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第三十話:証明への挑戦

ぼくは王都の道を全力で駆けた。懐には『生命の露』が入った小さなガラス瓶。院の裏口から潜入し、廊下を抜けて院長室へと向かう。


院長室の前に辿り着くと、ぼくは力任せに扉を開いた。


クロイツ院長は、薄明かりの中で重厚な机の前に座り、ぼくの乱入を予想していたかのように、一切驚く様子を見せなかった。


「アレン。やはり来たか。そして、何を手にしている」


クロイツ院長の目は、ぼくの手に握られた真の『生命の露』の瓶に釘付けになった。


「クロイツ院長。ぼくは、院長の命を受けていた『微睡みの雫』の調合を、これをもって完了とします」


ぼくは、瓶を掲げた。


「これは、あなたが恐れ封印した究極の薬『生命の露』です。いえ……『真の生命の露』です」


クロイツ院長は、静かに立ち上がった。


「その薬は、私が人類の倫理のために封印したものだ。術者の魂を犠牲にし、人を狂気に陥れる禁忌の力だ。それは毒だ!」


「違います。あなたが恐れたのは、薬の暴走ではありません。あなたが恐れたのは、あなたの野心や利益そのものの損失です」


ぼくは続けた。


「あなたは、自身の権威と野心を手放すことを、犠牲と呼びました。しかしぼくは、自分のすべての欲望を受け入れ、制御下に置くことで、この薬を安定させました」


クロイツ院長は、机を強く叩いた。


「戯言を! 証拠は何だ! お前の裏の師匠の妄言に過ぎん!」


その時、ぼくたちの背後の扉が再び開いた。息を切らせ、顔に煤をつけたライオスが、憤怒の表情で立っていた。


「院長! この男は裏切り者です! 院外の追放者と組み、院の機密を盗み、今、禁忌の薬を手にしています! すぐに捕縛を!」


クロイツ院長はライオスを一瞥しただけで、彼を止めることなく、ぼくにこう言った。


「ならば、証明しろ。その薬が毒ではなく、浄化の薬であることを」


ぼくは、クロイツ院長のその言葉を待っていた。


「薬の真価は治癒にあります。それをもって証明してみましょう。院長! あなたの最も信用していた上級薬師イシュトは、今、極度の疲労と心の淀みにより、院内の奥で重い心の病に蝕まれています。あなたの命令で、貴族の病を治す負担を一身に負った、あなたの忠実な道具です」


クロイツ院長は目を見開いた。


「その薬を、彼に試します」


ぼくは真の『生命の露』の瓶を、クロイツ院長の机の上に静かに置いた。


「もし、この薬が制御不能な毒ならば、イシュトは狂気に陥り記憶を失うでしょう。そして、あなたの懸念が正しかったと証明される」


クロイツ院長は、ただ黙って、ぼくを見ているだけだった。


「もしこの薬が、ぼくの制御のもとで安定しているならば、イシュトの心の淀みは浄化され彼は救われる」


ライオスは、ぼくの言葉に激しく動揺した。彼の信じる規律と、目の前の真実の証明が真正面からぶつかったのだ。


クロイツ院長は、机の上の透明な液体を、貪るように見つめた。


彼は心の中で、権威の保持と真理の探求が激しく戦っているようだった。最終的な裁定は、この究極の薬の証明に委ねられた。

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