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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第五話「護らない英雄」

帝国軍は撤退した。


キングダムの国民は、

果敢に帝国に立ち向かい、そして自分達を救ってくれた

4人を英雄と讃えた。


~数刻前~


「お待ちください!!」

剣を納め、去ろうとする青年を呼び止めるディーネ。

むせるような血の匂い、

そして未だ消えない恐怖をこらえながら必死に叫んでいた。

そんなディーネの声がまるで届いていないかのように

歩き続ける青年。


「…この者を、殺したのですか?」


何故か足を止める青年。

しばらくした後、ため息めいた吐息を漏らす。


「その目でお確かめください。

私に声をかけた、呼び止めた。

その覚悟が既におありなら、

それくらいはできようと思いますが。」

恐る恐る倒れている帝国軍幹部に近寄る。

近づいて分かったことがあった。

状況からして打ち上げられ、

上空から叩き落された「二撃」で倒したと思っていた。

しかし、幹部の背中…

上空で受けたであろう刀傷は一撃でなかった。

切り刻まれていた。


この男に、声をかけてよかったのか。

呼び止めてよかったのか。


思考が歪む。


「ああ大丈夫だ、姫さん。

コイツはまだ生きてる。」


「ホーク様…」


ヴァルヴェの凄惨な姿に呆然とするディーネと、

黒い青年の間にホークが立つ。

それに続き、レオンとソフィアも。


「一つ確認したい。

アンタは敵か?」


今度はため息だった。


「お前たちは、そこで倒れてる輩より少しは賢いと思っていたが…」


青年は彼らの方を振り向いて口を開く。


「言ったはずだ。

俺は帝国を倒すつもりも、お前達を守るつもりもないと。

敵でも味方でもない。

それだけだ。

それとも、物事に明確な定義を与えられないと安心できないクチか?」


「てめぇ…!」

「待て、ホーク。」


只者ではないのは分かっていた。

彼は「帝国を倒すつもりも、自分達を守るつもりもない」と言っていたが

結果的にそうなった。

善人ではない…にしても、悪人でもないと信じてしまったところもある。


しかし、一言交わしただけで

「悪意」を見せてくる。


「分かりました。」


凛と響くその声に驚く3人。


「この男を殺しているのなら、

法で裁かれるところでしたが、

殺していないのなら話は別です。


貴方の思惑はどうであれ、

結果的に私共を、そしてセントラルキングダムを

救ってくれました。

だから、その功を讃えようと考えております。」


「要らん、そんな…」


「ならせめて、貴方のお名前だけでもお聞かせ願えませんか!?」


まっすぐ見つめてくる王女の冷たく見下ろしながら

青年は呟く。


「…クリス…

クリス・ルノワール。」



~~~~~~~


「で、なんやかんや言いながらアンタもここにきたんだな。

意外と義理堅いじゃねーか、クリスさんよぉ。」


「…」


表彰式の場にはホーク、レオン、ソフィア。

そしてディーネとクリスもいた。


「よく集まってくれた。

皆の者。

改めて自己紹介させて頂こう。


私はアルベルト・ランスロット・フォン・ブルーマリン。


セントラルキングダムの王で、

そこのディーネの父だ。


此度の件、我々の不甲斐なさゆえに起こしてしまった出来事であった…


そして、それに国と関係のない君達を巻き込んでしまったことを

心から詫び申し上げる。

すまなかった。」


深々と頭を下げるアルベルト。


(アルベルト・ランスロット…

若き頃、荒野同然だったこの地で数多のモンスターや野党と戦い、勝利。

そして、一国を築き上げた後も

各国の紛争やモンスター騒動をその剣一本で解決していたという、

正に伝説的英雄。

娘が生まれ、そして皮肉ではあるが帝国の台道と共に、

築き上げた一国を守りに特化した国にした

「誰も死なせない」賢王)


「だが君達はそんな中でも帝国軍を退け、

我が国を守ってくれた。


勿論、ディーネよ。

お前も英雄の一人だ。」


「え?…私も…?」


「お前がいちはやく帝国の動きに気付き、

あの嵐の中を駆け抜けてくれなければ今頃我々はどうなっていたことか…

火を見るより明らかだ。

そして、そんなディーネを支えてくれた4名。

ホーク・エイリーク殿。

貴殿は自らが傷つくことを厭わず、仲間を守ってくれた。

そして豪快で快活な立ち振る舞いで皆の士気を上げてくれた。


レオン・ブランフォード殿。

噂には聞いていたが、その実力は噂以上のものだった。

何よりも、的確な戦略指示。

できるなら、その才覚を我が国の為に活かしてほしいくらいだ。


ソフィア・レッドルーク殿。

ディーネから話は聞いた。

相当に高等な魔法スキルを持っているようだね。

しかし、それよりも貴殿の「守ろうとする」「戦い抜こうとする」

その意志力を評価したい。

力に溺れてしまった…それが、帝国なのだから…」


自身ありげに胸を張る者、深々と頭を下げる者、

恥ずかしそうに顔を赤らめる者がいた。

それなりに武功は積んできたつもりだった。

しかし、国を挙げての賛辞など、生まれて初めて…

いや、これから先生きていってもあるだろうか?

そんな非日常の1ページを噛みしめていた。


「さて。

そんな君達を見込んで頼みがあるんだが…」


玉座に腰を下ろすアルベルト。

ひざまずいていたホーク達も、アルベルトに促されて

用意されていた椅子に腰をかける。


「ここ数年の帝国の動きがどうもおかしい。

ただ、世界を侵略しようとするだけでないような気がしてな…

以前は明確に、武力で世界を支配するという動きだった。


しかし、それ以上の…

そう、正しいかは分からないが、

宗教染みた何かを感じる。


武力、軍事力でしかなかった帝国が

各地の遺跡の調査だったりと、

考古学にも手をつけはじめた。」


「…まさか、カタストロフィ…?」


アルベルトの話にレオンが思わずつぶやいてしまう。


「2000年前、世界を滅ぼしたという「謎の天変地異」…

それが本当に天変地異なのか、

それとも、

“人為的に引き起こされた”ものだとすれば…」


世界を滅ぼすほどの力があるとすれば、

その力を欲してもおかしくはない。


「そこでだ。

ここから西にある「ギリサ」という国に「アクロ神殿」という

遺跡がある。

既に帝国の調査は入っているものの、

気になる話が…


亡霊を見た、とか。

聞こえないはずの言葉が聞こえてくる、とか。


そんな怪奇現象が立て続けに起きるものだから

だいぶん前に帝国軍も調査から撤退したそうだ。


そこを君達に調べてもらいたい。」


更にアルベルトはこう続ける。

キングダムからギリサへ行くには、

まずキングダムから海路でフィレンツェという小さな町へ。

そして、フィレンツェから徒歩でアクロ神殿のある丘まで行かねば

ならない。

勿論、道中はモンスターもいる。


モンスターから仲間を守りながら、

そして魔術師として学位を持つレオンとソフィアなら

帝国軍では解明できなかった「怪奇現象」の真実を

明かすことができるかもしれない、と。


ほんの少しだけ、不安な表情を浮かべた3人だったが、

すぐに凛とした面持ちで王と目を合わせる。


「承知致しました。

その任務、謹んで承ります。」

代表してレオンが言う。

それに笑顔で答えるアルベルト。


「そして、クリス殿。

貴殿にもこの調査の力になってほしい。

フィレンツェからギリサまでの道中、

ホーク殿、レオン殿、ソフィア殿を脅かすような

モンスターの報告は受けていない。

しかし、万が一ということもある。

帝国の幹部や、未発見の危険モンスターと出くわすかもしれない。

そんなとき、

皆を守ってほしいのだ。」


「私は、断らせて頂きます。」


予想はしていた。


「ここだけの話、私もギリサを目指していました、

それも、アクロ神殿をね。」


「ならば…!」


「一石二鳥とでも?

未熟者を連れて歩いていては

足を引っ張られるだけです。

既にこの場所と時間が勿体ない…

私はここでお暇させて頂きます。」



「クリス様!」


ディーネが呼び止める。


「お願いです…

貴方とは何の縁もゆかりもない関係です…

ですが、王女としてでなく、

この世界に生きる者として、どうか…

ご同行を…」


その言葉はクリスだけに向けたようには思えなかった。

その言葉を発した覚悟。

レオンとソフィアはそれがアルベルトにも向けたものだと理解した。


「いいんじゃねーか?

強くなりてーんだろ?

世界を知りてーんだろ?


ってことで、王様。


姫さんを一緒に連れてってもいいかい?」


驚きを隠せない。

切り込んだ…というか、ぶっこんだホークの発言に

流石のクリスも少し驚いていた。


「あれ?違ったかい?」


「お前…何となく分かっていたが…」

レオンが呆れ果てた表情でホークに言う。

俯くディーネ。


「違いません…

私も、皆さんみたいに強くなりたいんです…

それに、短い間でしたが…

もっと皆さんと一緒にいたい…

そして、知りたいんです、

世界を…強さを…」


涙ぐみながら綴られる言葉。


戦いから一晩明け、綺麗に整ったディーネの髪を愛おしく撫でながら、

「…怖くないの…?」

ソフィアが尋ねる。


「…怖いです。

でも、それでも…

何も知らないまま、

ここで待ってる方が、もっと怖い。」


その瞳はまっすぐに父、アルベルトを見据えていた。


「…そうか。

止める理由もない。」


「…!」


「行ってこい、ディーネ。

世界を知り、そして強くなって帰ってこい。」


「ありがとうございます!!」


「クリス殿。

尚更、ボディガードが必要なのです。

貴殿にはその力がある。

改めて、頼めないだろうか?」


父親の顔から、再び国王の顔に戻り、

再びクリスに問うアルベルト。

既にクリスは背を向けて城の外へ歩み始めていた。


「ギリサまでの船はあと4時間後。

私は先に準備をしておく。」


「クリス様…!!」


思わず感涙するディーネ。


「勘違いしないで頂きたい。


先も言いましたが、

私は目的地が同じで、ついていくだけ。


ここからギリサまでの道中なら、

私の守りなど要りますまい。

そこの3人で十分です。


…私は、王女を護るつもりはありません。」


そんなクリスの一見すると捨て台詞のような言葉。

相変わらず氷のように冷たい言葉。


しかし、

その中にある、ほんの少しの温かみ。

それが本当に存在したのかは分からない。

だが、ディーネは

それを感じてしまった。




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