シーン 6 登場人物紹介
登場人物紹介
マリーナ 21歳
ローヌルの町にする農家の娘。ゴブリンに襲われているところを主人公に助けられた。幼い頃に父を亡くし、今は母親と二人暮らしをしている。主人公曰く美人とのこと。
アスリムト 71歳
ローヌルの町長。白髪に白い髭と年齢を感じされる老人。主人公が感じ取った雰囲気から温和な性格とのこと。
アルトラ 68歳
アスリムト町長の親類。町で一番の高さを誇る宿屋の主人。
目を覚ますと柔らかい布団に包まれていた。
最初に目に飛び込んできたのは外のわずかな月明かりに照らされた天井のシャンデリア。
眠る前にここが夢の中という期待はハズレてしまった。
正確にはわからないが、きっと宇宙のどこかにある別の惑星だろう。
窓の外を見ると暗くなっていた。
時計がないため詳しい時間はわからない。
部屋の中は薄暗いが月明かりのおかげで何も見えないということはなかった。
ベッドから身体を起こし窓際に立って外を見る。
町の中は松明が灯され歩きやすいようになっていた。
家々にも明かりが見えるため、人々が寝静まる深夜と言うわけではなさそうだ。
僕は好奇心から外に出てみることにした。
夜の散歩というのも悪くないだろう。
一階に降りると受付にアルトラが居た。
「これはこれはレイジ様。お部屋を気に入られたそうで、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ立派な部屋を用意していただき恐縮です。これから少し町を散策してこようと思います」
「そうでしたか。町の中であれば明かりもあるので安全でしょう。お気をつけて」
宿の一階には一般客も利用できる酒場が併設されている。
酒場と言ってもレストランのようなもので、大人から子どもまで思い思いに食事をしていた。
利用客はそれぞれ異なった顔立ちや服装をしているので多くが旅人か行商人なのだろう。
中には鎧を着た男の姿も見える。
武器こそ携行していないが、威圧的な風貌は見せるだけで抑止力の効果があった。
現代社会で言うところの警察官と言ったところだろうか。
それらを横目に表へ出た。
外は暗いといっても等間隔に松明が置かれ歩くのに支障はない。
宿場町というだけあり、宿の他にも馬を休ませる厩舎、旅に必要な装備や保存食を売る雑貨店があった。
これから本格的に旅をするなら最低限の荷物くらいは準備しておきたいところだ。
ただ、今は持ち合わせがないため外から見ていることしか出来ない。
散策を続けるうち昼間マリーナが襲われていた現場にたどり着いた。
暗くてよくわからないが現場には戦闘の痕跡がほとんど残っておらず誰かが現場を処理したらしい。
あのまま放置しておくのも不気味だが、片付ける方も大変だろう。
この世界には警察というものがないらしく、現場検証のような作業は行われないようだ。
現場から町の入口の方へ歩くと甲冑で身に包んだ二人の男の姿を見つけた。
酒場で見た甲冑の男と同じ格好をしているので同業者か関係者なのだろう。
どちらも手には槍を持ち町の外に睨みを利かせている。
「 …ん?アナタはもしやレイジ殿ではありませんか?このような場所へはどのようなご用でしょう」
二人のうち年長者の中年の男性が声をかけてきた。
名前を知られているのは気になったが、大方昼間のことで噂にでもなっているのだろう。
小さな町では噂は驚くほど早く広がるものだと聞いたことがある。
「いや、特に用というわけでは。町を散策していて、たまたま通りかかっただけです」
「そうでしたか。あぁ、自己紹介がまだでしたな。私は自警団で隊長を勤めるマリオンと申します。先ほどは姪のマリーナを助けていただきありがとうございました」
「マリーナさんの叔父さんでしたか。困っている人を助けるのは当然のこと。あまり気にしないでください」
「いやいや、なかなか出来るようなものではありませんよ。特にあのゴブリンを前にしてはほとんどの者が萎縮をする。レイジ殿は勇敢でお強いからこそ助けることが出来た。マリーナは実に運がいい。私はそう思います」
そう言ってマリオンは深々と頭を下げてきた。
感謝されることは気持ちがいいものだ。
「私からも礼を言います。マリーナは私の従兄妹ですから」
今まで黙って警備を続けていた男も頭を下げてきた。
従兄妹ということはマリオンとも親族ということだ。
小さな町だから近くに親類が住んでいてもおかしくはない。
顔立ちもマリーナに少し似て美男子で、体格もそれなりにいい好青年だった。
現代の日本に生まれていればきっと雑誌の読者モデルでも活躍できそうだ。
礼儀正しい性格もあって悪い印象はどこにも見当たらなかった。
「つかぬ事をお聞きしますが、お二人はハンターですか?」
自警団ということはそれなりに腕に覚えがあると言うことだ。
ハンターならゴブリンを一人でも倒せると聞いていたので、この二人もそうなのではと思った。
「私は正式にハンターのライセンスを持っています。これが紋章です。こちらのルミオンはまだ駆け出しの身ですがハンターギルドへは登録を済ませています。この町にはハンターの数が少なく、夜間の見張りは正規のハンターと見習いの二人体制で行っているんですよ」
「なるほど。そういうことでしたか。ではマリオン殿は相当お強いのでしょうね」
「いやいや、まだ修行中の身…と申しておきましょうか」
マリオンは謙遜したが隣に居るルミオンは微笑んでいた。
きっと、ゴブリン程度なら簡単に屠れる実力をもっているのだろう。
能ある鷹は爪を隠すというが、下手に自慢をされるより印象がいい。
「遠い異国の出身のため、ハンターについての知識に疎いのでお聞きしたいのですが、ハンターにはどのように就くのですか?」
「ハンターは帝都に本部を置く組織です。正規の職員として認められるにはギルドが定めた試験に合格しなければなりません。登録を済ませただけの者は“見習い”と呼ばれます」
「試験というのは具体的に?」
「二つの方法があります。一つは基礎から武具の知識や敵の急所など、講義を受けながら実戦を積んで行く方法です。具体的には先輩のハンターをサポートしつつ、実践経験を積みます。もう一つはギルドが指定する討伐対象を討ち取る方法です。討伐対象というのはギルドへ駆除の依頼があった魔獣やゴブリンなどの亜人です」
ブレイターナに魔獣や亜人が数多く存在いているという話は神様から説明があった通りだ。
昼間のようなゴブリンの襲撃は決して珍しい事件ではない。
町の中に居たとしても決して安全ではないため、彼らのようなハンターが常に見張りをしているというわけだ。
「討伐というのは、一人で行うのですか?」
「そうですね。ただし、討伐対象が複数いる場合や想定される難易度を超えていると例外になります」
「なるほど…」
「ちなみに討伐対象はギルドによって格付けされた難易度が定められています。難易度は全部で六段階あり、難易度が高いAから最低のFランクに区分されます。一人前のハンターとして認められるにはC難度以上の討伐対象を倒すのが条件になります」
「なるほど。ちなみに昼間のゴブリンはどの程度です?」
「一匹だけでしたので、EからD難度相当と言ったところでしょうか。ただ、ハンターでない者なら数名が農機具を持ち、取り囲んでやっと倒せるという程度。決して容易な相手ではありませんな」
「そうでしたか。それは知りませんでした」
つまるところ、ハンターは誰でも就けるモノではないということだ。
ハンターに就くには帝都にあるギルドへ申請する必要があるので、情報を得るためにもやはり帝都に行く必要はあり。
「あぁ、そうでした。昼間倒されたゴブリンには懸賞金が掛けられておりました。この町のギルド支部で申請をすれば懸賞金の支払いがあるでしょう」
「懸賞金?それはハンターでなくとも貰えるんですか?」
「はい。本来、ハンターギルドとは治安維持のために組織された組合。ハンターという職位は治安維持活動を公式に認めると、皇帝陛下が承認するものです。ですが、ハンターでなければ討伐対象を倒してはならないという取り決めはありません。中にはギルドに加入しない賞金稼ぎもおります」
「なるほど…そういう事でしたか」
「レイジ殿は長旅の途中で賞金首と対峙されたことがありませんでしたかな?」
「いえ、幸いなことに今日まで一度も」
「なるほど。では路銀を稼ぐ良い機会になりましたな」
「そのようです」
それからしばらく雑談をしていくつかの情報が得られた。
まず、帝都と呼ばれる人間族の中心地は大陸の中ほど、「ミッドランド」という地域にあるらしい。
ちなみにこのローヌルは「ウエストランド」に位置している。
ローヌルから帝都までは人の足で十日間程度の道のり。
馬車なら三日ほどで到着できるらしい。
また、街道の途中にはローヌルのような宿場町が二カ所といくつかの農村があるようだ。
他にも「イーストランド」には巨大な交易都市があり帝都に次ぐ人口が集まるらしい。