『デビュー当日に冤罪で脱退した元アイドル候補、ダンジョン配信で本家よりバズる』
気軽に読んでもらえるとうれしいです。
アイドルグループ「VALKYRA」の最終メンバーに選ばれたとき、私は号泣してしまった。
戦えるアイドルとして、デビュー当日にダンジョン配信すると聞いた時には、
この事務所はとんでもなく頭がおかしいと思ったが、憧れのアイドルになれるなら、それでもいいと思った。
練習生としての三年間、毎日朝から晩まで踊って、歌って、筋トレして、戦闘訓練までした。
その全てが報われたと思った。
しかし、デビュー配信当日の朝、いじめ疑惑の暴露があった。
もちろん事実じゃない。とんでもない嘘で捏造だ。
私の美貌に嫉妬したのか、あることないこと自称高校の同級生のインタビュー記事が
WEBニュースに上がった。
それは瞬く間にネット上で拡散され、事態の収拾のために、事務所は私のグループからの脱退を決断した。
夢破れたが、私は泣かなかった。
まだアイドルになれるチャンスは残っていると思ったからだ。
ここで事務所と対立してもいいことはない。
私の美貌が必要とされる日がきっとまた来るはずだ。
だが、このなんとも言えない気持ちをすっきりさせたい。
三年間の苦労は私の糧になっていると信じたい。
そんな気持ちが私をダンジョンゲートに向かわせた。
事務所近くに、1年前に発生して以来、閉鎖されているわけではないにもかかわらず、
ほぼ挑戦する人のいない寂れたダンジョン。
ここなら誰にも知られずにストレスを発散できるはずだ…。
日の目を見るはずだったステージ衣装を着て、
昨日まで仲間だった彼女たちがデビューする時刻に合わせて、私はこのダンジョンに挑む!
「お、この個撮カメラアングルは、急遽いじめ問題で脱退した如月セラのものじゃね?」
「ほんとだ。運営が設定修正するのを忘れたのか?ザルすぐる!」
「いじめなんてしてたやつ「VALKYRA」から脱退させられて当然!!ざまぁってな感じじゃね?」
「見た目はかわいかったんだけどねえ。いじめしてたなんて幻滅」
「同じステージ衣装着て、別のダンジョン攻略の配信してんの?寂しいねえ」
ダンジョンの中は古い遺跡のような石造りの内装をしている。
床も石造りなので、でこぼこして歩きづらい上に衣装はプロデューサーの趣味で、
ヒールの高いニーハイブーツだったが、華麗な動きで私はまるで昔の忍者のような姿勢で駆け進んで行く。
「あっ!」
何もないと思っていたところに草が結んであったのか、
私は足を取られ、大きな円を描くように転ん…いや、前転した。
まるで柔道の受け身のように左手に握った短剣を地面に突き刺す。
「ぎょええええええ」
何かの悲鳴のような不気味な音が聞こえ、
短剣を突き刺したあたりの床に血の混じったような緑色の液体が広がっていく。
「なに?!床の石板に擬態したシャドウスライムを倒したのか?」
「完璧に擬態したシャドウスライムはA級冒険者でも見破れないって聞いたぞ?」
「「VALKYRA」の戦えるアイドルってコンセプトは本気で言ってたってことか?」
「個撮カメラ用のコメント欄はたしか別チャットだったよな?」
「本家よりこっちのほうがおもしろいんじゃね?ちょっと知り合い呼んでくる」
魔物を倒したのか、ちゃりん、と小さな宝石のような魔石がその場に落ちる。
目を凝らしてみてみるが虹色をした小さな魔石のようだ。
今日は、回収するためのアイテム袋とか持ってきてないので、
荷物になるのはちょっと面倒。
ということで、私は「えいっ!」とそれを投げ捨てた。
「嘘だろ!?売れば1000万はする魔石を投げ捨てたぞ!」
「アイドルの給料は薄給だってのは嘘なのか??」
「おい、よく見たらこのダンジョンって、忘れ去られし神殿じゃないのか?」
「あのS級冒険者が1階層もクリアできなかったという噂のダンジョンか??」
「今ではもう挑戦するものがいなくなったという、あのいわくつくのダンジョンか!?」
ぐるるるるるっ!
通路奥の暗闇から巨大オークみたいな魔物が近づいてきているのが見えた。
ん-、あれにはちょっと一人で勝てる自信がないな…どうしよう。
辺りを見回すと右手に巨大な穴が開いているのが見える。
底は暗くて何も見えないが、私には事務所からくすねてきた指輪があった。
重力を反転させる指輪だ。
高所から落下したりしても、所属アイドルを死なせないための保険だ。
巨大なオークと戦うよりマシだと考えて、私は迷いなくその穴に飛び込んだ。
「深層に続く穴に飛び込んだぞ?」
「何を考えてるんだ?」
「いくら何でも無謀すぎる!!」
「アイドルが蹂躙される動画が配信されているのはここですか?」
暗い。
何も見えないところを落下している。
さすがに真っ暗なところでは重力を反転させる指輪も使いようがないので、
私は照明弾のように光を飛ばすもう一つの指輪を使うことにした。
しゅぱあ、と赤白い光が下方に向けて飛んでいく。
すぐに何かぶち当たって光が拡散する。
私は慌てて、重力を反転させる指輪を使ったが間に合わなかったかもしれない!
身を守るように両手をクロスさせる。
ずばびしゅ!!!!!
何かを切り裂いたような音が響き渡ったが、そこは地面ではなかったようで、落下はまだ続いていく。
「なっ!」
「ワイバーンの首を一瞬で切断したぞ!」
「こいつ、いったい何者なんだ?」
「いじめてたのは、同級生じゃなくて、魔物なのか?!」
「今、いじめてた事実なんてなかった!同級のでっちあげだっていう動画がMeTubeで上がってるぞ」
「いったい、どっちなんだ」
「っていうか、S級冒険者どころでない実力者アイドルなのか!?」
過ぎてしまったことを考えて仕方がない。
私はもう一度、下に向けて光を飛ばした。
しゅぱあ、気の抜けた音を立てて赤白い光が飛んでいく。
そこには地面とそこに立っている何かが見えた。
やばいぶつかる!!
とっさに防御姿勢を取って、体を縮こませる。
いや、これだと当たると痛い。痛いどころじゃない。
私は反射的に右足を突き出した。
同時にどびしゅっ!と音を立て不快な感触が右足に伝わると同時に
重力を反転させる指輪を作動させた。
しゅた、っとなんとか無事に着地することに成功した。
数秒後、ずどどどどどど…んんんぅぅぅ。
と巨大な何か倒れるような音がした。
「これはドラゴンゾンビだな…」
「ああ、まさか飛び蹴りの一撃で頭を粉砕するとはな…」
「S級冒険者を超える実力者がアイドルをしてたなんて…」
「おいおい、視聴数も本家を超えて、アクセス数は5億に迫ろうとしているぞ…」
「日本の人口より多いじゃねえか…」
ずいぶん、下層まで来てしまったけど、
ここから入口まで戻るのは大変だなあ、と私は考えていた。
まあ、あまり深く考えても仕方ない。
私は短剣をしまうと、密かに持ってきたマイクを取り出した。
誰もいなくなったダンジョンで、デビューソングだった歌を一人で熱唱し、
ストレスを発散をするのだった。
「やべえ、こいつ…歌も無茶無茶うめえ…」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「この続きが見たい」「別の配信企画も読んでみたい」などあれば、ぜひ感想で教えてください。
★やブクマ、コメントなどの反応を、次の企画に活かしたいと思います。
5/10(日)の20時過ぎくらいに次の短編を投稿しようと思いますのでよろしくお願いします。




