けられたロウソクのみ。細長い円卓に何人かの官僚が手元の資料を元に頭をひねっている。
目に悪くないのだろうか?と心配されるのだが表に出せない会議は隠匿されるためこのような場を用意される。
「うーむ、帝国の軍事拡張は目に見えて本格化し始めたなぁ。しかし‥‥‥兵糧の数が例年に比べ三倍に跳ね上がっているのはどういうことなのか?」
「うちの影のものに調べてもらったが‥‥‥、どうやら海洋連合と組んだらしい。帝国は地図上だと東に海に面している。おそらくだが軍事拡張の大半は艦隊に向けている可能性が高い。」
海洋連合。
正確にはバルセゥト環海洋艦隊国家連合の略称だ。常に海に浮かぶ船の上で生活をし、海と共にある列強の一つ。海そのものが彼らの活動範囲であり、基本的には大陸側には無干渉だ。
ただ、船の生活だと野菜等に不足するために定期的に陸に上がり、食糧を確保する。今は統制されているが過去は暴力、略奪が横行しており文字通り海賊と変わらなかった。
「しかし、帝国は海に進出するのか?内陸ではなく?」
「モートハク公、おそらくだが海を使うことで内陸側の我々の意表を突き進行するつもりだ。距離はあるが海を使えば神聖国のような余程の内陸ではない限り進軍は可能だろう。」
「質問を、ガルトン卿。仮にこれが事実だとして‥‥‥我が国に進軍はあり得るのだろうか、これでも我が国は内陸だぞ?」
「ブルック侯、十分あり得る。影のものによれば、戦車なるものを開発したらしい。おそらく上陸したらそれで進軍するだろう。」
ガルトン卿という今回の議会の副長は青緑色のオーブを背後に控えていた黒服の男から受け取ると魔力を流し込み、壁に投影する。
『記録封じの水晶』
魔力を込めると込めた魔力分の時間、水晶に記録することが出来る早い話ビデオカメラである。
壁に映されたものは、戦馬二頭に引かれた櫓と馬車の中間のようなものだ。車輪は畦道でも進めるようスパイクが施され、すれ違いざまに敵を引き切るのだろうか垂直に付けられたスパイクがある。
車内は外見からすれば四人、御者は車内から操作するのだろうか、御者席がみえない。
これが大量に製造されているというのだ。
実践投入されているところを見てはいないので推測になるが戦場では矢避けのエンチャントが掛けられるだろう。そうなれば事前の情報がなければ新兵器に他ならない。そう、これが本物であるならば、である。
「映像としては本物だが、囮だろうな。新兵器であるならばあの皇帝だ、短気だが慎重な奴のことだ。本命は他にあるとみていいだろう。第一、この映像の情報は他の国にも伝わっているはずだ。」
「帝国に関してはここらで締めよう、次の議題だ。先日の件について各貴族の領土について保安面での影響はどうなっている?」
まずは西側からモートハク公、と言われ手元の資料を見ながら保安面での影響を報告をしていく。
「バジル男爵領、ホッセ騎士爵領、グランセルマ辺境伯領、トルクセラ伯爵領は治安に関しては特に問題はなさそうです。逆にルートゼラ公爵領、バルムント侯爵領、カムラック辺境伯領は産業が傾き、貧困が増加、山賊などが増えギルドから陳情が絶えません。」
また、という前にガルトン卿から遮られる。
「それだけで十分だ。すまないが、時間が少し押している。ブルック侯、東と南の報告をたのむ。」
「はっ、東と南ですがやはりクワイエット公爵が一番ひどいです。当主は酒に溺れるほどに‥‥‥、無理はないのですがそれにつられてゴードン男爵、ヘルピュライ侯爵、エルクラッド伯爵などが領土内に引きこもってます。クワイエット公爵はアイアノス将軍がカウンセリングをしているようですが、政務に復帰できるかどうか‥‥‥。その治世のせいでスラム街での暴動が発生しています。」
クワイエット公爵。
軍事に多大な貢献をした宰相も選出したこともある大貴族。アイアノス将軍と仲も良く国王陛下の信頼も厚い。だがやはり印象的なのは社交場の花と讃えられた令嬢、エストレアだろう。
可憐でありながら、芯の入った覇気を感じ取れる姿に見惚れるものが多かった。この場にいる者の何人かは自分の息子を勧めていた記憶がある。
将来国に大きく貢献をしてくれると国王陛下やその他の大臣、はたまた周辺の小国家から嫁いでくれるのであればと期待されていただけにの襲撃による行方不明は痛手であった。
「わかった。最後に私だが、王都周辺、尚且つ城塞都市ウルマトについてだが。リアム大森林にて大暴走だ。ウルマトのギルド長によればリアムの赤飛竜が飛び立ったのが目撃された。そしてああ、今し方来た情報だ。つい先ほど討伐された。信じがたいがね。」
「「「!!?」」」
まさかの爆弾が投下された。
「ちょっ、待ってくれ!目撃された時間と討伐された時間に差がないじゃないか?!」
「その件に関して後ほどギルドから通達が来るだろう。不味いな、今日の会議は此処までだ。次回の議題は税を上げるか、否かを問う。それまでに資料を揃えてくれ。では閉会だ。」
ガルトン卿は胸元から懐中時計を取り出し、手元の資料をトントンと揃え会議室から出て行く。
「ふう、おい。今日の会議で黒だと思われるのは何人だ?」
会議室から出て、大臣に割り当てられた応接室に入るとガルトン卿は背後の影の者に確認をする。
「二人はほぼ確実かと。モートハク公様側にいたブルース伯爵様、エイゼンバッハ男爵様です。疑わしいのはブルック侯爵様のお隣にいらしたヴァンムス子爵様です。」
「ご苦労。引き続き調査を続けよ。」
「御意」
そのような声が聞こえたかと思うとすぐに人の気配はなくなる。葉巻をケースから取り出し火の魔法で着火し一服すると机の上に置かれた資料を眺めていた。
『シェートリンド王国所属大臣名簿 : 売国行為証拠証明一覧』
ーー
ー何が‥。
ーーナニが起きた。
ーー身体が動かない。身体からナニカ大切なものがドクドクと流れていき、寒いと感じるようになる。
飛竜の命である翼を動かそうともがくが感覚がない。
ーーそうか、
ーー我は
ーー堕とされたのだ。
負けたのだ。自分より強いものに。このままであれば自分は骸となり、大地に還る。
ようやっと思い出した。身体の半分が消し飛び、残る半分は大きな風穴が空いていたからである。
思考する頭が無事なのは幸いなのか不幸なのか‥‥‥。
強靭な体躯を持つ竜種だからか死に体といえどもまだ考えられる能力は失ってはいなかった。
ーー実に、実に久しい。先ほどは何が起きたのかわからなかったが‥‥‥‥‥、今脳裏に焼きつく光景は間違いはなかった。
ーーあれは『 』の光、天地を熾す我らの母なる光、象徴たる大権能。
なればこそーー
ーーそうか、血は‥‥‥血は絶えてはいなかったのか。
ふと気づけばこちらに近づこうとする音が聞こえて来る。やがて一つこちらに大きく接近し、周りは引き止めようとしているのか騒がしいが、どうやら介錯してくれるようだ。
ーーそうか、‥‥‥『リリスの御仔』よ、汝に、汝の王道に我が魂、捧げようぞ 。 ーーー
目を瞑る赤飛竜はそのまま痛みを感じることなく永遠の眠りが訪れた。
ーー
頭が真っ白になっていた。
何がといえば先ほどの光景である。
いきなり頭の中からアナウンスが流れたかと思いきや間髪入れず目から光線が出たことである。
ありえない光景に下着姿であるということも忘却してしまうほどに。
先の出来事はこの戦いに赴いた冒険者や兵士達にも見られたはずであった。
異質な、重い沈黙の空気。
この私が誰かに何だあれは、と聞かれ答えた所で納得するかもわからない。
アナウンスで聞こえた『天の破光』、記憶が確かならばこの世界の人間が誰もが知る宙界創世の篝火のことだ。
最初に生まれ落ちた意思持つ概念次元体『』は何もない混沌とした世界もないただの渦しかないその場所に小さな光を当てると渦は乖離し光と闇が生まれ、そして世界の基盤になった。
この小さな光こそ『天の破光』といわれる大権能。この世界の住人、人のみならず魔物も魂レベルで知っているものである。
一部を抜粋したこの創世話は神聖国で布教されているリィエート教という宗教に於いて主神で唯一神であるアマデウスが起こした奇跡であるという。
だがこの説を否定したのが15年前の魔王アレクサンドルであった。その偉業は、我らの母であるリリスによるものだと言ったそうである。
「は、ははっ、なんだ、馬鹿らしい。なあ、そうは思わないか?双戟よ。」
渇いた笑みを浮かべながら、背後にいた、いや瓦礫の裏に隠れていたAランク冒険者、双戟のカウステスに声を掛ける。
二人は「見破られたか〜。」という感じで警戒するそぶりを見せない。
「なあなあ、さっきのあれすげーな!もう一回やってくんね?たのムギュッ!?」
「おいバカちょろちょろすんなっての。まあ、フランが言うみてぇに面白れぇな。それ、魔眼だろ?見たことねぇ魔眼だ。久しぶりに疼いてくるぜ。」
むしろ興味を持たれたようだ。因みにフランは頭を引っ張ったかれたせいで舌を噛んだらしくポカポカと怨みを晴らさんと兄の背中を叩いている。
そうこうしているうちに人が集まってくる。可視化した精霊を伴ってアルケシュや空飛ぶ魔女のように杖に腰掛けフワフワ浮いてるフローレンス。
後今までどこいたのか此処まで同行していたアンナやドラン、ジットらが駆け足でやってくる。するとテスラがはぁっと溜息吐きながら上着をフランから取り上げてエストレアに被せてくる。「あぁっ。」とフランが威嚇する猫みたいにテスラに飛びかかっていくのを尻目に自身は飛竜に吹き飛ばされた時に服をボロボロにされ、下着同然だったのを忘れていた。
その後は案の定、色々聞かれたりした。魔眼持ちと言うことで特に魔法を使う人にはなんと言うのだろうか、目がキラキラと輝いていた。
エストレアは『天の破光』と言うことを言わずに知らなかったとしらを切ることにした。
魔眼の類は突如として発現するので間違っていない。
だが魔眼よりも大事なことがあるエストレアは周囲を見渡して「飛竜を確認しよう。」と言うと兵士たちも含め全員が頷いていた。
のちにあの時のエストレアはなにかカリスマめいたものを感じたとアンナから聞くことができた。
墜落した場所は倉庫だったようで、武器や防具、天幕の部品などが散雑していた。その中に身体の半分が消し飛びまたは風穴が空き見るからに痛々しい姿になってもその恐るべき生命力でまだ生きていた赤い飛竜の変種がいた。禍々しくも美しい翼膜はボロボロで、燃えるような甲殻は埃と血で薄汚れていた。
不思議なことに今までよし寄せていた魔物が1匹残らずこのメルキア砦からいなくなっていた。ボスである赤飛竜が倒れたことで逃げたのかはわからないがこの飛竜をとどめを刺すことでこの戦いに一旦の収束が起こることは確かだった。
シャンッ。エストレアは鯉口を切り腰の刀を抜刀するとゆっくりと赤飛竜の元に歩いていく。
「ちょっと、エストさん危ないよ!仮にも飛竜なんだよ!?」
「魔法で燃やせば、やられることはない。新人は引っ込むべき。」
ガヤガヤと後ろで引き止めようとするがエストレアはこの飛竜に誓いもあるが、せめて自身の手で介錯してやりたいと思っていた。首に刀身を当てると身動ぎすることはなかった。まるで斬首を受け入れる咎人のように。
「さらばだ、名も知らぬ飛竜の王よ。」
一閃。竜種なので一太刀ではいかないのではないかと思ったがすんなりと首を落とした。
魔物が押し寄せてからの日数は3日。これを持って迎撃戦は終わりを迎えた。
続く。
やればできるな‥‥‥。文章能力は抜きにしてな‥‥‥。ふっ。
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