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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第4話「勝ったのに…」

血塗れで立ち尽くす美しい青年を見て、

ディーネは“最初”に彼を見たときの印象が間違っていなかったと確信した。


おとぎ話の王子のよう


---でも…


人形みたい。



「退け、だと?

それも、この俺を倒す理由もないだと?

ふん!

まるで、俺を倒せて当たり前のような言い方じゃないか!」


背を向けたまま青年は淡々と言う。


「そこまで分かっているなら早く消えろ。」


「退くとでも思ったか?

この軍曹、ヴァルヴェが!!

貴様のような、か細い軟弱な野郎に!!」


頭に血が上ったヴァルヴェは相変わらず背を向けている青年に向けて、

その凶刃を振り下ろす。


再び目を覆ってしまうホーク達。


またしても鉄の弾ける音が響き渡った。


青年はヴァルヴェに背を向けたまま、

その華奢な腕に握られた、

同じく華奢な造形の剣で超重量級の斧を軽々と受け止めていた。

何度も青年に攻撃をしかけるが、

全て受け止められてしまう。


「なるほど。

噂通りの馬鹿のようだな。

何度繰り返しても、何も剣筋が変わっていない。

まぁ…」


そう言いかけるとクリスはヴァルヴェの方へやっと体を向ける。


「まぐれではないのは流石に理解したんじゃないか?」


「そう言いながら、やっと俺の方を向いたな…

腕が疲れてきたかぁ?」


「やれやれ…

背中越しにお前の剛腕とやらをノールックで受け止めるのも

ギャラリー相手に芸がないと思っただけだ。

そんなことも分からないとは、

よもやそこまで阿呆とはな。」


ヴァルヴェの重撃を軽々と、それも背中越しにいなすという

異常なまでの芸当を見せながら、

そして静かにとことん煽る。


何度も危ういと思った瞬間があった。

しかし、青年は息をするかのように、

ホーク達を一撃で打ち負かしてきた攻撃を

弾いてきた。


不思議でならなかった。


明らかに体格的にも突如目の前に現れた青年よりも

ホークの方が大きいし、持っている得物もホークの大剣の方がごつい。


何故、そんな華奢な体と得物であの猛り狂う軍曹の攻撃をいなせるのか。


「不思議に思っているみたいね…」


「ソフィア…」


倒れながらソフィアが言う。

青年が軍曹を引き付けている間、

ゆっくりと回復魔法で治癒を続けていたようだ。


「よし…これで何とかみんなも治せるくらいにはなった…

私は剣術に関しては詳しくないけど、

あの黒い男はヴァルヴェよりも遥かに力は劣る。

でも、“力の使い方”が抜群に上手。

最小限の動きで、ヴァルヴェの重たい一撃を“逃がしている”。」

他の3人を回復しながら説明するソフィア。


「それでいて、あの体格差でだ。

相当、戦い慣れしている。」


立ち上がれるくらいには回復したレオンも半ば呆れたように言う。

理屈は分かった。

誰よりも理解…いや、痛感していたのはホークだった。

力でなく「技」の優位性を。


だが、目の前で繰り広げられている光景は

力とか技とかいう次元ではなかった。


青年はそのうち攻撃を「受け止める」ことさえしなくなり、

ヴァルヴェの攻撃は空を切る。


「まだ分からんか?

もう一度言うぞ?

退け。」


その一言に激昂極まる。

声にならない雄叫びを上げながら

ヴァルヴェはやぶれかぶれに突進してくる。

重撃の乱舞…!!


流石にこれはまずいと思った刹那



ヴァルヴェが宙を舞っていた。


何が起こったのか全く分からない。

また華麗に回避され、その勢いで飛んだのか、

それとも投げ飛ばされたのか。


しかしその後地面に叩きつけられたヴァルヴェの鎧には

確実に、刃の跡があった。


「もういい。

本来なら何の痕跡も残さずに去ろうと思ったが、

貴様の馬鹿さ加減には付き合いきれん。

それに、ギャラリーがいたから少し興が乗ってしまったが…」


その場にいる誰もが、何が起きているのか全く理解していなかった。

吹き飛ばされた軍曹自体も、何をされたか全く分からない。

初めて、ヴァルヴェの顔に恐怖が宿る。


「飽きた。」


再び宙を舞うヴァルヴェ。

今度はただ吹き飛ばされただけでない。


鮮やかな赤。


宙を舞ったヴァルヴェの更に上空に青年がいた。

そのまま上空から放たれる無慈悲な剣戟。

大きな音と、骨の砕ける音。

数刻前の威風堂々とした軍曹の姿はどこにもなかった。


降り頻る赤を浴びながら、青年は剣を鞘に納め、

ホーク達に背を向けてゆっくりと去っていく。

勿論、何も言わない。


---何でだろう?


森の中でモンスターを蹴散らすホークの姿に憧れた。

城下町で、レオンとソフィアの在り方に憧れた。


強さに憧れた。


そして、城の中でヴァルヴェに恐怖した。


それも全て自分にはない、“強さ”がきっかけで生まれた感情だった。


憧れた3人を容易く圧倒した、恐怖の象徴、

その返り血を浴びながら背を向けた青年。


明かな強さ。


しかし…


勝ったのに、嬉しそうじゃない。


もし、自分がその表情を見逃していたなら、


哀しそう。


「戦うことが、

まるで作業みたい…」

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