第二話「鉄槌と雷鳴」
嵐の夜、帝国が牙を剥いた。
世界の中心を成すセントラルキングダムへ侵攻を始めたのだ。
異変に気付き、キングダムの「王女」ディーネは
嵐の中、近隣の開拓村で出会った
「万屋」ホークと「魔法剣士」レオン。
キングダム解放の為、
3人は「三者同盟」を組むのであった。
三人は周辺の地図を広げる。
レオンはそれを眺めて数刻、
「なるほど。
改めてみるとキングダムの防壁は完璧だな。
四方を山に囲まれ、自然の要塞の中に建っている。
唯一人の出入りができる場所は…
城壁正面のここだけか。
この道も、少し行くと獣道になっている。
そこから、この道に繋がると…」
「キングダムの地下には水路があります。
各国との貿易は実はそこが拠点になっているんです。」
「すげーな…
完璧な造りだ。
だから、帝国が攻めてくるタイミングとしては
嵐の夜がベストだった訳だ…
これだけ堅牢な守りなら、
嵐に備えて街に意識が向くのも無理はねぇ。
だからこそ、嵐の中、絶対に攻め入ってくるはずのない
正面から突撃するのは効果的だ。」
「ホークの言う通りだ。
水路は一晩だけの嵐という時間設定では無理。
勿論、山を越えて攻める算段もあるが…
恐らく、先遣隊を嵐の中、正面から突入させて、
今は山越えしてきた兵士達が集まってきてる段階か?」
「確実に敵をしとめるなら、
俺らも山越えするか?」
「いや、そんな時間はないし、
何よりもいきなり敵軍の渦中に飛び込むような形は避けたい。
無謀なような見えて、着実に、堅実に進んでいける。
かつ、最短でいけるのは正面ルートだ。
敵軍の壊滅、キングダムの解放は…
すまない、ディーネ様。
キングダムの解放は理想だ。
ただ、それを可能な限り実現しうるのは
ホークの言った通り、「ヤバくなったら逃げる」。
戦略的撤退を始めとする的確な状況判断の積み重ね。
そこは俺がやる。」
方針は固まった。
「でも、正面ルートだとモンスターがいるんじゃ…」
いくら一国の王女といえ、見ず知らずの自分の為にここまで考えてくれるホークとレオン。
申し訳ない、ありがたいという気持ちと裏腹に一抹の不安もあった。
そう、昨夜は嵐の前後だったから
モンスター達は影を潜めているだけだった。
しかし、嵐は明けた。
一晩お預けを食らったモンスター達は活性化しているのではないか…と。
そんな心配そうで今にも泣きそうなディーネの肩に手を置くホーク。
「心配すんな、「万屋」の俺に任せろって!
畑仕事から、モンスター退治まで何でもござれ!!
それに、俺達はこれから帝国と戦うんだろ?
モンスター如きでびびってちゃ、
アンタの国は守れねーぜ?」
「ホーク…」
得意の満面の笑顔。
それに安心するディーネ。
「頼もしい限りだな。良い万屋と出会いましたね、姫様。」
レオンも笑顔でディーネへ言う。
とはいえ、時間との戦いでもある。
村の道具屋で回復薬を揃え、道なき道へ、王都へと繋がる道へと踏み込む三人。
ディーネの心配した通り、
“一晩お預けを食らった”モンスターの勢いは凄まじかった。
初めてモンスターを目の当たりにするディーネは泣き叫びそうになる。
しかし…!
「あーらよっと!!」
軽快な掛け声と共に、それに似付かわしくない大剣を軽々と振り回して
目の前に群がるモンスターをまとめて一刀両断するホーク。
道を進むごとに目の前に立ちふさがるモンスター。
しかし、息切れすることなくホークは前線に立ち続けて
モンスターを蹴散らし続ける。
その異様な光景に恐怖を感じそうになるディーネだったが、
恐怖心よりもホークに対する憧憬が芽生える。
「す…すごい!!
そんな重たい大剣を軽々と…それに、モンスターを一網打尽…!!
すごすぎる!!」
感動のあまり、饒舌になるディーネ。
それに対して笑顔を見せる。
しかし…
「…姫さん、
アンタの国にはこんくらいのことができる兵士はいなかったのかい?
鍛え方が違うんだよ。
万屋なんてしみったれたことやってるけど、
誇りを持ってるんだ。
だから、ちゃんと仕事ができねーと駄目なんだ。」
「あ…」
ほんの僅かな時間の共有しかしていない。
しかし、そう呟いたホークの一瞬の陰りは
ディーネの心に刺さってしまった。
「…悪ぃ…今のは忘れてくれや。」
「ホーク君。」
少し戒めるような口調でレオンが言う。
「ああ、分かってるよ、レオンさん。
申し訳ない、非礼を詫びさせてもらう。」
背筋を伸ばし、丁寧なお辞儀と共に詫びるホーク。
「いや、違う、そんなつもりで…」
少しだけ、凍り付いた空気が張り詰める。
「行こう。」
「こちらこそ、ごめんなさい…ホークさん…」
「いや、いいんだよ!!
本当に申し訳ない!!
全然、他意はない!!
いや、でもよかったぜ!!
こんな俺でもお姫様を守るくらいはできるんだな!!」
ばつの悪い雰囲気に飲まれそうになったが、
道中のディーネに対するさりげない気遣いを見せるレオン、
そして前列に立ちながらモンスターを撃退し、
そしていつもの笑顔を振りまきながら
何度もくじけそうになるディーネを鼓舞しながら、
3人はセントラルの入口へと到達する。
「さて…いよいよだ。
ここから先は引き返せない。
だが、先に進んだ先に一番優先すべきことを
改めて確認しておく。」
流石のレオンも息をのみながら言う。
ホークも冷や汗を浮かばせながら答える。
「生き残ること…だな?」
「ああ。
ホークは今までモンスター討伐で頑張ってくれた。
これからは防御主体でいい。
ここから俺が前に出る。
そして、何より優先して守るのはディーネ様だ。」
「おうよ。
頼りにしてるぜ、天才魔法剣士様。
姫さん、アンタはそこの物陰に隠れていてくれ。」
固唾を飲みながらこくこくと頷くディーネ。
「ふっ…お眼鏡にかなえばいいんだがな…
よし、行くぞ!!」
口角だけ笑みを浮かべながら呟き、
そして鬨を上げるレオン。
目の前には既に何人かの帝国兵がいた。
突然に奇襲に慌てふためく帝国兵。
その攻撃を華麗に回避しながら、
見事な、美しい剣捌きで攻撃をしかけていく。
その騒ぎを聴きつけ、周辺エリアからも帝国兵が集まってくる。
レオンの指示通り、その巨躯と大剣で兵士達の攻撃を防ぎつつ、
攻撃にも加担する。
しかし、数が多い。
近距離に集まってきた兵士達を相手取るのに限界を感じてきた。
「ここまで集まってくれれば上出来だ。」
ぼそっと呟くとレオンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「ホーク、もう少しだけ耐えてくれ。」
「お、おう!!」
レオンが何かを唱え始める。
数刻後、そう、
“もう少しだけ耐える”程もなくレオンの周囲に強烈な雷が降り注ぎ、
帝国兵を貫いていく。
「こりゃあ驚いた…
雷属性初歩魔法の「ライトニング」じゃねーな?
まさか、「サンダーボルト」を使えるなんて…」
「よくご存じで。
もう少し魔法学校にいたらより、高等な魔法も習得できたんだろうが…
どうにも冒険の方が性に合ってたようでな。
そういう君も、先程の森の中での攻撃的な立ち回りもだが、
今の防御に徹した動きもなかなかのものだった。
これは、ただの万屋、努力しただけでは
先程のような立ち回りはできないと思うが?」
「へっ…やっぱり、アンタとは気が合うようだな。」
「改めて同感だ。」
意味深に笑い合う二人。
「おーい、大丈夫かい?姫さん。」
「え…ええ…」
物陰から出てきたディーネの様相は怯える小動物そのものだった。
先程の森の中での戦いとは違う。
これは「戦争」だ。
人と人が殺し合う。
その現実を突きつけられ、震えが止まらない。
何と軽率な…
ただ単純に
「国を救ってほしい」
ただそれだけの願いだった。
しかし、これは戦争だということを彼女は理解していなかった。
つまり、
「国を救う」=「人を殺す」
という構造まで読み取れていなかった。
救いたい…
「でも…殺したくない…」
声に出ていた。
ポン、と、またホークが肩に手をかけてくれる。
「大丈夫だ。
殺してないから。」
「え?」
「威嚇するためにあえて中級魔法を使った。
見た目とは違って、威力は最小限まで絞ってある。
…無益な殺生はごめんだからな。」
「牽制するためにやったんだよな!!」
「ああ。ここまでの大出力の魔法を見せつけられれば、
流石の帝国兵と言えど、怖気ずくだろう。」
「ホントだ…生きてる…!!」
「流石にいくら帝国相手と言えど、
姫様の前で殺しなんてできない。
とは言え…」
レオンの意向とは裏腹に、どんどん帝国兵が集まってくる。
恐らく、山越えを果たした兵士達だ。
「もしかしたら、
そうも言ってられなくなるかもしれませんけどね。」
「ま、やれるだけやってみっか!!」
そこからホークも防御の姿勢だけでなく攻撃姿勢も見せる。
二人の中で最も恐れていたのは
個々の帝国兵が「群」になることだった。
先程まで手を合わせて分かったことがある。
世界を侵略し続けている帝国軍、
そしてその兵士と言えど
ホークとレオンの方が強かった。
しかし、何故帝国が世界を侵略するこができるのか?
それは、他ならない「軍隊」だからだ。
個が群を勝る道理はない。
戦いに精通した二人だから分かり切ったこと。
しかし、追いつかない。
サンダーボルトで一蹴したのも束の間、
それ以上の速さで帝国兵が集まってくる。
そして陣形を組み始める。
「まずいな…!」
「ああ…そろそろ逃げ時かもしれねぇ…」
流石のホークも息を切らし始めた。
「すまない、攻撃と防御を一気に頼んでしまって…」
「構わねぇよ。
お陰様で…頭は冴えてる。」
そう、攻撃だけであったら
恐らく頭に血が上って前進あるのみ、
しかし守勢にも回ることで
文字通り「守る」ということに思考を傾けることができた。
「それを見越して指示出ししてたんなら、レオンさん、
アンタ相当のやり手だぜ!!」
「お褒めに預かり、光栄だよ。
だが、残念ながら結果は伴っていないがな。」
「言いたくねぇが、
みたいだなぁ…
じゃ、当初の予定通り、
とんずらってところでいこうぜ!!」
一目散に駆け抜ける3人。
「ところで、どこに逃げるんだい!?」
「どこでもいい、とにかくまくんだ!
そこからはどこでもいい!」
全速力で走り、帝国兵が見えなく、
そして恐らく帝国兵からも視認できなくなったところで見つけた
古ぼけた図書館の中に駆け込む3人。
「はぁ~…はぁ…!!
はぁ~~~…っ…」
「ひとまずはここでやり過ごせそうだな。」
「ああ。」
しかしどうする?
「攻撃にも守りにも一手欠ける感は否めないな。」
レオンの一言を聞いて悔しそうにするディーネ。
「申し訳ありません、貴女のことを卑下するつもりで…」
唇を嚙みながらもディーネが続ける。
「分かってます。
お二方が無神経な発言で人を傷つける殿方でないことは。
でも、確かに一手に欠けるのは分かります。
もし、この状態で戦うと消耗戦は必至…
だからこそ、回復手段は必要ですよね?
でも、村で買った回復薬には限界がある。
何より…
私を守って頂きながら戦うとなると
更に戦況は不利になる…」
驚いた表情を浮かべるホークとレオン。
何も分かっていないようで、要点はしっかり押さえている。
そこに王女としての聡明さ、そして王族としての知性の高さを改めて感じる。
「俺が回復魔法まで使えれば…
いや、ないものねだりしても仕方ないか…
とにかく、この状況を打破する作戦を練りたいが…」
黙ってしまう3人。
恐らく、先程の帝国兵の動きを見ていても
部隊を統率する幹部がいる。
それは明かだった。
群として成立した帝国兵を、可能な限りこちらの消耗なく突破し
最奥部に控えている幹部へたどり着き、
そして撃破できるか。
しかし山を越えてきた兵士達の増援…
最悪のタイミングだった。
いよいよ考えも浮かばなくなったとき。
図書館の地下から物音がする。
「…?何だ?」
そして、それは足音と変わり、
地下から一階へと近づいてくる。
「やれやれ。途中までいい感じだったのに、もうお手上げ?」
階段から現れたのは
赤いドレスを身にまとい、右手には杖を、そして左手には何かの本を携えている女性だった。
髪色はディーネに負けず劣らずの美しい金色色、
そして圧倒的な美貌と鋭い眼光。
「お前…」
「久しぶりね。レオン。」
どちらかと言えば俺は、無神論者だ。
しかし、
「アイツがいてくれれば」
そんな願いを、こんな場所で叶えてくれる。
「いつか罰が当たるかもな…」
皮肉交じりに囁いてしまった。




