魔獣:ゴブリン
大変遅くなりました。更新です。
ギィギャャャャャァァァァアァ!
ギィギィギャオ!ギャア?ギャア?
ギャ!ギャア!
それほど深くはない森の中で二人の男女が緑色をした小人のような何かに囲まれていた。
彼らの持つ武器は武器とは言えず木の枝や錆び錆びのナイフでありどう見ても威力は期待できそうもない。
彼らはゴブリンと呼ばれる魔獣であり、亜人ではない。
一方囲まれている二人の男女のうち一人は黒のラインが入ったロングコートの少女。真紅の長髪をポニーにしてエメラルドを思わせる翡翠の瞳を持つ。
もう一人はレザーアーマーを纏い、さらにフード付きの外套をつけた男。
少女はエストレア・クレイ・アルシャイン。
養子ではあったもののかつては貴族の娘で前世の記憶を持っている。前世は歴史は浅いものの明治から続いく様々な流派を取り入れた古武術、紅流だ。
が、彼女エストレアは人にあらず。明かすこともバレることもあってはならない存在である。
吸血姫。
15年前に最後の真祖吸血鬼が剣聖アーサーによって滅び去り、最後の真祖がパンドラの地に築いた王国は崩れ人々は平和を手にしたと公には発表されている。
彼女には目的があった。いずれパンドラの地に赴き、魔族と合流し魔族を一つにまとめ国を起こす。
この世界に生まれ落ちる前、虚無の空間で囚われたリリスとの約束を果たすため。
人々は彼女を、魔王だ、何だと騒ぎ、殺す為に勇者などを送るだろう。
あるいは、性根が腐った神聖国の坊主共が来るかもしれない。
だからまだ隠しておくのだ。吸血衝動も食事で抑制できる。
まだそのときではないのだから‥‥
ーー
「なあ、囲まれたがこの場合どうすればいい、先輩?」
エストレアは敵に囲まれた時の対処法を知っているが相方がいるため、一応確認する。 決して先輩を立てようとかではない。多分。
「んー、ゴブリンとはいえ囲まれてるからな。しかも俺たち遠距離対応してねえし。カウンター狙うしかねぇな。闇雲に突っ込めば袋叩きにされて死ぬ。」
なるほどとエストレアは頷く。ドランは僧侶、その中でも近接特化のモンクだ。そしてエストレアもどちらかといえば少しずれるが胸に七つの傷を持つある男と同じである。
とはいえエストレアも同じことを考えていた。武器を持った集団に闇雲に突っ込んで勝てるはずもない。
エストレアは遠当てがあるがそれだけで制圧するのは無理だ。
そもそも遠当ては奇襲技に分類される方だ。ゴブリンであればいけるかもしれないが今のところリスクが高すぎる。
‥‥杞憂であることも否めないが。
実際のところこれは杞憂である。魔獣ゴブリンであれば二人の攻撃など見ることも出来なければ捉えることも出来ない。
故に
ドゴンッ!グシャッ!ベチャッ!
「ストライク!え、弱っ!」
「お前、人間かどうか怪しくなったぜ‥‥、どうやったら石ころ投げてゴブリンの頭が爆発すんだよ!」
みれば一体のゴブリンの頭部が粉々に砕け散り脳漿をブチまけている。そばには石を投擲し、フォームを決めたエストレアが。
二人は遠距離の攻撃方法がない、が手段がないわけではない。ないのであれば作ればいい。
木の枝でも石ころでも。
先ほどはエストレアが足元にあった野球ボールぐらいの石ころを目の前のゴブリン目掛けて投擲しただけだ。投擲を甘く見てはいけない、一般人でも石ころを投げれば人を殺せるのだ。
先ほどはドランが叫んでいたが、ドランの言う通り石を投げたくらいでは頭は粉々にはならない。
これは彼女の特性ゆえの弊害であろう。
ーー
結果的にはその場にいたゴブリンは全てエストレアが投擲で終わらせていた。その後周囲を確認したが巣は確認できずかつ魔物も確認できなかった。
「おかしいな、ゴブリンがいた以上巣があるはずなのだがなぁ‥‥、どうなってんだこりゃ?」
ゴブリンを見たら近くに巣があると思え。それが常識である。
「魔獣の生態などよくわからないが‥‥、単に群れからはぐれたあるいは追い出されたはぐれという線は?」
「あり得るが‥‥まだわからんな。まあ、気にすることはないんじゃないか?」
巣を作り集団で確認されるゴブリン。ゴブリンは知能が高いとは言えずそのため巣から一定の距離しか行動しない。その範囲もあまり広くはない。
なので巣が確認できないのなら考えられるのは巣から追い出された可能性だ。エストレアはこれなら納得がいくがなぜか釈然としない感覚に違和感を覚えた。
何だ、何かがおかしい。
あのゴブリンは遭遇した時自分に怯えていた様な‥‥。
「おい、聞いてるか!多分依頼は完了だ。帰んぞ。あと考えんのもいいが剝ぎ取んねえと依頼の意味ねぇぞ?」
どうやら考え事に没頭していた様でドランが大声で呼びかけていた。すでにゴブリンの討伐部位である両耳を剥ぎ終えていたようである。
「すまない、次からは気をつける。じゃあ戻ろうか。」
依頼達成を報告すべく歩き始めた。
がこれはエストレアの吸血姫たる力に怯えて逃げ出したその先でまた遭遇するという不運なゴブリンであることは知る由もなかった。
魔物達の大移動がすぐ近くまで迫っているのはまだ知らない。
つづく
やっとだぜ‥‥‥。これからはリハビリを兼ねてだんだん更新していきます。