万里眼、開眼
何も言うまい。
駄文ですが投稿します。後々改稿をします。
脱字確認です。修正しました。
「く、う、うぅ、はぁ‥‥‥‥‥!」
痛い。
痛い。
これ程の苦痛は彼の国で令嬢として生きていけぬと逐電した誕生会以来だ。
結局、自分の正体がなんであるかを思い出して、養父に嫌われることを恐れ何も告げずあの場を去った事は軽率すぎたと思う。
「う、ぬぅぅ、派手にやられた‥‥‥らしいな、オマケに‥‥‥服ボロボロ‥‥‥。」
瓦礫をなんとか押し退けてみれば着心地の良かった隻腕戦熊獣の一式装備は赤飛竜の一撃でボロボロで下着が見えてしまい、僅かに服として機能している状態だ。その下着も見えてはいけない部分もチラッと見えてるのだが。
おまけに視界も最悪で砂埃と流れ出た血が目としての役割を阻害している。
「くっ、うぅ!?」
突如として発した右腕の激痛に目を凝らしてみればありえない方向へ曲がり、瓦礫の一部が肌に突き刺さっている。右腕だけではない、足や指も似たものだ。だが気味が悪いがゆっくりと患部がジュクジュクと音を立てて異物を押し出している。流石に折れた骨は戻さないと治らないが‥‥‥。
荒療治であるが折れた指を無理矢理戻し、あらぬ方向へ曲がった腕を激痛を耐えて戻す。
本当ならすぐにでも医療施設に運んでもらい、回復系魔法と外科措置し、数ヶ月は安静にしなければならないのだが今現在緊急事態な上あちら側が見逃してくれないことも起因している。
「ん、ぅぅぅうぅんんんんんんんん?!!」
力任せに突き刺さった異物を引き抜く。大量の血が吹き出し、激痛のあまり声が漏れそうになるがなんとか抑える。
全ての異物を取り除き、今度は瓦礫を押し退ける。ボタボタと瓦礫に血が垂れ流れている。そして血を流しすぎたせいでさっきから喉が異様に渇く。
気を抜けば、衝動のまま、無差別に血を吸いかねない。いや、痛みが飢えを加速させている、というべきか。だがここで無差別に血を吸えば、後々面倒ではすまない事態になることは明白であった。
故にエストレアは決める。これは飛竜、貴様の血で飢えを満たす、と。
だが、
「ふふ、血に飢えた連中だな。私の肉が欲しいか、うん?」
血の匂いに誘われ、屍肉漁りの如く、魔物がエストレアの周りに近寄っていた。一定の距離を取りながら、こちらを見失わないのはこちらが力尽きるのを待っているのか。
だとしたら舐めている。
ちょうどいい、少ないがお前たちの血をいただくとしよう。まだ力が込めるには回復が追いついてないが血を吸えば追いつく。幸い弾幕は数に困らない。瓦礫を石ころサイズまでに握り潰し、指の間に挟み込む。片手に無銘兼丸夜叉姫櫻を携えて、指弾きのように構えては口を三日月のように歪ませた。
柘榴と散るか否かーーー?
ーーー魔力解放、完全解放まで???秒‥‥、インストール。〈リリスの仔〉No. 1《吸血姫》、〈リリス〉と接続を開始。ーー
エラーを確認、観測できる領域にいません、再度接続を実行ーー
ーー
そこは圧倒的な蹂躙だった。
そもランクは最下位とはいえ飛竜種は紛れもなく竜種であった。
古来より王家の紋章に取り入れた国は多い。力と富を齎すと信じられ、また倒すと名声を欲しいままにできるからだ。
だが、冒険者が倒すことは出来るが多くはそれ程力のない若い個体である上にせいぜい〈青〉が限度だ。それ以上上となるとSランク冒険者といえど命の保証は、ないに等しい。
竜というのはそういう存在なのだ。故に飛竜最高位に近い〈赤〉の襲来は先ほどまで高ぶっていた熱を冷まさせ絶望に奥歯を鳴らすのに時間はかからなかった。
「怯むなぁー!ここで我々が負ければ、ウルマトの人々に、ひいては王家に多大な損害を受ける!何としても死守せっ‥‥‥‥がぁっ!!?」
大声で喝を入れようとした一人の部隊長と思しき兵士に赤飛竜の急降下した爪が袈裟懸けに振るわれた。未だ赤飛竜が起こす砂埃による視界封鎖でどこにいるのか、さっぱりわからない状態であった。
それだけではない。
「くそ、囲まれてるぞ!」
そう、赤飛竜の襲来だけではない、先ほどまでこの砦で魔物を向かい撃っていた最中であった。
よって、現在メルキア砦は上空の赤飛竜、地上は囲まれた無数の魔物達。
普通に考えれば、絶望そのものだろう。
先ほどの赤飛竜の咆哮、突風で高位の冒険者達は吹き飛んでしまい、合流には時間がかかる上、多くの兵士はその余波で死傷者を出している。
「ははっ、お終いだな。せめて娘の顔でも見たかったなぁ‥‥‥。」
巨大な熊のような魔物に捕まり今にも食われそうな時にそうぼやく一人の兵士は兵役を全うする為、故郷に残した妻子を思い出す。
もうすぐ死ぬ。少しでも楽になる為、目を瞑りその時を待つと
ズガァン!
「GRUUUUUUUAAAaaaaaa!?」
大きな音を鳴らして、兵士は地面に落ちて。熊のような魔物は困惑し辺りを見渡すが、それはナニカが高速で飛来して直撃したもので‥‥‥。この混乱の最中、どこから飛んで来たかなどわかるはずもなかった。右手が動かない。肩からぱっくりと吹き飛び僅かに血が吹き出ているのを見た時ソレは稲妻を纏った剣を振り下ろす少女を落ちた首が最後に見たのである。
「ゼェー、ゼェー、やっとだぜ。ツっ、まだ頭がクラクラするぞ‥‥‥。兄貴、どう動くべきだ?元を叩くか?」
走って来たようで、息も絶え絶えなカウステスの兄妹。すんでのところで助かった兵士はそのまま気絶したようだ。大剣を杖のようにして息を整えるフランメル・カウステスは見上げるように兄に相談する。
「アホか、フラン。アルケシュの精霊弓食らってもピンピンしてる赤飛竜を剣士であるお前がどうやんだよ。生粋の剣士のお前空飛べんの?」
「う、それは気合で‥‥‥なんとかなる!」
「気合でなんとかなるんなら、こうはなってないだろうがっ!その脳筋なんとかならんのか、この愚妹!」
兄弟喧嘩しながら、バッサバッサと魔物を打ち倒す様はこういった状況に慣れている故か。あるいは彼女、フランメルの兄であるテスラの搦め手による支援の賜物かどうかは不明ではある。
「しっかし、随分と吹き飛ばされたもんだ。俺が倒した竜は〈黒〉だったからなぁ‥‥‥。ていうかなんであそこを集中的に攻撃してんだ?」
テスラは周囲を見ながら、今もなお上空を旋回しながらある区画を集中的に火球を吐く〈赤〉飛竜を見つめていた。なお、同じく吹き飛ばされた高位の冒険者である、森の狩人たるアルケシュと次期宮廷魔術師のフローレンスなどは、怪我をした兵士達を医療テントなどに運んだりして迎撃よりも支援に尽力している。そこそこのランクの冒険者はやはりというか魔物の数が多すぎて手が回らず、手一杯であった。故に自由に動ける高位の冒険者はこの兄妹だけと言っても間違いではなかった。
「さあ?そこに行けばいいんじゃね?私としてはアイツにガツンと一発叩き込めたいんだ!というより行こうぜ!兄貴!!」
余程赤飛竜に吹き飛ばされた事を根に持っているらしく魔物をそっちのけで兄の袖を引っ張っていく。
道中、襲いかかって来る魔物を切り倒し、魔法で動きを止め、それまた剣で倒すことを繰り返しながらチラッと横目で赤飛竜を追い続ける。
ようやく、全体が見える位置まで追いついた時、彼らは絶句した。
「「はっ!?」」
そこで彼らが見たものは、遠目で分からなかったが、さっきとは違って翼膜はボロボロで爪は欠け、鱗はナニカで一部ケロイドになっており、怒りを更に加速させた赤飛竜の変種と、ーーーー
服はボロボロだが、片目から可視できる程の高密度の魔力を迸らせ挫折消えたかと錯覚するほど速く斬り込む、彼らからは新人と呼んでいたエストレア。おそらく巻き添えを喰らい、気絶している兵士達と、眉間に風穴を開けた無数の魔物の死体であった。
ーー
「〜〜〜〜♪」
ポケット叩くとお菓子がひとつ、もうひとつ叩くとお菓子が二つ‥‥‥なんて鼻歌混じりに指弾きに砕いた瓦礫を装填し、魔物を撃ち抜いていく。
次第に二つの意味で待つことに耐えられなくなった魔物が撃って次に撃つ瞬間に飛びかかってくるが、軽やかに避け、蹴りを入れたり裏拳を当てたりする。加減なんてする必要がないので、当たると威力に耐えられなくなり粉々になる。
再生中の腕で裏拳を当てたりすると、やはりというか再びグシャグシャになる。その様ははっきりいってかなりグロテスクだ。
が、そこは倒した魔物の飛び散った血が皮膚に付着すると物凄い速度で再生していく。
そして、ここまで暴れれば上空にある赤飛竜は流石に気づく。
影が差し込むと同時に横に飛び抜いて躱す。先ほどまでいた場所は赤飛竜の脚で踏み抜かれていた。そのまま鎌首をこちらに向けて火球を吐き出してくる。
難なく躱す。見えているのであれば難しくない。一度は受けたが次は躱すと決めたが故に。
刀を振るえば切断には至らないが、浅くない傷を何度も躱しながら付けていき疲弊させていく。
火球が飛んでくれば、跳躍して建物の壁に張り付く。火球が爆発を起こし、瓦礫を散乱させるのを見ると再び跳躍、空中にある瓦礫に飛び移りながら飛竜に肉薄する。
飛竜も飛び回りながら、爪で引き裂こうとしても空を切るばかりで、火球を連続で吐き出しても陽炎のように当たらない。
「くくっ、当たらぬ気持ちはどうだ?」
その笑みは誰が見ても悪い笑みであった。
ーー
赤飛竜は頭に血が完全に上っていた。
何度も火球を吐き、時には肉弾戦を仕掛けるが‥‥‥全て躱されいなされた挙句その際に幾度も傷を負わされた。王である自分がここまで傷をつけられたのは初めてだった。
やはりこいつは危険だと明確に敵意を表すと大きく咆哮、そのまま上空へと上昇する。
これから行うのは今まで多くの敵を屠ってきたとっておきであり、大森林で頂点に立てた必殺技である。
上昇しながらエストレアの背後に回り自由落下による突撃を仕掛けてるのだ。無論、エストレアは赤飛竜が何をするのか疑問だったが、自由落下によるエネルギーを乗せた質量突撃。当然当たれば死ぬ可能性も出てくる。
奴のいる方向へと視線を向けるとテレパシーのようにある言葉が響いてくる。
「何だ、此れは‥‥‥。」
呟きとは別でそれは勝手に作動している。
ーー魔力充填、〈リリス〉との接続、不可。複数の経路を介しての接続、成功。〈リリス〉より受信を確認。
『深紅の万里眼』の安全機構第一段階解除。
『天の破光』解禁、魔力充填完了まで0・05秒。
視界にて目視で確認。〈リリスの仔〉の損傷が激しいため自動迎撃及び発動を開始。ーー照準照会。激突まで凡そ30秒‥‥‥。
発射可能まで20秒。計算上迎撃可能。
チャージ開始‥‥‥。
20%‥‥‥、40%‥‥‥‥、60%、チャージ加速開始、100%へ移行。
距離、残り20m。
発射します。
ーー
その瞬間、光の速さで深紅の光が彼女の片目からまるでレーザーのように閃いて赤飛竜を貫いた光景がエストレアの脳裏に焼き付いた。
直撃を食らった赤飛竜はきりもみに落下し激突音を響かせ、そして放たれた閃光はそのまま赤飛竜を貫通、遥か彼方で次元を引きちぎり次元断層を発生させるほどの爆発を引き起こした。
飛竜、墜つーーー。
続く。
こんな駄文でも見てくれる人、感謝。
まだ終わりじゃないですよ?




