表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最後の瞬間

作者: 星蘭

 山は唸り、地は揺れ、木々は倒れていった。山からは火が噴出し、海の水は陸を飲み込み、大地が隆起して、または陥没していった。

 西暦5000年。

 口に出して言えば簡単だが、実際にその年月は人間1人の一生に比べて、途方もなく長い。

 しかしそんな年月も、母なる地球の歴史に比べれば、一瞬に満たないほど短い。

 今年18歳の彼は高い高い山の上から、混乱の最中にある地表を見ながら、冷たい視線を「それ」におくっていた。

 彼の隣に座っている16歳の少女は、微笑みながら「それ」を見ていた。

「それ」とは、この地球を今の状態にまでした、死にいたらしめた、唯一の文明と高度な知恵を持った生物の死にゆく姿。つまり、人が死にゆく光景。木の下敷きになり、山からの溶岩に骨も無くなるほどに焼かれ、海に飲み込まれ。

「自業自得だ」

 彼はボソリとつぶやいた。

「いいんじゃない?それだったら。大丈夫よ。人間以外の生物には、もしもの時にでも生き残ろうとする生命力があるもの」

 少女はクスクス笑いながら言った。

「もう、3000年以上も前から気づいていたのに、何もしないなんて。結局死ぬはめになっている」

 少女はそこまで言うと、コホコホと咳をした。

「ここまで長く、進化もしないで滅んだ生き物も、少ないんじゃないか?」

 彼はそう言って、咳をする少女を心配そうに見る。

「そうね」

 そう言う少女の口から流れ出たのは、血だった。血は顎から滴り落ちた。

「もう、私たちも死ぬのね」

 少女は自分の手についた血を、じっと見て言った。

「この汚れた空気のせいで、肺がもうダメなのね」

 彼も少女も、同じ病に侵されていた。汚れた空気中に混じった毒が、身体の特に空気を吸うべく肺を少しずつ溶かす。

「もう、お別れか」

 地震で彼と少女のいる山が大きく揺れた。

「うん」

 少女は少し寂しそうに言う。

 もしこんな事がなければ、2人は普通に愛し合えて、幸せになれたのかもしれない。でももう、ムリなのだろう。

 彼は最後に少女にキスをした。

 それが彼の最後の瞬間だった。

 死ぬ間際の、最後の瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ダークネスな作風ではあるが、 崩壊の美学を感じさせてくれる作品でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ