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第二十三話:純度を保証する石

ぼくは急いで老師の隠れ家に戻った。


呼吸を整える間もなく、秘密の精製炉の構造と、羊皮紙の切れ端をテーブルに広げた。老師は、ぼくが手に入れたものを一瞥し、煙草を消して身を乗り出した。


「どうだった?」


「これが、見つけたメモです」


ぼくは精製炉の台座の様子を報告し、そこで発見したクロイツ院長の手書きのメモを、慎重に広げた。切れ端には「火を絶て。触媒の力は、時を選ばず、人を狂わせる」と記されている。


老師はメモを受け取り、深く納得したように頷く。


「やはりな」


老師は静かに笑った。

すべてを知り尽くした者の笑いだった。


「火を絶て……とは?」


ぼくは老師に尋ねた。


「『絶て』とは、炉を“使うな”という意味だ」


「……製法を封印したと?」


「その通りだ」老師は頷く。


ぼくはさらに尋ねる。


「では、メモにある『人を狂わせる力』と、製法図の『月の満ち欠け』はどう繋がるんですか?」


老師は断定した。


「月の力そのものが人を狂わせるわけじゃない。問題は別にある。普通の乳鉢で砕けば、どうしても削れた粉が混じる。その不純物(摩耗粉)が、薬の力を歪ませるんだ」


ぼくは息を飲んだ。この前からずっと、こんな調子だ。勿体付けたことを言ってて、今更それかよ……と思った。


「……じゃあ、狂気の原因は月じゃなくて……」


「ああ。不純物(摩耗粉)のことだ」


老師は更にこう言った。


「その摩耗粉こそが、薬を不安定なものに変えてしまう主犯だ」


「不純物が主犯だと!?」


ぼくは思わず復唱した。


老師は立ち上がり、部屋の隅にある古い木箱を開け、中を覗き込んだ。


「実はな、アレン。この乳鉢は、おれの研究の真髄だが、以前からどこに置いたか見失っていた。それが昨日、お前が潜入計画を立てている最中に、運良く見つかったのだ」


「ああ……それはメッチャ奇遇ですねェ」


ぼくだって時には呆れてしまうこともあるさ。なんなんだよ!

老師は土まみれの、簡素な古い石の乳鉢を取り出し、ぼくに手渡した。


「これは『生命の露』の究極の物理的な純度を保証するための精製具だ」


また新たな展開かよ。次から次に。覚えてられない……、という気持ちを抑えつつ、ぼくは老師の更なる話に耳を傾けた。


「でな。この石は超硬質だから、摩耗粉を一切生じさせないんだ。これがないと、お前は永久に純度を確保できないぞ」


老師は力を込めて言った。


「わかりました……つまり、この乳鉢がないと、本当に完成とは言えないんですね」


「そうだ。クロイツが物理的に解決できなかった課題を、お前の繊細な技術とこの調整具で乗り越えろ」


「……そろそろ、ぼくは院に戻りますね。ライオスのことも気がかりですし」


「うむ」


老師の悪い癖が出た。

はじめから答えを知ってるなら、率直に教えてくれればいいのに……なぜこの人は、こうももったいつけるんだろう。



院に戻ったぼくは、さっそく新たに手にした乳鉢を使って『微睡みの雫』の調合を始めた。この石の乳鉢は、薬草の持つ生命力を、無駄なく液体の核へと導いていくような感覚があった。


夜見草を砕き、薬草と混ぜ合わせる。

透明度が高く、光にかざすと、液体の奥で微かな青い閃光を放っていた。ぼくは、この薬がさらに人の心の深い部分に作用する危険な力を秘めていることを確信した。

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