第五話
「でも、もっと詳しい話を聞こうにも全員が全員口を揃えて『何が起きたのか覚えていない』って言ってね。中には『どうして自分がここにいるのか分からない』と言う者もいた」
「……」
多分、その中には「そもそもここにいた」という理由を隠蔽するためにワザと言わなかった人もいるのではないだろうか……とアリアは思ったが、コレはあえて言わない。
そもそもあの魔法を受けた者はその魔法を受けた前後の記憶が飛んでしまう事が、実はその影響には個人差があるのだ。
「まぁ。理由はどうであれ、君は大勢の貴族たちに言いがかりをつけられていたという事は何となく状況から見て理解出来た。ただ、本来であればすぐに主催である僕の耳に入ってもおかしくない案件のはずだ。それなのに君は何も言わなかった」
「……」
「もちろん『君以外の誰かが……』という線もあるかなって思ったけれど、あの場を立ち去ったのは君以外にいなかった事は僕が見ていたからよく分かっている。そうなると考えられるのは……」
「……」
この時点で見ただけでは分からないかも知れないが、実はアリアの冷や汗は尋常じゃなかった。でも、それはもちろん。周囲の警戒を怠ったのは自分の責任である。
ただ、まさかそれによって自分が追い詰められるとは……正直この時まで考えていなかった。
「本来なら『ありえない』と思うんだけど……正直あの状況を見てしまうと、正直そのありえない可能性しかなくなってしまう」
しかし「まだキュリオス王子はその貴族たちが固まっていた原因までは知らないかも……」という淡い期待をこの時はまだ持っていた。
「……」
だが、そんな淡い期待も王子の次の言葉で早々に打ち砕かれる事になる──。
「――君。呪文がなくても魔法が使える……もしくは短い呪文であれだけの出力の魔法が使える……よね?」
「……」
ここまで言われてしまっては下手に誤魔化してしまう方がかえって不自然だろう。
それに、キュリオス王子のこの言い方はどことなく確信を言っている様にすら聞こえる。
「殿下は……」
「ん?」
「それを聞いてどうなさるおつもりなのですか?」
「え?」
だからこそ、こう問いかけた。
要するにアリアの懸念は「キュリオス王子がこの事実を知った上でどういった行動を起こすか」という事だった。
「うーん……」
「……」
それにしても、お茶会から今まで全然『悪役令嬢』も「主人公」も何も出てこない事にアリアは少し不思議に思っていた。
なぜなら、お茶会が終わってすぐくらいにキュリオス王子は『悪役令嬢』である「クローズ家の令嬢」と婚約していたはずだからだ。
それなのに、今ここにいるのは悪役令嬢ではなくただの男爵家の令嬢。コレは一体どういう事なのだろうか。
「──どうもしない……かな?」
「え、どうもしない?」
ゲームとは違う状況に首を傾げているところに、キュリオス王子はさらに想定外の反応が返して来た。
「うん。ただ、僕はさらに君に興味を持ったきっかけではあったかな……とは思うけど」
「興味……ですか」
「うん。なにせ僕は魔法を学び始めて結構経つけど……君の様な人を見たのは初めてだったから」
「……」
ここでアリアは『十歳』で魔法を学び始めるのは「あくまで」一般論だという事に気が付いた。
そして、それは王族に適用されるか……と言うと、その答えは否である。
「僕としては君と仲のいい『友人』になれたらって思っているのだけど……」
「え、それは――」
そう言われてアリアは戸惑った。
「お気持ちは嬉しいです。ですが、殿下はこれから先。ご婚約されると思います。そんな中で私の様な位の低い令嬢と『友人』というのは少々……」
出来る限り失礼のない様に言葉を選んでそう言うと、キュリオス王子は「ああ、それなら大丈夫」となぜか穏やかな笑顔で言う。
「え?」
「──だって今。兄上は貴族のご令嬢どころか庶民の女の子に夢中だから」
そう言ってキュリオス王子は「え?」と困惑しているアリアを優しく見つめたのだった。




