第二十一話:院長室下の秘密炉
ぼくは、なにを置いても、真っ先に老師の元へと向かった。
ライオスの疑念が老師に向かっていることを、すぐに伝えなければならない。
「老師! ライオスが、あなたの存在に気づき始めています。院を追放された老薬師が、裏の小路に潜んでいるという噂を追っているようです」
ぼくの予想とは違い、老師はどこ吹く風と、まるっきり慌てた様子もなく、静かに煙草を吸いながらぼくの話を聞いた。
「ほう。あの規律の番人も、ようやくこちらの動きに気づき始めたか。クロイツの命令ではなく、彼自身の探求でおれの存在に気づいたわけか」
その表情は、どこか嬉しそうにも見える。
「感心している場合ではありません! もし彼がここを見つけ、あなたの存在が院長に知られれば……」
「その時は、この知識が失われるだけだ」
老師は淡々と答えたが、その目には覚悟の色が宿っていた。
「そんなことよりも、ほれ。どうなった?」
「あっ……!」
老師に急かされ、本題を忘れていたことに気づく──。
「そうそう……収穫がありましたよ!」
老師に助言された「調合室」ではなかったけど、ボイラー室で見つけた例の物と、そのスケッチを報告した。しかし老師の当てが外れたことを言うと、どうせまた不機嫌になるので、そのことには触れずに報告をした。
「ぼくは院内の初期設計図から、秘密の精製炉がある場所が院長室の真下だと突き止めました。こここそが、生命の露を精製していた場所のはずです」
そう言って、ぼくは書き写した設計図のスケッチを老師に見せた。熱供給がその一室に集中していることを示す図面を指差す。
「クロイツ院長は、この場所も製法と共に封印したはずです。ここに潜入できれば、生命の露の製法を解き明かす、手がかりになると思います」
老師は、図面を一瞥し、小さく笑った。
「見事だ、アレン」
老師は、ぼくに一つ助言を与えた。
「潜入はいい。だが、この秘密の部屋を探る間、ライオスの目は一時も離れないだろう。奴の監視を完全に無力化する方法が、一つだけある」
「そうなんですね! なんでしょうか!?」そう言って、ぼくは大袈裟に身を乗り出した。
「それは、奴の意識を完全に『別の場所』へ逸らすことだ。お前が次に動くときは、お前の裏の炉ではなく、シドの薬問屋の方へ、奴の注意を向けさせろ」
老師は得意げにそう言った。
「シドの店に?」
「シドは、お前が裏の師から知識を得ているというライオスの疑念を『確信』に変える手助けをしてくれるだろう。そうすればライオスは規律を破ってでも、この裏の小路へやってくる。その隙に院へ潜入しろ」
「それは……」
「アレン、心配するな。あくまでも『疑念』だよ」
それは、ライオスの「規律の番人」としての誇りを逆手に取った作戦だった。
「分かりました。ライオスの目は、ぼくの体ではなく、この薬問屋に向けさせます」




