第五話
「――ア」
「……」
「アリア!」
大きな声で自分の名前を呼ばれてアリアはようやく我に返った。
「ク、クローズ様」
「あなた。ここ最近ボーっとしている事が多いわよ?」
「もっ、申し訳ございません」
「体調。まだ治っていないのかしら? と言いたいところだけど……」
クローズはそう言いながらチラッとキュリオス王子の方を見る。
「大方殿下絡み……かしら?」
周囲を警戒しながらクローズはコソッとアリアに尋ねる。
「え。な、なぜ……」
「なぜですって? それは見ればすぐに分かるわよ。周りの人たちがどうかは知らないわ。でも、少なくとも私から見れば……今のあなたたちに違和感を覚えるわ」
「……」
キュリオス王子は……確かに自分で言っていた様に「返事を強要してくる」という事はなかった。むしろその逆で、昨日何を言ったのか忘れてしまった……という事はないとは思うが……とにかくいつも通りだった。
「……」
だからこそ、アリアは余計に困惑した。
もしかしたら「コレは王子の優しさなのかも知れない」とも思ったが、だからこそ焦っている自分もいる。
どうして焦っているのか……。
それは多分「ここで返事をしなければ、ずっとこのまま……時間が経ってしまったら最終的になかった事にされてしまうのではないか」と思ったからだ。
正直、今までは「そんな事はない」とか「ありえない」と思っていた。しかし、こうして改めて言われると……やはり考えてしまう。
でも、実は自分ではよく分かっている。今まではその感情に蓋をしてきたけれど、これはもう……キチンと向き合うべき時が来たのだろう。
「――放課後。場所を移して話しましょうか」
「――はい」
どのみち、この話はここで話すべき内容ではない。
いくら周りの雑踏がアリアたちの声をかき消してくれるとは言え、さすがに「限度」というモノがある。それに、誰かが聞き耳を立てているかも……という可能性も決して否定は出来なかった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ここなら……いいかしら」
放課後。クローズに連れてきてもらったのは……長期休暇の時にお兄様と訪れたカフェだった。
「す、すみません。わざわざ……」
「いいのよ。学校では話しにくい内容だったでしょうし」
クローズはそう言いつつ店員に注文をする。
「……はい」
この口ぶりから察するに、大方見当はついている様だ。
「――殿下から求婚されたかしら?」
「求……婚ではなく……」
突然切り出された言葉に驚きつつもアリアはそれを即座に否定した。
「あら、違うの?」
コレにクローズは意外そうな表情を見せる。
「その、告白を……されました。ただ、返事はすぐでなくていい……と」
アリアがそう言うと、クローズは「なるほどね」と納得する様に頷く。
「それであなたは驚いてどうすればいいのか分からなくなって今に至っている……というワケね」
「――はい」
正直。あそこまで真剣な……目を見て告白された事なんて前世でも一度もなかった。初めて故の経験のなさ……それが態度に出てしまっている形だ。
「……私はね。前から言っている通り、あなたならキュリオス殿下と共に歩いて行けると思っているのよ」
そこでクローズは「でも」と言葉を区切った。
「コレはあくまで私の意見でしかないわ。だから、私は『あなたはどうしたいのかしら?』と、聞きたいわ。多分、前に聞いた時とは違うと思うのだけど」
「わ、私は……」
まるで前回の『星空会』の時と同じ状況だ。でも、あの時とは心情が全然違う。
あの時は「分からない」という気持ちしかなかったが、今は自分の中でその「答え」がハッキリとしている。
「私は、殿下が好きです」
そう答えると、クローズは「そう。ちゃんと答えが出せたのね」と穏やかな笑顔で答えた。
「……」
アリアは「もし、私がクローズの立場だったら……こんな風にライバルに言えるだろうか」とゲームとは全然違うクローズを見て、改めてそう思った。




