迎撃開始 : 零
暑くなってきましたね〜、では投稿します。
「大丈夫かなぁ、あの人。かなり重傷だったでしょ?回復魔法かけてももつかなぁ?」
「不吉なこと言うなよ。ていうか失礼だろうが‥‥。にしても大移動か・・・・。エストさんが疑問に思ってたの現実になったな。」
先ほど駆け込んできた重傷の男は担架に運ばれてどこかの一室に運び込まれたのを眺めながらアンナとジッドは思ったことを口にする。
そもそも現代とは違い医療はもっぱら魔法に頼りきりだったりする。
包帯などなく、麻の布を巻くだけでそれ自体衛生的とも言えない。消毒液や麻酔もなく塩水がそれを代わりにしているのだとか。
また魔法自体四肢欠損を回復させるようなものは人間社会にはなく神聖国が魔族に指定してるエルフが納めているらしい。一般的に知られている魔法は傷の治りを保進させる効果だけだとアンナが以前言っていたという。
だから神聖国はやたらパンドラを攻略したがるのだ。
人類至上主義を唄いながら結局行き着くのは利益。
もちろんそれが正義ではないかと言われれば正しくもあり正しくない。
国の在り方としては一つの形でもあるからだ。宗教絡みの争いは過去も未来も変わらないということなのだろう。
そんな中で確認に行ってきたドランが青ざめた顔で戻ってきた。
「今確認してきたんだがヤベェぞ、砦からの報告じゃゴブリンやトロールは序の口でオーガ種がいるだけじゃなく飛竜までいるとよ。」
ドランの一言は周りにも聞こえていたようでかなりのどよめきが起きた。
ゴブリンやトロールは冒険者が下位ランクの依頼でよく対象になっているから分かりやすいがオーガ種はそれらを2ランク上をいく魔物である。
飛竜は言わずもがなであろう。はっきり言って国の軍隊を一部動員する必要があるくらいである。
「ちょっと、ドラン!飛竜って冗談でしょ!?色はわかる!?」
「アンナ落ち着けって!今騒いだところで状況は変わんねぇって!」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ!いいから答えなさいドラン!私の魔法で火炙りにしてあげようか?」
襟を掴まれてガクガクと揺すられるドランを見てジッドはアンナを静止させようとするが血が上ってるせいか効果がないようだ。しまいには火属性魔法で焼くとか物騒な単語まで出る始末。
最終的にエストレアがアンナを羽交い締めにしてドランを引き剥がした。掴まれていたドランが身元を整え一息いれると引き締めたような顔をする。
「直接見たわけじゃないから信憑性はあまりない。色は赤だそうだ。赤飛竜がいる。これだけでこの緊急依頼はAランク相当、かなりヤバめだ。」
ざわっ
赤飛竜。その単語を聞いたときこれほどふさわしい擬音はあるまい。
竜種は大きく分けて三つに分類される。ワイバーンはその序列では一番下である。飛竜の上に上位竜、そして頂点には魔族の一つとして認定されてる古代竜が存在する。上位竜は言葉を理解できるが魔法は使えず、古代竜はそれに魔法を使う。古代竜 は人が立ち入る場所にはいないので出会うことはまずない。
飛竜といえども普通の冒険者にとって脅威には変わりない。Sランクの冒険者であれば倒すことは出来るとされているが。
また、竜種ではないが龍と言われる存在もある。魔力、戦闘力、知力共に古代竜を遥かに凌ぐ力を持っているとされているため古代竜と同じく魔族と認定されているが彼らはパンドラの奥地にしか住んでいないのであまり知っている人間はいない。
ともかく飛竜はその強さを色で判別する。灰、黒、青、黄、赤、白という順で強さをわけている。ゆえに周りがざわつくのも無理はないというわけだ。
周りが落ち着くのを待っていたのかギルドの奥から受付嬢のエリザがやってくる。手元には丸められたポスターのような紙を持っている。
「今から緊急依頼をここにいる冒険者たちに発令します!依頼自体の危険度は高いですが少しでも人数が欲しいので、ランクは問わずとします!なおこれは国王陛下直々の勅令ですのでなるべく参加してください!」
ウルマト迎撃戦 ーー 開始 ーー
遡ること数刻前。
ギルドマスター執務室。
青ざめた表情で頭を抱える女性を侍女がハラハラしながら見守っている。
頭を抱える原因は先ほど領主の館にいき、王都の現状を知ってしまったことだろう。
王都における貴族の子息誕生会襲撃。
多くの子息たちが重軽傷を負い、一部に死者が出る。幸いというかウルマトの領主は風邪をひき休んでいたので巻き込まれずに済んでいたが、そのことを知ったとき大きく動揺したと言っていた。
「なぜ、このことを我々に知らせてなかったのだ?そこが分からん。早馬を出させた使者の通達が届くかどうか不安になってきたぞ‥‥。」
そしてなにより王族が揃って無気力になっているというのだ。特に王太子であるジェノム殿下が。そこから先は機密扱いになっており詳細は不明だったのだが。領主から聞いた話では好意にしていた貴族の子女を失ったからだそうだ。その子女というのが‥‥公爵家の一つクワイエット家の養女エストレア嬢だとか。
この襲撃のせいで多くの貴族達が無気力になり始めているのが問題だった。
隣国の帝国が軍備を整えているというのになにをしているのかと声にして叫びたかった。
「とにかく使者を待とう。現状がどうあれ対処せねばならんからな‥‥‥(あーー、もうやってらんないわよ!もう!)」
正直言って半狂乱になって暴れたいくらいイライラしていると自信を持って言える。黒い尻尾を苛立ちを隠そうともせずパタパタを振る。
依頼作成に取り掛かり羽根ペンを走らせた。
そのあと使者が緊急に使う伝書バトが戻ってきて包められた情報はやはり王都に関するものであった。
続く
まずは迎撃戦の序章となります、なるべく早く迎撃戦本編を投稿できるよう頑張ります。