死にたがりの六の君
あるときあたしは自殺しようと思って(まああたしはいつも死のうとしてる)、護衛の目を盗んで庭に出た。さっそく蔵の中から古い縄をとってきて、庭の柿の木に結びつけた。古来から伝わる自殺法、首吊りだ。輪っかをつくって枝にひっかけて、さあ死のう、ぐいっと身体を持ち上げる。
そうしたらちょうど柿をついばみにきたカラスがあたしを見て「アホウ」といった。なんだか悔しくなって石を拾って投げた。けれど石はとんでもない方向へ飛んでいき、あたしを探しにきた護衛のユータの頭にゴンと当たり……そうになるのを彼はかわした。
「ユータごめんね」
あわててあたしはユータのそばに寄る。にっくきカラスはとうにどこかへ行ってしまった。
「ミヤ様、柿が喰いたいなら俺に言ってくださいよ。石を投げても柿は落ちません」
「いらないわ。この柿は渋いの」
ユータはあたしの髪にひっついていた柿の葉っぱをはらりと落とす。大きな手、だけど指は四本。
「あたし死のうと思ったの。でもカラスがあたしをバカにしたのよ」
「いつもいってるけど、ミヤ様が死んだら俺は悲しいんです」
ユータは言葉を飾らない。ひどく率直なかんじがする。ユータはあたしが死んだら泣いてくれるかな。そんなはずはないな。
ユータは人前で泣いたことなんてない、屈強の戦士だから、あたしみたいな小娘が死んだくらいで感情を乱したりしないんだ。
いまは左遷されてあたしなんかの護衛だけど、あたしがいなくなればまた中央に戻れるだろう。
「またへんなこと考えてますね」
「ユータがどうしてあたしを止めるのか考えてた」
「俺はあなたの護衛ですよ」
さらりという。琥珀色の瞳があたしを射抜く。あたしはぶるりと震えた。
「ミヤ様はどうして死にたいんです。屋敷で噂になってます。六の君は死にたがりの姫、と」
「ユータが驚いて、その能面みたいな顔がちょっとでも変わればいいなあと思ってるの」
「それは……迷惑ですね」
それでもユータはあたしに甘くて、あたしをひょいと持ち上げ横抱きにして屋敷に戻る。いやだなあ。一日中、あの暗い部屋で過ごしていると息が詰まる。政治の道具にもならない六番目の姫の居場所なんて、この馬鹿でかい屋敷の中のどこにもないんだ。
「ほら、柿食べましょう」
部屋に戻ると、いつのまにとったのか、ユータは夕焼け色の柿をくるくるくるくると小刀で剥いてくれた。
「うーん、やっぱり渋い」
「ほんとだ」
ユータは柿をかじり、一瞬顔をしかめてみせる。
「わあそんな顔できたのね」
「喜ばないでくださいよ」
あたしは嬉しくなってユータに思わず抱きつく。彼はいつものとおりの無表情、だけどしっかり受け止めてくれた。
「じゃあこの柿は干しましょう、甘くなるまで生きててくださいね」
「わかったわ」
あたしの首をつるはずだった縄には柿がぶら下がっている。この柿が甘くなったら、彼とふたりでかぶりつけるだろうか。
おわり。