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シーン 7

 イーストランドにある交易都市には大陸中から多くの商人が集まり、様々な交易品を売買する市が開かれている。

 必要なものは交易都市に行けば何でも揃うと謳われる品揃えだとか。

 行商人の間では交易都市で露店が出せれば一人前といわれるほどで、駆け出し商人の登竜門にもなっている。


 他にも人間族と敵対関係にあるドワーフ族は大陸の北部「ノースフィールド」と呼ばれる極寒の地に住んでいる。

 北の大地は一年中凍りに閉ざされた世界で、地上に暮らす生物のほとんどが適応できない環境と言われ人間はもちろん亜人や魔物の姿はほとんどない。

 また、大陸南部に広がる「サウスフォレスト」と呼ばれる森林地帯にはエルフ族が住んでいる。

 どちらの地域も人の足で踏み入ることは難しく長い間未開の地とされてきた。

 特に大陸の南部には毒を持った虫や危険な猛獣などが多く生息し、それらの知識と対処法を知らなければ無事に帰還できる確立が極めて低くなる。

 

 反対にゴブリンなどの亜人種は大陸の至るところに分布しているので特定の居住域はないらしい。

 例外として「ジャイアント」と呼ばれる巨人族は亜人の中でも特に集団行動を好み、普段は北方の外海に位置する「ジャイアントランド」と呼ばれる島に暮らしている。

 その島は名前が示す通りジャイアントたちの楽園で未だかつて島の全容を把握した人間はいないそうだ。

 それを難しくしているのも亜人種最強と恐れられるジャアイントの存在で、いくつかの種類が確認されているが、ハンターギルドが公式に発表する討伐難易度はCからAランクまでと極めて高い。

 ただ、中には集団行動を好まない個体も居るためジャイアントランドを離れ単独で大陸中を移動する亜種もいるという。

 魔獣についても亜人とほぼ同様の行動パターンでほとんどが好戦的で気性が荒いそうだ。

 詳しく話をしてくれたマリオンたちに礼を言い、今日のところは宿へと戻った。


 翌朝、昨日の客室係が部屋に食事を運んできた。

 スイートルームの利用者にはモーニングサービスがついているらしい。

 客室係によれば、一般客の場合は一階にある酒場での食事となる。

 ブレターナでは朝と晩の二食制が一般的で、王族や貴族など限られた地位の豊富な財産を持つ者たちは例外として三食制の生活をしているのだと教えてくれた。


 食事が終わると身支度を済ませアルトラに礼を言って宿をチェックアウトした。

 これから向かうのは昨晩話に聞いたハンターギルドの支部だ。

 マリオンの話では手配中だったゴブリンを倒した報酬として懸賞金が貰えるらしい。

 ハンターギルドは町の南部にあり一見するとログハウスのような木造建築の建物だった。

 受付に着くとカウンターの向こう側に座る小柄で初老の男性に声をかけた。

 顔にはいくつかの傷痕があり、歳を重ねて出来た深い皺も刻まれている。

 僕を見る鋭い眼差しには凄みがあり、おそらく彼もハンター経験者だろうと予想がつく。


 「アンタ、昨日ゴブリンを倒したっていう旅人かい?懸賞金を受取りに来たんだろう?」

 「えぇ、その通りです」

 「準備なら出来てるよ。懸賞金は金貨が二枚と銀貨が五枚。残りは銅貨での支給になる」

 「構いません」

 「では、これが懸賞金だ、受け取んな。あと、これが明細の証書だよ」


 そう言って懸賞金の入った革袋と明細書を渡された。

 無事に受け取りを済ませ外へ出ようとすると、壁に張り出された賞金首の情報と似顔絵や特徴などが書かれたポスターが目に飛び込んできた。

 ポスターを観察してみると昨日倒したゴブリンの他にオーガやコボルトといった亜人の手配書が張り出されている。

 中にはドワーフやエルフのものもあった。

 ポスターを見て気が付くのは亜人や魔物よりもドワーフやエルフの方が難易度も高く懸賞金も高額という点だ。

 特にエルフの手配書にはBやA難度のモノがあり、ゴブリンやオーガのEやD難度よりも数が少ない。

 この世界に来て初めて会った商人も言っていたが、人間族の中にはエルフ族に対する私怨を持つ者もおり、そうした人たちが依頼をして懸賞金を吊り上げているようだ。

 一通り見終わるとギルドを出てマリーナの家に向かった。

 家では畑仕事へ向かう準備をしていたマリーナと朝食の後片付けをする母親の姿があった。


 「あら、レイジ様。おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

 「あぁ、おかげでゆっくり休めたよ。今から仕事かい?」

 「はい。今はその準備をしておりました。レイジ様はこの後のご予定は?」

 「今日からまた帝都に向けて旅に出ようと思う。だからその前に一言挨拶をと思ってな」

 「そうでしたか。それはお気遣いありがとうございます。またローヌルにお越しの際は声をお掛けください。母も喜ぶと思います」


 マリーナは深々と頭を下げた。

 女性に感謝されるのは男冥利に尽きる。

 それに、人助けをして生活の糧を得られるのなら、この世界で生き延びる手段としてハンターを選ぶというのも一つの手だ。

 幸いゴブリン程度なら銃を使えば簡単に倒すことができる。

 ハンターにならずとも賞金稼ぎとして生計を立ててもいいだろう。


 「そうか。では、そうさせてもらおう」

 「あ、そうでした。町長より連絡を受けております。町を出る際は一度お寄りくださいとのことでした」

 「なるほど。町長にも世話になったので挨拶に向かうところだ。ちょうどいい、さっそく向かうとしよう」

 「レイジ様、お気をつけて旅をお続けください。ご武運をお祈りしております」

 「ありがとう」


 マリーナに別れの挨拶を済ませて町長の家に向かった。

 町は徐々に活気を帯びており、次の町へ向かう旅人の姿も見える。

 町長の家は宿のすぐ近くにあり簡単に見つけることができた。


 「すみません、アスリムト殿はご在宅でしょうか?」


 戸口に出てきたのはメイド服姿の中年女性だった。

 着ている服装からも奥さんという雰囲気はなく、下働きをする使用人のようだ。

 事情を知っているのか中へ入るように案内されると応接室に通された。

 革張りのソファーが対面に並ぶ応接室は、調度品こそ宿のスイートルームには劣るがなかなかの名品揃いだ。

 部屋の雰囲気に恐縮していると奥から町長が現れた。


 「これはレイジ殿。ご足労いただき申し訳ない。昨晩はよく眠れましたかな?」

 「えぇ、旅の疲れを癒すことができました。感謝いたします」

 「それは良かった。レイジ殿は今日よりまた旅をお続けになられるのでしょう?」

 「そのつもりです。急ぐ旅ではありませんが、帝都に行かねばなりませんので」

 「さようですか。少々で申し訳ないのですが、旅の道具を用意させましたのでお持ちく ださい。見たところ旅の道具をお持ちではなかったので勝手ながら私が用意されました。きっと旅の役に立つでしょう」


 そう言って先ほどのメイドを呼び出し、用意していた荷物を持って来るようにと伝えた。

 運ばれてきたのは革製のリュックサックだ。

 中には非常食の干し肉や止血剤、鎮痛効果もある乾燥した薬草が収められていた。

 他にも何かと便利な果物ナイフやロープ、木製の食器や水筒など、旅をする上で役に立つ品物が揃っている。


 「これは…宿の件といい、誠に申し訳ない限りです」

 「いやいや、これくらいのことしか出来ずこちらこそ申し訳ない。それよりも、レイジ殿は剣の腕前に自信はありますかな?よろしければ昨日のゴブリンが所持していたサーベルを修理しておきましたが」


 「剣ですか。お恥ずかしい話ですが、剣の腕前は自慢できるものではありません。それよりも、頂けるのであれば持ち運びに便利で扱いやすいナイフの方が助かります」

 「さようですか。ではそちらの準備をさせていただきましょう。こちらの書状を持って鍛冶屋をお尋ねください」


 アスリムトは取り出した書状に新しく何かを書き加え手渡してくれた。


 「ありがとうございます」

 「それとこちらは通行証になります。検問にあった際ご提示ください。きっと役に立つでしょう」

 「重ね重ねありがとうございます。またこちらへ寄る機会があれば是非お会いしたいと思います」

 「その節は歓迎いたしますので、故郷へと帰ってきた気持ちでお越しください」


 町長に別れを告げて外に出た。

 書状を手に教えられた鍛冶屋を探すと、町の東部に目的の店を見つけた。

 目印は高い煙突で先端からは白い煙が青空に伸びている。

 店内に入るとねじりハチマキをした色黒の男性が剣を砥石にかけて刃先に命を吹き込んでいた。


 「あの~町長からのご紹介で来ました、レイジといいます」


 仕事中の男性に恐縮しつつ声を掛けた。

 男性は作業の手を止めて快く応じてくれた。


 「いらっしゃい。町長の言っていた旅の方だね」

 「はい。それで、こちらを渡すようにと言われて来ました」


 そう言って先ほどの書状を手渡した。

 書状を読んだ男性は何やら頷いている。


「なるほどなるほど。では、アンタにあった短剣を見繕わせてもらうよ。そこに掛けて少し待っててくれ」


 工房の片隅に置かれた丸椅子に腰掛け男性の帰りを待った。

 店内には様々な形の剣や槍などが置かれ一部はそのまま販売されている。

 数は少ないが甲冑も置かれていた。

 彼の他に従業員が見当たらないので一人で切り盛りしているようだ。

 感心していると男性が革製の鞘に入った短剣を持ってきた。

 短剣と言っても刃渡りが三十センチ近くある。

 分類としては短剣と長剣の間、ショートソードに分類されるだろうか。


 「お待たせしました。こちらになります」

 「これは?」

 「マインゴーシュという短剣です。斬るという目的より剣戟を受け流すのに使い易いよう、長さを調節してあります」

 「剣戟を受け流す…。なるほど、護身用に良さそうですね。気に入りました」

 「それは良かった。鞘は腰に装着しやすいよう革のベルトと一体化しておきました。長さも調節できるので、ご自由にどうぞ」


 説明の通り腰にベルトを巻き付けて携行するらしい。

 マインゴーシュは日本刀で言うところの「脇差」とは異なり、左手で扱えるよう鞘が腰の右側についている。

 右手は銃を使うため左手仕様なのはありがたい。

 万が一、間合いに入られて時もマインゴーシュで剣戟を払えるだろう。

 実戦で使うには慣れが必要なので、これから時間を見つけて修練していけばいい。

 幸い時間は嫌というほどある。

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