第二十八話:最後の試練
ぼくは、老師の部屋で、すべての材料を準備した。
・乳鉢
・星詠の石
・影の薬草
中央に石の乳鉢。これは混じり気のない純粋な調合を実現する『磨き上げる鍵』だ。
その脇には、クロイツ院長の特級貯蔵室から持ち帰った、虹色の光を放つ『星詠の石』が置かれている。これは暴走を防ぐ『制御の鍵』だ。
そして製法図に記された、最高の「心の波」を持つときに収穫された、選りすぐりの影の薬草の数々。
三つの鍵が揃い、製法図の最終ページを広げた。
*
ぼくは、まず『星詠の石』を、石の乳鉢の横に置いた。虹色の光を放つその石は、薬の強大な力を吸収し、暴走を抑える抑止力として機能し始めた。
乳鉢に両手を置く。
意識的に心の奥底にある「淀み」を受け入れ、制御下に置く。
そして薬草を乳鉢に入れ、通常の調合よりも遥かに強い力ですり潰し始めた。
乳鉢の中で薬草が砕けるたび、ぼくの精神そのものが薬の触媒として機能し、体内の奥底から熱が湧き上がってくるのを感じた。
乳鉢から立ち上る蒸気は、以前の『微睡みの雫』のような穏やかな青ではない。それは、紫と金色の光を帯びて、激しく揺らめいていた。この揺らぎこそが、クロイツ院長が恐れ封印した、制御不能な浄化の力の表れだ。
調合が佳境に入った、その時だった。
下の階、シドの薬問屋の方から鉄の扉を乱暴に叩く、激しい衝撃音が響いた。
「ドンドン!」と轟音と共に、ライオスの怒りに満ちた声が聞こえる。
「シド! 開けろ! 違法な調合の臭いがする! 今すぐその裏の薬師を引き渡せ!」
きっとライオスは、今夜ぼくが何かを企てていると直感し、クロイツ院長の命令や規律をすべて無視して、個人的な目的でここへ来たようだ。
老師は、眉一つ動かさずに、静かに言った。
「来おったか。奴は、院の規律よりも、自分の正義を選んだ。シドは簡単には開けんだろうが時間の問題だ。急げアレン! この調合は中断すれば暴走するぞ」
階下から、シドの、わざとらしいほど、とぼけた声が聞こえてくる。彼が時間を稼いでいる。
「何の用だ、薬師様。ここはただの問屋だ、違法なものなど……」
「黙れ! この臭いは、院が禁じた影の薬の調合の臭いだ! そして、その薬を調合しているのは、院長の寵愛を受けている雑用係だろう!」
ライオスの声は興奮で震えていた。
ぼくは、雑音を遮断しようと深く集中した。薬の持つ紫と金色の光が、さらに強まる。
「心の淀みを、触媒に……」
ぼくは、自分の心の奥底にある、影の薬師としての真の証明、そして未来を切り開きたいという強い執着を薬の力と共鳴させた。その瞬間、乳鉢の中の液体が一瞬にして、世界を洗い流すような透明な光を放ち、すべての濁りが消えた。
真に完成した。
クロイツ院長が恐れて封印した『生命の露』が。
「真の生命の露……」
しかし、その瞬間、階下で鉄を捩じ切るような鈍い衝撃音が響いた。ライオスが、扉をこじ開けた音だ。
「アレン! どこだ!」
ライオスの足音が、秘密の階段を一段、また一段と、荒々しく踏みつけながら上がってくる。ぼくは完成したばかりの究極の薬を前に、最後の試練に直面していた。




