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終わりの瞬間と最期の記憶

参考曲:流星群/鬼束ちひろ

その日は台風が直撃していて、警報が鳴ってるんじゃないかと思うほどの暴風雨だった。

そんな超悪天候の中を俺と……つい先日俺の彼女になった……あぁいやなってくれた?夏穂(なつほ)と一緒に学校の帰路についていた。

彼女は昔っからおちゃめでその都度周りを驚かせては笑っていて、周りもそんな彼女をみてなんとなく赦しちゃって……その日もおんなじように風が強くて川も荒れているというのに堤防の端を傘をさしながら子供のように足を投げ出すように歩いて、心配する俺の顔を見て笑っていたんだ。

そんな綱渡りじゃないんだから大丈夫だって、そう彼女は笑っていたんだ。



高校一年の六月、梅雨真っただ中に更に台風というものすごく最悪と言える天候。

けれど私はそう悪い気分じゃなかった……いや、どんなに強い雨だろうと今の私は楽しめる。

今日も今日とて悠司(ひさし)が私の乗る堤防横で心配げに私を見ている。

昔は彼の気を引きたくていたずらもよくやった。

困らせてしまうことも結構あったと思うけど彼はどんな時もしょうがないな、って苦笑気味に笑ってくれたりフォローを入れてくれたり。

そんな彼が私に告白してくれて、嬉しいハズがない。

私は浮かれていた。

だからこんな危ないことも平気に思えた。



初め何が起きたのか理解できなかった。

短い悲鳴を聞いて咄嗟に振り向くと足を滑らせるように堤防から落ちる彼女が……その先は荒れ狂う川だ。

手を伸ばそうとする……けれど間に合わない。 届かない。

俺の手はただ虚しく虚空を掴もうとしていた。



いきなり一瞬強い風がさしていた傘を押すように吹き抜けてバランスを崩してしまった。

慌てて態勢を立て直そうとしたけど濡れた足場に今尚吹く風に思うようにいかずそのまま………私はどこまで落ちていくの? この先は?

このまま永遠に落ちていくような感覚に見舞われる。

視界の隅で私に手を伸ばそうとしている悠司が見えて……無意識のうちに彼のほうに手を伸ばそうとして………川に落ちた。



夏穂はそのままものすごい勢いで流れる川の流れに流されていった。

俺は彼女を見失うまいと走って追いかけながらどう助けるべきか考えようとしていた。

けれどこんな時にどうしようもなく頭は真っ白になっていて妙案なんて思いつかなかった。

いつの間にか傘は俺の手に無くて、走る俺の身体を強い雨が打ちつけていた。

視界も霞んでうまく走れず転んでしまった。

慌てて起き上ったけれどすでに彼女の姿はもう濁流に呑み込まれてしまっていて俺はもう絶望しか感じることができなかった。



泳ぐ、なんて無理だった。

そもそも思うように身体を動かすこともできないままただただ流されていた。

私にできるのはどうにか意識を保とうとすることぐらいだった。

なんとか流れに呑み込まれないように足掻こうとする。

微かに私の名前をしきりに叫ぶ声が聞こえる。

怖い。

たすけて……



もうどうしていいのか判らなかった。

身体はずぶ濡れで冷えきっていたけれどそんなの気にならないぐらいに心はそれ以上に冷えきっていた。

俺は一縷の望みにかけて夏穂が流されていっただろう下流の方へ一生懸命に走って彼女を探す。

走りながら、途中で思い出し携帯を取り出して119にかけた。

俺はうまく説明することはできなかったけど、なんとか緊急であることと川に人が流されていってしまったことを伝え……彼女を見つけた。

夏穂は大きく歪曲した川の外側の平地に投げ出されるようにうつぶせで倒れていた。

俺は彼女の名前を呼んで駆け寄った。



身体を、顔を、雨が、風が、強く打つ。

さむい。

もう動けなかった。

全身が寒さ痛みを訴えているのを微かに感じながら意識は眠るように薄らいで……

……そこで私の身体にまた別の力が加わるのを感じた。

閉じかけていた目をわずかにあけると目の前には悠司の顔。

必死に何かを言っている様子の悠司がそこには居た。

けれど彼の背後は相変わらず強い雨を振り続ける真っ黒な雨雲で覆われていて、不吉の象徴にしか思えなかった。

悠司の手は私の手を掴んでくれているの?

彼の温かさも触れる感触さえも感じることができなくて、それが余計に私を不安にさせる。

でも、大丈夫、ってそう言いながら彼に伝えるように……私自身に言い聞かせるように……或いはそう願うように……私はできるだけ笑って

──そこで意識を閉じてしまった。



急いで駆け寄って彼女の身体を仰向けになるよう抱きあげ名前を呼びながら揺するとほんの少し反応し、少し目をあけてくれた。

もう大丈夫だからな、そう言って声を掛けてあげると彼女は安心したような笑顔を弱々しげに浮かべてまた目を閉じる。

俺はもうその目が二度と開かないような気がしてもっと声を掛けたり揺すったりしてみたけれどもう反応は無かった。


それからしばらくして、遠くから救急車のサイレンがこちらに向かってくるのが聞こえてきたのだった。

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