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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第12話「月光」

永い、永いオーケストラを聴いていたようだった。


あの日から、彼の中に『唄』はなかった。


ずっとずっと


静かに、静かに


深く、深く


狂ったように


『唄』のない旋律だけが、再生されていた。


この、狂った旋律だけを聴きながら、

俺は朽ちていくんだろうな…


ずっと、そう思っていた。



「どうしてこんなところにいるの…?」


「…!!」


何故か、言葉が詰まってしまった。

クリス自身がよく分かっていた、


それはこちらのセリフだ。


そんな、

息をするよりも先に出て来ただろうセリフが言えなかった。


それだけに、神秘的。


---何より…


日の届きにくいであろう谷底に長らくいたにしては、

異様なまでに白い肌。

華奢だが、それでいて逞しさを備えているアンバランスな美貌。


あの日…戦士として生きると決めた日から、

浮ついた心も捨てたと誓った、

誓うまでもなく

そんな俗っぽい感情など金輪際、一切抱くことはないと思っていた。


---だが…


可愛い…


そう思ってしまった。


「どうしてこんなところにいるんですか!?」


問い詰めてくる女性。


「質問に、質問で返すつもりはないんですが…」


勢いのある彼女の発言に我に返り、

言葉を紡ぐ。

しかし、驚くほどぎこちない口調になっていた。


「貴女こそ、どうしてこんなところに?」


「ふーん…?

そりゃあそうよねー、こんな谷底に人が住んでるなんて思わないよねー?


信じられないかもだけど、

私はずっと昔からここに住んでるの。

物心ついた時から、この谷底で暮らしてた。

あ、でも全然不自由じゃないよ?

ここから東に行けばフィレンツェにも行けるから、

まぁ手間っちゃあ手間だけど、

生活必需品に困ることもないし、

モンスターも流石にここまで来ないんだー。

意外にいいところだよ?ここ。

灯台下暗し、じゃないけど。


…じゃあ、答えて?

どうしてこんなところにいるの?」


厄介だ。

同じように自分に食って掛かってくる女がいたが、

それは感情の赴くままに来るからあしらいやすかった。

しかし、目の前にいる白い女性は違う。


酔っている感覚に近かった。

目の前で、確かな事象が起きている、

しかし、それを明文化することも定義づけることもできない。


急降下で頭を打ったか?


その感覚がどうあれ、

少しでも踏み込んでしまった以上、

退くことはできない。


「君は、この上にあった吊り橋のことを知ってるか?」


「勿論。フィレンツェとギリサを結ぶ、難所でしょ?

で、最近そこにズーが出てきたから、大騒ぎ。

もう誰もギリサに行けないって話だよ。」


「その通りだ。

で、俺はそのズーを倒して…

というか、道連れに吊り橋までぶち破ってここまで落ちてきた。」


「え?」


「まぁ…信じられんだろうな…

別に信じてくれともいわないし、信じてくれなくても問題はない…」


いつもの口調に戻り始めるクリスだったが


「問題あるって!!」


ビックリ箱みたいな女だ…

そう思ってしまった。


「それが本当じゃないと、問題ありまくり!!」


「あ、ああ…

確かめたいなら、

この上…

木の上にズーの死体が…」


クリスが言い終わるのを待たず、

彼女は木の上まで登って…

いや、跳躍していった。


クリスの中に警鐘が鳴る。


敵意はないかもしれない。

何にも屈しないような発言、

ブラフかもしれない。


しかし、その体捌きは元ナイトのクリスを以てしても

明らかに異常。


ホーク、レオン、ディーネ、ソフィア。


先程まで共に行動していた4人はまだ辛うじてチューニングはあっていた。

その演奏が崩れそうになっても、

多少の不協和音になろうが、自身が加わることで

アンサンブルとして崩壊しない

ギリギリのリズムを守れると思っていた。


しかし、

目の前にいる白い肌の、一見溌溂とした女性は

明らかな“不協和音”。


少しだけ、ソフィア達の気持ちが分かった気がした。


彼女たちが感じる、不気味さ…

理解できない、しかし確かに目の前にある事象に対する、恐怖。


「マジで…?

ズーを、それもあんな足場の悪い場所で倒したの!?」


「ええ。」


努めて冷静さを保とうとするクリス。


「コイツを倒すには、

もう上空から串刺しにして、

確実性を求めるなら谷底に落とすしかないと考えたので…」


また敬語になってしまう。


「上空から串刺し…

だけじゃないよね?

これ、一回、

地上から切り上げてるよね?」


もう分かった。

目の前にいる女が只者ではないことを。

そして…


「すごい!!


私、退屈してたんだ。

退屈過ぎる毎日に。


だから、ズーの話を聞いて倒しにいこうと思ったんだけど…


ズーを倒した人が目の前にいるんだったら…」


理解を一歩深めた。


彼女から『興味の対象』として認識されたことを。

そして、幾度の戦場を生き残ってきた彼、

クリス・ルノワールだからこそ

彼女の『悪意』でも『敵意』でもない感情に


恐怖を感じたのかもしれない。


「ちょっと、お手合わせお願いしてもいいかな?」



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