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第二十七話:究極の自己制御

ぼくは特級貯蔵室から持ち帰った『星詠の石』と、クロイツ院長が封印した『調律の儀式』の最終ページを広げた。


最終ページには、鉱物『星詠の石』の挿絵があった。それはまるで凍った湖のように、なめらかで静かに輝いていた。そしてその下には、誰かが意図的に削り取った一文が残されていた。


”「術者の魂を■■させることで、力の暴走を防ぎ、真の浄化を達成する」”


肝心な部分(■■)が読めない。この薬は単なる調合技術を超え、術者自身の魂を関与させることで完成に至るのではないだろうか??


老師は、その最終ページを見つめたまま、静かに言った。


「クロイツが隠したのは、この薬を完成させるための最も重い代償だ。それは術者の命ではない」


魂──その言葉が、ぼくは、ずっと引っかかっていたのだ。


「魂──、やはり術者の心に関わることなのですね」


老師が頷く。


「そうだ。生命の露は、強力な浄化作用により術者の持つ『個人的な欲望』や『心のわだかまり』といった心を触媒として使い、消し去ろうとする」


「老師! もっと分かりやすく説明して貰えませんか」


「ああ……つまりだな。人としての特性。個性。そうだな……クロイツの場合は『野心』という言葉が最も近いだろう」


「副作用は野心すら消してしまう? どこがいけないんですか?」


「野心のある者にとって、野心が消えてしまうほど怖いものはない」


その論理は分かる。だけど一つ分からない点があった。ぼくはその疑問を老師にぶつけてみた。


「しかし、クロイツ院長自身が、生命の露を作成したり、調合したりしないのだから、なにもリスクはないのでは?」


老師はもったいつけて一呼吸置いたのち、こう言った。


「よく聞くんだ、アレン。『生命の露』を作る者は野心や私欲を浄化されてしまう。もし術者が皆“澄んだ心”を持つようになったら、クロイツにとってこれほど厄介なものはない。なぜだか分かるか?」


「分からないから聞いてるんですよ! 毎回勿体つけたりせずに、率直に答えてくださいよ」


ぼくは少々イライラした。


「その通りだ! アレン」


(どの通りだよ……)


「周りが皆、清廉潔白な人間になったら、権力にしがみつく自分は、真っ先に排除される。そう考えたのだろう」


(だったら最初から、そう言えよ)


老師は、カッと目を見開き言った。


「だから彼は、この浄化の作用を“危険な副作用だ”と言い訳して、製法ごと封印したのだ!」


ぼくは呆れながら、こう言った。


「ぼくはなにも『犠牲』にはしませんよ。そんなのまっぴらごめんです」


ぼくは、老師から譲り受けた石の乳鉢と、今手に入れた『星詠の石』を並べた。


「ぼくは自分の魂を薬に奪われるのではなく、制御下に置いて利用します」


老師の顔に、満足の色が浮かんだ。


ぼくは『星詠の石』を手のひらに載せた。

すべての材料が揃い、理論も完成した。あとは究極の薬師となるための最後の調合に挑むだけだ。

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