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シーン 4 登場人物紹介

登場人物紹介


狭山 令二サヤマ・レイジ19歳

本作の主人公。大学生1年生だった彼は授業中の不慮な事故により若くして亡くなってしまったが、死神と名乗る小さな光に原因を聞かされて彼が希望した異世界で第二の人生を歩むことになった。


武器:M1911(オリハルコン製)

特別な魔法がかかった拳銃。レイジはこの銃を秘かにチート武器と呼んでいる。



死神

主人公を異世界に送り込んだ張本人。少女の声を持つ神様。姿はホタルのような小さな光を放つ意識体で、実際の肉体は持っていない。主人公は「神様」と呼んでいる。

 走り始めて一時間近く経っただろうか。

 時計は持っていないので詳しい時間は分からないが恐らくそれくらいだろう。

 前方に町らしき家並みが見えた。

 全速力ではなかったため長距離の移動だというのに身体は思ったほど疲れてはいない。

 体力は以前に比べて何倍も強化されているようだ。

 今ならフルマラソンの世界新記録を塗り替えることだって簡単だろう。

 こればかりは神様に感謝をしなければならない。


 町に着くなり突然若い女の悲鳴が聞こえた。

 声の方を見ると全身が緑色の鬼のような化け物がサーベルを振り上げ、今まさに若い女を襲おうとしている。

 身長は一般的な成人男性とさほど変わらないが、筋肉の付き方が異常で筋肉達磨のような風体だ。


 僕は反射的に銃口を化け物に向け引金を引いた。

 発砲と同時に音速を超えた弾は、衝撃音を伴って化け物の利き腕の肩口に風穴を開ける。

 化け物は持っていたサーベルを落とすと、奇声を上げて僕の方を睨み付けてきた。

 本能的に攻撃を仕掛けた相手だと認識したのだろう。

 口からは涎を垂らし弾が貫通した右肩を左手で押さえながら全速力で突進してくる。

 文字通りの捨て身の攻撃に対し、僕は躊躇わず頭に向けて弾を放った。

 見事に眉間を撃ち抜いた弾は化け物の頭をザクロのように粉砕し、紫色の不気味な血液と脳漿を撒き散らした。


 思えばこれがこの世界に来て初めての殺しだ。

 戦いというよりは一方的な暴力。

 化け物は僕に敵意をもって攻撃を仕掛けてきたため、一応は正当防衛になるだろうか。

 足元に転がる死骸は人の形をしているものの、血液や皮膚の色からも化け物に違いはなく不思議と殺してしまったことへの嫌悪感はなかった。

 変わりにこみ上げてくる高揚感から少し興奮状態だ。

 この時初めて僕の中に巣くうドス黒い感情を知った。


 「あ…あの…助けて頂いてありがとうございました」

 「あ、あぁ、無事で何よりだ。怪我はないか?」

 「えぇ、ゴブリンから逃げる途中にかすり傷を少し。この程度で済んで良かったです」


 よく見ると二の腕に切り傷があった。

 ただ、本人が言うように致命傷というわけではなさそうだ。

 しっかりと手当てをすればすぐに傷口も塞がるだろう。

 ちなみに化け物はゴブリンだったらしい。

 ゴブリンは亜人族に分類される野蛮な種族で、知能は低いが好戦的でよく人を襲う。

 というのは記憶に残るマジサガの設定資料集より参照した情報だ。


 「そうか。とりあえず無事で良かった。では、俺はこれにて」

 「ま…待ってください。助けていただいたのですからお礼を…」

 「お礼なんて、そんな。困っている人を助けるのは当たり前のこと。気にする必要はないよ」


 今回の場合、与えられたらチート武器でモンスターを屠っただけだ。

 これがゲームの世界なら初めて最初に出会ったモンスターを一撃で葬ったことになり、ゲームバランスが著しく崩れているためクソゲー確定になる。

 ただ、あくまでもこの世界は現実だ。

 頬を撫でる風も草原の匂いも、暖かい日差しも、紛れもない本物だった。

 だから、この世界でいつかは遭遇するであろう命のやり取りをこの場で偶然行っただけだ。

 言ってみれば思っていたよりも早くに経験したに過ぎない。


 「いえ、命の恩人へのお礼です。お気になさらないでください」

 「そうか。では無碍に断るのも悪いな。わかった、厚意に甘えさせてもらおう」


 まだ先ほどの俳優気分が抜けていないが、徐々に元に戻していくつもりだ。

 助けたのはマリーナという女性で農家を営んでいるという。

 歳は僕より二つほど年上。

 世話好きの働き者という印象だった。

 顔はどちらかと言えば美形で、もう少し髪を整えて化粧をすれば男にチヤホヤされるだろう。

 マリーナがゴブリンに襲われたのは町の外にある農園だったらしい。

 農作業に向かった矢先、偶然居合わせたゴブリンと鉢合わせになり、突然襲われたのだとか。

 今回は一匹だったため捕まる前に逃げることができたが、複数居れば殺されていただろうということだった。

 あんな化け物が複数居たらと思うと背筋が冷たくなる。

 僕もマリーナのように丸腰だったら全力で逃げるだろう。


 彼女に案内されたのは木造の小さな小屋だった。

 この世界に住む農民にとっては標準的な住居らしい。

 家のすぐ隣には納屋があり、農作業に使われる道具が収納してある。

 マリーナは年老いた母親との二人暮らしで、父親は彼女が幼い頃にオークに襲われたという。

 今では母親を助けるためにマリーナが一人で農作業を行っているのだとか。


 娘に経緯を聞いた母親は深々と頭を下げると、急いで夕食の準備に取りかかった。

 その間、マリーナと談笑しながら世間話に華を咲かせる。

 しばらくして用意されたのは豪華とはいえないが腕によりをかけたという自慢の料理だ。

 メインディッシュは野菜をふんだんに使ったポトフで、主食のパンは何故か二種類ある。

 聞けば使われている小麦が違うらしく、一つはよく見る白いパンで、もう一つはライ麦を使った黒っぽいパンだった。

 食感はどちらも食べ慣れた柔らかい感触ではなくフランスパンのように固い。

 見た目や食感からバゲットと呼ばれる種類のパンだとわかる。

 ポトフは野菜によく味が染みていて美味しかった。

 野菜から出た旨味を上手に生かしていることがわかる。

 この世界の味覚が現代社会に慣れた僕の口に合わないのではと少し心配していたがこれなら十分に満足できそうだ。


 「如何でしょう?」

 「美味い。久しぶりに美味い料理を食べた気がする」


 もはや前世となってしまった現代社会が遠く思えた。

 母親が仕事をしているということもあり、食事くらいは自分で済ませるようにしていたが、自炊はあまり得意ではない。

 だから、誰かの手作りの食事を食べたのは久しぶりだった


 「そうでしたか。重ね重ね娘を助けていただき、ありがとうございました」

 「いやいや、礼には及ばない。ゴブリン程度なら何匹居ても問題はないだろうな」

 「それは何とも心強い。レイジ様は見慣れぬ身なりをされていますが、異国からお越しでしょうか?」

 「故郷は日本というところだ」

 「ニホン?それはどちらにあるのでしょう。帝都よりも遠いのでしょうか」

 「あぁ、とても遠いところだ」


 嘘は言っていない。

 帝都がどこにあるのかは知らないが地球にある日本に比べれば近所くらいのものだろう。

 帰ろうにも帰れない場所だから遠いと言っても嘘にはならない。


 「レイジ様は不思議な武器をお持ちでしたね。あれは何という武器なのでしょう?」


 マリーナは食事の手を止めて不思議そうに見つめてきた。

 知的好奇心が旺盛なのか、それとも話が好きなのかはわからない。

 どちらにしても会話のある食事は楽しいから、答えない手はなかった。


 「これは銃という。引金を引くとここから弾が飛び出して相手を撃ち倒す武器だ」

 「弓やボウガンのようなものでしょうか?」

 「まぁ、そんなものだ」


 どういう機構なのか、素材は何かなど詳細を説明しても理解してもらえないだろう。

 そうなればこの世界で一番近い武器に例えておくのが当たり障りない回答だ。


 「なるほど。そのようなものがあるとは知りませんでした。レイジ様はお強いのですね」

 「強いという程でもない。鍛錬は苦手でな。たまたま相手が良かっただけだろう」


 あまり自分を誇示してもボロが出るだけなので謙遜して損は無いだろう。

 下手に目立てば怖いお兄さんたちに目を付けられないとも限らない。

 前世では長いものには巻かれろの精神で生きてきたので、その習慣が抜けていないということもある。


 「いえ、ゴブリンといえばハンターでもない限り数人掛かりで相手をする怪物にございます。見たところハンターの紋章をお持ちではないようですね」

 「あぁ、ハンターではない。とある理由で旅をしているのだ。とりあえず帝都に向かおうと思っている」

 「帝都でございますか。それは長旅になりましょう。ニホンに戻られるよりは近いとは思いますが」

 「そうだな。急ぐ旅ではないからゆっくり向かうつもりだ」


 旅と説明はしているが特に理由があるわけではない。

 帝都に向かうと説明したのにも理由はなく、適当な理由として相手から得た情報をそのままオウム返しにしただけだ。

 旅という理由も闇雲に歩き回るよりは何か目的があった方がいいだろうと思ったから。

 他人に説明するのも理由付けが簡単だ。

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