動き出す不穏
ようやく、です‥‥‥ガクッ
ゴブリンを討伐したことでウルマトに帰還したエストレアとアシストのドランはギルドに足を運ぶ。
依頼の達成方法は様々だが今回のような討伐系の依頼は依頼を完遂後受注者は依頼者のところに行き依頼達成の証拠を貰った上でギルドに報告する。
依頼達成を誤魔化す馬鹿が少なからずいるらしくそれを防ぐため二重のチェックがある。依頼者は依頼を出す時依頼を達成したという証拠をギルドに提出しギルドがそれを確認、達成した受注者がそれを依頼者から受け取りギルドに提出するというわけだ。
それでもこのシステムには色々と穴があるのでやはり依頼が達成されず誤魔化されたという報告もある。
無論、発覚すれば衛兵に捕まり国の法律に従って処分される。これが貴族絡みともなるとと〜っても面倒なことになるのだが。
実際公爵家であったエストレア自身もそれを見たことがある。 子弟の親が司法の人間に賄賂を渡してなかったことにしようと。勿論エストレアが進言し露見されたことで親子と賄賂を受け取ろうとした者も揃って罰せられた。証拠がないと騒いでいたが証拠品である賄賂を隠せるはずもなく。
貴族の闇はドロドロである。あの時程自覚したことはない。出来の悪い昼ドラよりタチが悪い。
ーー
「はい、たしかに依頼達成を確認しました。お疲れ様です。こちらが報酬になります。」
受付嬢のエリザから報酬を受け取り一足早く終わっていたジッド達のいるテーブルへ歩を進める。
「お疲れ様〜、どーだった初依頼は?」
手を振りながらアンナが今回の依頼の成果を聞いてきた。すでに酒が回っているようでほんのり赤い。
「手こずることなく終わった。ただゴブリンの巣が近くに確認出来なかったのが気がかりだったが。」
エストレアが余裕淡々と答える。
「そーなのか、ドラン?」
「ああ、数えただけでも10は超えてたからな、巣が近くにあると思って探したが‥‥どこにもなかった。」
「マジか!」
「あらぁ、じゃあはぐれかしら〜?」
エストレアをよそに冒険者としての会話をするジッド達。対するエストレアは干し肉を肴に乳酒を飲んでいる。が、冒険者らしい仕草なのに優雅に見える。やはり貴族の立ち振る舞いはどんな時でも生きるのだろう。
だんだんジッドたちも軽く酔ってきたのか話も盛り上がってくる。
「つーかさ、ありえないって。エストさんを貶すわけじゃねぇけどさ‥ゴブリンを投擲で倒すなんてよ。」
「おい、ドランそれマジ?」
「本当〜?普段真面目だけど〜飲んだドランはホラ吹くから〜。」
確認するように聞くジッド。その他のアンナやガペットも耳を傾けながら視線をエストレアに向けた。
「俺が嘘つくとでも?あの場にいたんだからよ。もうエストさんは能力だけならSランクじゃねぇの?」
「言えてるな、ここのギルマスとやったらどうなるかな?」
不意に出てきたギルドマスターという言葉にピクリとエストレアは反応する。
「‥‥‥。わかんねぇなぁ‥‥。っていうかギルマス自体よっぽどのコトがねぇと部屋から出ねぇしなぁ。前見たのはいつだっけ?」
どうやらここウルマトのギルドマスターは彼らから見て謎多き人物のようである。エストレアもここのギルドではないものの他所のギルドのギルドマスターなら顔を合わせたことはある。あの時は養父アーノルドと一緒だったのでよく覚えている。
「えーと、去年のパンドラ征圧の有志を募ったときじゃなかったっけ?渋々承諾したとか愚痴こぼしてたね。」
アンナが記憶を掘り起こしてジッドの質問に答える。
「そうだ、未だ魔族の小規模のゲリラ展開があるから参加しろ、参加すれば神の加護が〜とか神聖国の坊主がいってるけど全然進歩ねぇんだよな。今のパンドラって。」
全然知らなかったと心の中で呟く。今現在エストレアの目的を早く果たすのにはパンドラ征圧に参加するのが早いようだ。
ただ神聖国、ここが厄介なのである。ここの国は人類至上主義を謳う国で少しでも異種族の血が混じってると分かるだけで国総出で弾圧する過激国家である。
加えて英雄にして剣聖アーサーを抱えている国でもある。
「なあ、そのパンドラ征圧はどのくらいの周期で回っているか分かるのか?」
エストレアは意を決して聞いてみる。
「ん?それだったら神聖国ならいつもあるぜ。この国に来るってもまちまちだしなぁ。エストさん参加すんの?止めとけ、あの国の坊主どもは悪徳官僚が可愛く見えるくらいゲスな連中ばっかだ。前金に困って依頼で神聖国に護衛で行ったんだがあの野郎俺のアンナに色目使いやがって‥‥。」
後半愚痴になっていったがなるほどやはり良い噂はないようだ。宗教が歪んだ国家というより集団というのはいつの時代にもあるようで転生前も中東での宗教のいざこざか絶えなかった。
その時だ。ギルドの入り口から慌ただしく傷だらけの男が駆け込んできたのは。
「何事ですか!?」
受付嬢のエリザが経験からか険しい顔つきになる。近くにいた冒険者が駆け込んできた男を支えて介抱する。息を荒くして衝撃の発言が。
「ハァハァ、ここに無数の魔物の群れが近づいてる!既に幾つかの村が潰された!くそ、なんで気付けなかったんだ!迎撃しねぇと間にあわねぇ!!ハァ、ハァ、大移動だ!」
冒険者なりたてのエストレアにとって最初の試練が今ここに。
続く
次、なるべく早く出せるよう頑張ります。現在ハーメルンでリハビリしてます。Orz