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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第六話「意志ある刃」

静寂に満ちていた。

いや、正確には

ギスギスしている


「どうしてこうなった…」


フィレンツェへ向かう船、

その船室にはホーク、レオン、ディーネ、ソフィア、

そしてクリスもいた。


アクロ神殿への同行を渋々受けたクリスだったが、

船室は別にするつもりだった。


…だから、あのとき足早に城から…


そう、なるべく4人と関わり合いたくないから別室を取ろうとしていたが

5人で行動することになると確信していたディーネの父で、

セントラルキングダムの国王、アルベルトは既に5人での部屋を確保していた。


「なんつーか…

姫さんまでついてくることまで見透かしてたとはなぁ…

あの親あって、この子あり、って感じだな。」


「???」


きょとんとしている、というか一人だけ

クリスがいる異様な空間に気付いていない

あどけない少女がいた。


誰もがここから出ていきたいと思っていた。

というか、

「クリスが出ていけ」

と思っていた。

「もともと別室にするつもりだったくらい、

私らと一緒にいたくないんだったら

今からでも遅くないから

別の部屋に行ってくれないかな?」

とも思っていた。


ソフィアが。

その不満はあからさまだった。


「落ち着けって…!」

耳打ちするホーク。

「別に、何かちょっかいかけてくる訳でもないし、

いいじゃねーか…」


「そういえば、クリス様は何でギリサへ向かってるんですか?」


「(!!)」

「(このコ…!!)」

「(ぶっこんできやがった…!!)」


敵対してる訳ではない、

しかし警戒を怠ってはいけない、

そんな異質な存在のクリスに

ディーネが質問する。


「(これは天然なのか!?

いや、天然といってくれ!!)」

「(そうじゃなかったら、相当な嫌味よ、これ!!)」

「(いや、王族にしか理解できない戦略なのかもしれないぞ…!)」


「それを知ってどうする?」


ベッドに横たわっていたクリスは相変わらず冷たく言い放つと、

ディーネ達に背を向ける。

分かっていた。分かっていたが、

どうにも赦せなかった。


ソフィアが。


「ちょっとアンタ!!

確かに、あのときはアンタに助けられた!

アンタが嫌々ここにいるのも分かってる!

でも、アンタもアンタで任務を引き受けたんだから、

少しは物の言い方を考えた方がいいんじゃないの!?」


ついに食いかかる。

アルベルトの人選、クリスの同行。

未だ不気味な影は落としたままだが、

何せ強い。

味方ではないが、敵ではない。

だから、許容できた部分もあったが

ソフィアの勝気で、そして曲がったことがこの上なく嫌いな性質は

とにかくクリスを拒絶していた。

王の決めたことだから、強いから…と納得させていたが

我慢の限界だった。


「それを知ってどうする?

どうもしないわよ!!

でも、ちょっと濁すとか、

せめて今は話せないとか、話したくないとか

言い方ってあるんじゃない!?」


「…うるさい女だ…」


火に油を注ぐクリス。

今にも殴りかかろうとするソフィア。

クリスも起き上がり、座ったまま

激昂しているソフィアを冷やかに見つめる。



「もう…ちょっと…

やめてください…!!」


「ストップ!!ソフィア!!」


クリスの前にはディーネが、ソフィアの前にはレオンが立ち塞がる。


「おお…調教師…」


「誰が獣か!!」


ソフィアに殴られるホーク。


「全く…ここまでやかましいとはな。

分かった分かった。

そこのサル女の言う通り、別の部屋を取り直すよ。

こんなところで一日を浪費するのはバカバカし過ぎる。」


「ちょっと待ちなさいよ!!」


「何だ、出て行けと言ったり、待てと言ったり。」

「アンタ、見てたでしょ?」


調教師と、獣の下りでホークを殴ったことによって

サル呼ばわりするクリスの煽りに乗らない程度の冷静さは取り戻したようだった。

ソフィアがずっと気になっていたこと。


戦火の中の城下町でソフィアは息を潜めて帝国の動向を探っていた。

そんな中で、「もう一人」自分以外にも状況を窺っている人間がいることに気付いた。

そしてその人物は、ソフィア自身が想定していたよりも

“完璧”な形で姿を現した。


「多分、帝国がキングダムに攻め込む前から。

ディーネ様が帝国の存在に気付く前から、

見てたでしょ?」


「さっきから言っている。

だったらどうする?と。

仮にそれが本当だったとしても、

それを知ったところで君達には関係のない話だ。」


「何で帝国の動向を窺ってるんだ?

乗りかかった船…っていうか、船には乗っちまってる。

別に俺らを守ってくれなくてもいい。

言い方を変えれば、

アンタは帝国の動きさえ知れればいい、

だから誰よりも、何よりも今回の任務にマッチしてる。」


「だから…」


「君は否定していないよな?

帝国を監視していること、

そしてその為に我々を監視していたことも。」


「…なるほど。

一枚岩ではないということか。


少し関心した。


馬鹿ではないようだ。」


そうつぶやくと、クリスは船室から出ていこうとする。


「逃げるの?」

「やはり馬鹿なのか?

風に当たりに行くだけだ。」


「クリス殿。」

レオンが言う。

「君の素性が何なのかもわからない。

敵か味方かも分からない。


だが、君が我々を守ってくれたのは事実だ。

これからも護ってくれ、とは言わない。


今はそうやって…こうやって距離を離してても構わない。


ただ、いつか話をしてくれ。

君のことを。

差し支えない範囲でいいから、

少しずつでいいから。」


「…お人よしが…」


捨て台詞のようにつぶやいて外へ出ていくクリス。


しばしの沈黙の後、

ディーネが座り込んでしまう。


「駄目ですよ…ケンカしちゃ…」


「私だって仲良くしたいわよ!

でも、あんなん無理!!

あんな根暗でひねくれ者…!!


風に当たりに行くって言ってたけど、

そのまんま海におっこちてくんないかな…?」


「まぁまぁまぁ!

ソフィアさんよ、言いたいことは分かるが、

みんなの気持ちも考えてやってくれ。

あんなんでも、理解しようとしてる二人が可哀そうだろ?」


「まぁ…そうね。

分かった。

好きにはなれないと思うけど、頑張ってみる。」


ひとまず一件落着。

まだクリスに対するしこりは残っているが、

「思う程悪人ではない」

という印象が残った。

あくまで

「極悪人かもしれない」

という第一印象からの昇格だが…


一抹の不安と、僅かな安堵を得たところで

ホークが船室の片隅に置かれている剣に気付く。


「お?これって、クリスの剣か?」


「あのときはよく見えていなかったけど、

すごいわね…」


クリスが置いていった剣。

シンプルな鞘に納められているが、

持ち手はシルバーベースで装飾された、

アンティークさを感じる

レイピアのような持ち手。


「だが…

確か、刀身はそうだな…」

「はい。

レイピアみたいに細くないっていうか…」

「日本刀みたいな感じだったわよね?」


「抜いてみるか?」


「やめろ、騎士の誇りに…」


「いいっていいって、

ここに忘れる奴が悪いってーの。」


悪戯な笑みを浮かべてクリスの置いていった剣を抜く。

その刀身は、ソフィアの言った通り、日本刀のそれだった。

その刃は抜いたホークだけでなく、その後ろにいるディーネ達も

写し出す、鏡のような仕上がり。


無骨な鉄塊を武器にするホークですらも、

うっとりとしてしまう程美しいものだった。


「あ…あれ?」


「!!魔力…!?


ホークの手元に違和感。

そして、その場に魔力が拡がる。


レオンがそれを感知した瞬間、

ホークの手の中にあった剣は振るえ始め、

ホークの手元を離れて独りでに動き始める…!!


「な…なんだ…これ…」


「え…?」


まるで自分の意志を持っているかのように動く剣。

ありえない、と思っていたディーネ。


「…え…!?」


次の瞬間、剣はディーネに向かって飛び込んできていた。


「待て!ミケランジェロ!」


その叫びと共にディーネに向かった剣は、

自然と鞘の中に納まる。

船室の入り口にはクリスがいた。


「全く…油断するとすぐこうだ。

いや…

嫌味抜きにお前達…特にホーク。

叱責させてもらう。

騎士の魂なぞどうでもいい。


だが、人のテリトリーに土足で踏み込むな。


そんな軽率さが死を招くこともある。」


「あ…ああ…申し訳ねぇ…

って、どういうことだよ?

何が起こったんだよ?」


呆気に取られるホーク…いや、ホーク含め全員が

事態を全く理解できていなかった。

ただ、鞘から抜かれた刀身が、

人の手を離れて、人を襲った…

そして、それをクリスが制した。


「そこまで分かっているなら話は早かろう。

俺の剣は「ソウルセイバー」。

意志を持つ剣。

そして、「魂を喰らう」剣だ。

人間の魂が大好物でな。

鞘に納まっているか、俺が手にしていないと

その欲望のままに人間の魂を喰らう。」


ゾッとした。


少しだけ、クリスのことを理解できたと思った。

印象が変わった。


しかし、知れば知るほど、


理解不能


「…しばらく人間は殺していない。

だから、手っ取り早く、

一番弱い人間を選んだんだろうな。」

横目でディーネを見ながら言う。


弱い


そうだ。間違いない。

でも…


「そうだ。

同じことだ。

モンスターも同じ。

本能的に弱い貴女をまず狙ってくる。


強くなりたいという意志は結構だが…

俺が守るまでもなく、

貴女は死ぬぞ?」

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