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ECLIPCE BLADE  作者: 月海 ほたる


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第10話「墜ちる」

薄い霧が立ち込める。

ひんやりとした空気が木々の隙間をすり抜けていく。


一晩ゆっくり休み、迎える明朝。

普段決して体感することのない木々の中での夜明けは幻想的だった。

霧に反射して美しくちりばめられる木漏れ日、

朝露で瑞々しく色彩を際立たせる緑。


「ちょ~っと待ってくれよ…

これ、こんなにきちぃのか~…」


そんな幻想的な空気感と裏腹に、

寝て回復したての一行の体力を容赦なく奪っていく急勾配。


「泣き言言うな…

間違いなく、目的地に近づいている証拠だ…」


ひたすらに歩き続けることに専念し、

もうそろそろ限界だと思った頃、

目の前に光が差した。


それは森の出口、

そしてフィレンツェの人々の情報が正しければ、

「吊り橋」への到達を意味していた。


「よっしゃあああああ!!!

抜けたああああ!!!」

本当に珍しくソフィアが叫ぶ。

どうやら、一昨日寝れてない分を爆睡して、

今度は少しハイ気味になってしまったようだ、


一歩踏み出すと、勾配は全くなかった。


「これが…難所か…」


クリスの言葉に一気に現実に戻される。


目の前には断崖絶壁。

その途方もなく拡がる空白を埋めるのは

ボロボロの吊り橋だった。

「うそでしょ…」


意外、ディーネが呟く。

今までどんな戦闘でも、困難な道のりでも決して弱音を吐かなかった

ディーネが思わず漏らしてしまった。

それもそのはず。

どう考えても走破するのは危険極まりない。

いつ縄が千切れて落ちてもおかしくない、

そんな橋を5人で渡る…


かつてない恐怖を感じ始めたところに、

激しい風切り音が響く。


「やはり…来たか…」


舌打ちしながらクリスがつぶやく。

襲る襲る空を見上げると

超巨大な鳥が飛び回っていた。

それを見据え、レオンが絶望したように言う。


「あれは…ズー…」


「俺でも分かるぜ…

神話でもちょっと語られるくらいの

怪鳥だろ…?

現実に存在しているのは聞いたことがあるが、

まさかこんなところに…」


「本当に、アンタの言う通りだわ…

「こんなところ」で…

最悪だ…」


悪態を付くホークとソフィア。

それはそうだ。

足場は究極に悪い、

その上、安定した地上ですらアドバンテージのないレベルのモンスター。


「これ、渡らないといけないのよね…」

「ああ。諦めるしかないようだな…」


「レオンさん…?」


かのレオンの「諦める」という単語。

過敏に反応してしまうディーネ。


「早とちりすんなよ、ディーネ。

レオンの諦めるは、

ここを渡るのを諦める、じゃねぇ。


安パイでここを渡ることだ!!」


急降下を仕掛けてくるズーの攻撃を受け止め、

そして震える足で吊り橋への第一歩を踏み出す。

巨躯、そして大剣。吊り橋は大きく揺れる。


「陣形もクソもねぇ!!

おめーら!!

ついてこい!!」


鬨を上げるホーク。

それに続いてレオン、ソフィア、ディーネ、クリスが吊り橋へ踏み込んでいく。


それぞれが動くたびに大きく揺れ、

そして軋む音が耳を突き刺す。


見下ろせば、奈落。

見上げれば大怪鳥。


そんな不安定で不利極まりない状況にいることを知ってか知らずか、

上空から突風を巻き起こし、

そして急降下してくるズー。

致命傷には繋がらないものの、前に進むこともできない。

勿論、こちらの攻撃も届かない。


嘲笑うかのように上空から慈悲のない攻撃を繰り返してくる。


急降下でこちらに近づいた一瞬に攻撃を合わせるホークだが、

間に合わない。

相打ちに持っていこうにもタイミングが合わない。

強力な魔法で上空まで攻撃を届かせるも、

致命傷にならない。


「何てこったい…お二人さんの魔法が直撃しても無理なのかよ…」


「(私が…

私が、もっと強かったら…

もっと、弓が使えてたら、変わったのかな?

あのモンスターを、倒せてたのかな…?)」


ただ、3人に守られながらたじろぐしかないディーネは唇を噛み、

拳を握る。握った拳からは血が流れていた…

それほどまでに、悔しかった。


「もし」自分が強かったら…

「もし」弓を少しでも使いこなせていれば…

無力感だけでなかった。


-「もし」私が、みんなを巻き込んでいなかったら…


絶体絶命だった。

徐々に脆くなっていく足場。

そして勢いずくズーと、疲弊していくホーク達。


「…「もし」…か…」

「え?」


最後尾で攻撃をいなしていただけのクリスが囁く。

その囁きに驚きを隠せない。

-声に出てた…?

「いや、君のその後姿を見れば、分かる。

それに、弱者はいつだって「もし」と考える。


だが…君は弱者ではない。


何故なら、


「いつかじゃ、駄目だ」


と思っている。」


「う…そ…?」


キャンプで、誰にも聞かれないよう、

囁いたディーネの、願いを紡いだ密かな言葉。

夜風に消えたその言葉は、確かに、クリスに届いていた。


「そのいつかが、いつ訪れるか…

果たして数秒後か。

それとも、何十年後か…


流石の俺もそこまでは分からん。


だが、ここで倒れてしまっては、

そのいつかは永遠に訪れない。」


静かに、しかし力強く言うと、

クリスは吊り橋の入り口までバックステップし、

そして走り始める。

そして、ズーの真下まで潜ると

一気に跳躍する。


時が止まったかの様に思えた。


人間離れしている。

その剣捌き、そして言動の数々…

まだまだ彼はその力を全て見せていない。


飛び上がりながら、すれ違いざまにズーを切り上げる。

上昇は止まらない。


獣と言えど…

いや、獣だからこその勘を遥かに上回った地上からの剣劇をもろに浴びてしまい、

血しぶきをあげながら、空中で悶絶するズー。

その真上に達し、そしてズーへと急降下する。



「何をしている…」


呆気に取られるホーク達を見据え、

呆れたように、しかし、切望するように叫ぶ。



「早く行け!!」

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