縁ならずば
『 第一章 桜 』
桜の季節だった。
僕は、いつも座っている場所にいる。
病院中庭にある一本の大きな桜。
その下を、囲っている丸いベンチに座っている。
白いTシャツ、薄青いジーパン姿。
23歳の僕は細身でヒョロヒョロ。筋肉もない。
吹く風が花びらを舞い踊らせる。
美しい。こんなにはかないのに。
一瞬にして。
心のシャッターが音をならす。
僕はそこに座り、読書にふけるのが好きだった。
いや、もはや、日課だった。
昼下がりの日課。
一文字一文字、身体に染み込ませながら読み耽る。
本は母に頼み、古本屋でいつも買い求めていた。
毎日これないから、一回に7、8冊持ってくる。
それでも、僕には足りなかった。
風が頬を触ってさっていく。
ヒヤッと心地好い風。
柔らかく。包み込むんでくれる。
言い忘れてたけど、僕は膵臓の病気。
最悪、死にいたる。
今、感じてること、
考えてること、忘れて、何も感じなくなるのかな?
何も考えられなくなるのかな?
はかないねぇ。
桜の花と同じだね。
だから、魅了されるのかな。
空を見上げた。
青空。
白い雲。
太陽は眩し過ぎて見えない。
地球は今日も回っている。
・・・まだ、余命は言われてない。
ただ
『覚悟しておいてください。』だって、
覚悟…できないよ。
リミットはいつなの?