表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/125

シーン 94

 転生してから一ヶ月以上が経った。

 最近は生活を共にするようになったペオも我が家のペースに慣れてきたようだ。

 家事のほとんどはペオが積極的に行ってくれるため僕の付け入る隙はほとんどない。

 思いつく限りでは夕食の準備と風呂当番の時くらいだ。

 ペオは僕の作る和食が気に入ったらしく美味しいと言って表情を緩ませている。

 そのため今後は洋食と違う和食の独特な味付けをマスターするのが目標らしい。


 ちなみに今日は僕にとって待ちに待った日だ。

 以前発注しておいた風呂の設備が出来上がり午後には搬入作業を予定している。

 今までは風呂当番の僕かニーナのどちらかが井戸からバケツで何度も往復していた。

 そんな作業も今日でおしまいだ。

 午前中に今日の予定を済ませ業者の到着を待っていると数人の部下を従えた男性がやってきた。


 「ご注文の品をお届けにあがりました」

 「ご苦労様です。では、早速お願いします」


 荷車で三台分になる大量の資材が庭に運び込まれていく様子を眺めながら工事の完了を待つ。

 装置の全体像は予想していたよりも大きいが、これでも最初に想定していた貯水タンクより小さい。

 これよりも巨大なものとなるとさすがに庭が狭くなってしまう。

 今回の規模で荷車に乗せて運べるギリギリの大きさだ。

 業者の男たちは手際よく作業にあたり図面通りに設備を組み立てていった。

 工房で作られた部材は運び込んで組み立てるだけなので現場で大きく手を加える必要はない。

 見事な連携プレーで装置の設置が終わった。


 「作業が終わりましたのでご確認ください」


 一つ一つ説明を受けて設備に不備がないか確認していく。

 装置は大きな水槽に直径五センチほどの配水管が取り付けた簡素な作りだ。

 そのため水槽と管の接合部がしっかり取り付けられ水漏れはないかを確認する。


 「一度水を流してみましょう。不備があればすぐに調節します」


 言われて水を井戸から水を汲み水槽に水を流し込んだ。

 水を通してみたが水漏れは見つからない。

 どうやら成功らしい。


 「問題はないようですね」

 「ありがとうございます」


 引き渡しが終了すると男たちは帰っていった。

 代金の支払いは後日となっているため改めて挨拶に行く予定だ。


 「レイジ様、これはどのように使うものなんですか?」


 作業を見守っていたペオが興味深そうに装置を眺めた。

 初めて見るものだから知的好奇心をくすぐられたのだろう。


 「そうか、これを頼んだのはペオが来る前だったよな。簡単に言えば井戸から直接湯船に水を引き込む装置だ」

 「直接水を引き込む?それは素晴らしい装置ですね。これはレイジ様がお考えになったのですか?」

 「あぁ、細かいところはおまかせだけどな」


 説明を聞くとペオは感心しきりの様子だ。

 彼は実際に管を通って室内の浴槽に水が注がれる様子を見て大きく頷いた。


 「今晩から風呂の用意が楽になるぞ」

 「そうですね」

 「そうだ、今晩一緒に風呂に入らないか?」

 「い、一緒に…ですか?」

 「あぁ、男同士、裸の付き合いだ」

 「そ…そうですね。わかりました」


 ペオからあまり歯切れの良くない返事が返ってきた。

 遠慮でもしているのだろうか。

 きっと「主人と使用人が同じ風呂になど…」と考えているのだろう。

 僕は彼のことを家族の一員だと思っているのでその考え方を改めさせなければならない。

 夕食が終わり風呂の時間になった。

 着替えを用意してペオと風呂へ向かう。

 脱衣場で服を脱ぎ先に湯船に浸かった。

 しかし、いつもならテキパキと動き回るペオはまだ脱衣場にいる。


 「ペオ~どうしたんだ?」

 「は、はい、すぐに!」


 声がしてペオが入ってきた。

 タオルで前を隠しうつむき加減で掛け湯をする。

 しかし、湯船には入らず黙って僕を見ていた。


 「どうした?遠慮せずに入れよ」

 「は、はい…すみません」

 「別に謝る必要はないだろ?」

 「そうですね…」


 さっきからペオの様子がおかしい。

 どこか体調が悪いのだろうか。

 いつも無理をしているところがあるから疲れが溜まっている可能性もある。


 「調子悪いのか?」

 「いえ…体調は悪くないです」

 「ならどうしたんだよ?」

 「レイジ様に不快な思いをさせてしまうかもしれません」


 ペオは肩を震わせながらそう呟いた。

 どこか思い詰めた表情は一目で深刻そうだとわかる。


 「不快?何か知られたらマズいことでもあるのか?」

 「いえ…僕はあまり気にしないのですが、見られた方は驚かれるので…」

 「驚く?何を隠してるのか知らないが俺は大丈夫だ。相当なことでもないと驚かないぞ」

 「で…では…」


 そう言ってペオは背を向けた。

 それを見て僕は思わず言葉を失う。

 背中には無数の傷跡があり大きなものは数センチに渡っている。

 見たところかなり前に負った傷のようだ。


 「その傷…」


 傷を見て言葉を失っているとペオは傷の説明を始めた。

 話によれば教育的虐待によってつけられたらものだと言う。

 教育的と説明したのは体罰によって物事を身体に教え込まれたからだ。

 一方的な暴力とは違い意味合いとしては動物の調教と同義だった。

 特に使用人になった当初は毎晩のように鞭で打たれ痛みで夜も眠れなかったそうだ。

 現在は痛々しい傷跡だけが残っているが痛みはないらしい。


 「虐待…か」

 「あまり思い出したくはありませんが、もはや過去の出来事です」

 「辛かったな…」


 僕は無意識にペオの頭に手を伸ばし撫でていた。

 健気な彼を見ていたらとても愛おしく思う気持ちが込み上げてきた。


 「レイジ様…泣いていらっしゃるのですか?」

 「…?!」


 ペオに言われて自分が泣いているのに気が付いた。

 慌てて顔を洗ったが次から次へと涙が溢れ視界が霞んでいく。


 「…僕のためにレイジ様が悲しい思いをする必要はありません」

 「ペオ…お前はもっと自分を大切にするんだ。俺たちは家族になったんだ。嬉しいこと、悲しいことがあったら一緒に共有するんだぞ」

 「レイジ様…」


 今度はペオも泣き出してしまった。

 風呂に二人のすすり泣く声が響いている。


 「レイジ、湯加減はどうだ?」


 突然、脱衣場の方からニーナの声が聞こえた。

 僕らは慌てて顔を洗いお互いに顔を見合って声もなく笑った。

 ニーナに聞こえないようこのことは二人の内緒だと確認して何事もなかったように湯船の中で足を伸ばす。


 「…あ、あぁ、ちょうどいい湯だぞ」

 「そうか、私が丹誠込めて沸かした風呂だからな。さぞ気持ちいいだろう」


 そう言ってニーナはおもむろに風呂の扉を開けた。

 それを見て僕とペオは目を丸くして慌てつつ目線を逸らした。

 そこには生まれたままの姿をしたニーナが男らしくタオルを肩に掛けて立っている。

 僕はこれで二度目だが何度見てもなれるものではない。

 ペオに至っては顔が真っ赤になりのぼせているようにさえ見える。


 「ん?どうしたんだ二人とも」

 「お、お前こそ何しに来たんだ!」

 「決まっているだろ、私も裸の付き合いをしに来たんだ」

 「だ、だからって前くらい隠せよ!」

 「隠す?気にするな、見られて減るものじゃない」

 「お、お前が気にしなくても俺たちが気にするだろうが!」


 それを聞いてニーナはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

 どうやら確信犯らしい。

 ニーナは僕らの反応を見て楽しんでいた。

 普通、ペオや僕くらいの男子は「性」に対して敏感だ。

 前世で中が良かった同級生たちは必死で稼いだアルバイト代を使ってお気に入りの成人向け雑誌を買っていた。

 それを他の仲間たちと交換すると言うのがささやかな楽しみだった。

 あれはあれで青春のいい思い出だが、実際に写真で見るのとは違うことに気が付く。

 もちろんテレビの画面を通じた映像と比べても臨場感は比べものにならない。

 真っ当な男子であればこうした状況を一度は夢見るだろうが実際に体験すると対応に困ってしまう。

 以前は混浴の露天風呂で一緒に入った経験はあるものの、入浴剤も入っていない湯船では隠す物も隠せない。


 そんな僕らの様子を楽しみながらニーナはそのまま掛け湯をして湯船に浸かった。

 幸い我が家の風呂は大人が同時に四人ほど入れる巨大な浴槽だ。

 一人で入れば湯の無駄遣いではと思うほど広い。

 だから三人で湯船に浸かってもまだ余裕がある。


 「ふう…適温だな」


 ニーナはタオルを頭に乗せて大きく伸びをした。

 露天風呂ほどではないが足を伸ばして浸かれるため窮屈な思いをすることもない。


 「…に、ニーナさん…足が…当たってます」


 ペオがうつむき加減で申し訳なさそうに声をあげた。

 よく見るとペオのお尻にニーナの足が当たっている。

 この場合、故意に当てていると言うのが正解だろうか。


 「気にするな、スキンシップと言うヤツだ」


 ニーナの足が動く度にペオはアンニュイな表情を浮かべた。


 「それ、スキンシップを通り越してセクハラだからな?」

 「そうか?少年は喜んでいるように見えるぞ」

 「べ、別に喜んでなんか…」

 「そうか?じゃあレイジに…」

 「やめろ!」


 食い気味にニーナの発言を遮った。

 こう言うことは先手を打つに限る。

 少しでもタイミングが遅れれば彼女のペースになってしまうのだから。


 「何だ、連れないな」

 「何だじゃない…まったく、せっかく男同士で親睦を深めてたのに。なあ、ペオ?」

 「は、はい」

 「ほお…ではその親睦というヤツを聞かせてもらおうか?」

 「言っただろ、男同士でって。内緒だ」


 少しでも主導権が取れればこちらのペースだ。

 ただ、この均衡を打ち破る気配を脱衣所に感じた。

 摺りガラスの向こうで人影が動いている。

 そして、ゆっくりと扉が開かれた。


 「お、お邪魔します」

 「さ、サフラ!?」

 「おぉ、サフラちゃん、遅かったじゃないか。ほら、入った入った」

 「さ、サフラさん…その格好…」


 ペオが驚いたのも無理はない。

 恥ずかしがり小さなタオルで前を隠しているが小さく膨らんだ胸元がタオルの隙間から微かに見えている。

 その様子は全部が見えているよりも色っぽい。

 ニーナとは違いサフラは意図してやってはいないだろう。

 恥じらいを持っての仕草だった。

 もし、これが意図するところだとすればそれはそれで問題だ。

 この場合、健全な男子としては願ってもないチャンスとも言える。

 それでも僕はサフラの保護者と言う立場から下手な気を起こすつもりはない。

 何度も自分に言い聞かせ膨張しようとする欲望を理性で無理やり押さえ込んだ。


 「うん…ちょうどいいお湯」

 「だろう?私が沸かしたんだ」


 女性陣はのんびりと風呂に使って日頃の疲れを流している。

 対する僕とペオは生きた心地がしない。

 

 「ん?サフラちゃん、先週より少し大きくなったか?」

 「や、やめてくださいニーナさん」


 そう言ってニーナはサフラの胸を指で突いた。

 今、僕の中にある感情は二つ。

 「けしからん!」と言う父親の気持ちと、「いいぞ!もっとやれ!!」と言うニーナを応援する気持ちだ。

 ただ、目のやり場に困るためできれば止めてもらい。

 ペオは先ほどよりも顔が真っ赤になっている。

 長湯で湯あたりをしたのが原因か、それとも性的な刺激が強すぎたのか。

 どちらにしてもあまり余裕はないだろう。

 僕はフラフラになったペオを連れて一足先に風呂をあとにした。


 「何て一日の終わりだ…。まあ、役得といえば役得…か」


 リビングのソファーに湯あたりをしたペオを寝かせ濡れたタオルを額に乗せてやる。

 介抱をしながら窓の外に見える夜の街を静かに眺めた小さく溜め息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ