パクラレルワールド
1
40歳の只野正男。
正直が取り柄の平凡なサラリーマン。
イジメをする太ったホモの係長が苦手。
こいつは他の上役がいない時だけ、汚い大声で叫ぶ気違い。
只野正男は、会社近くの喫茶店でコーヒーを飲むのが日課。
19歳のハーフ美女モカちゃんが、ウエイトレスをしている。
彼女目当てで通っている。
只野正男は8年前に結婚、郊外に一軒家を無理してローンで買った。
しかし子供は授かっていない。養子縁組を検討中。
2
只野「え?もう前借りしたって?」
財務係「そうだよ。昨日。サインも印鑑もある。君の今月の給料」
「そんな馬鹿な!」
「他の社員にも聞いてみろよ」
「昨日のいつだ?」
「昼休みに」
「うーむ、おかしなこともあるもんだ」
最近、私と、そっくりの奴が出没してるらしい。
3
「あれ?私がいる・・・」
喫茶店の外から店内を見る只野。
服も顔もそっくりな男がモカちゃんを口説いている。
マスターが割り込んで男は出て行く。
只野は後をつける。
「双子?他人の空似?変装?でも服も同じってのは?」
高台の公園。謎の男は木に登る。枝で横に移動して飛び降りる。
姿が消える。
「ええっ?」
只野も同じように木に登って飛び降りると。
真っ暗な水面を潜ったような感覚があり、一瞬気が遠くなって。
気が付くと地面に倒れていた。
「ここは・・・そうか、パラレルワールド、似た別世界!」
「あ、だとすると」会社に行く。給料の前借りができた。
こちらの世界での「俺」が「私の世界」に来て悪さをしてるらしい。
高台の公園へ。木を登って飛び降り、ワームホールを越えて自分の世界へ。
意思をしっかり持っていれば気を失わずに通過できた。
4
翌日。
「よく平気で会社に来れたな」包帯を巻いた係長。
只野「どうしたんですか?」
「きさまが殴ったんだろうが!警察に訴えてやる、来い!」
「違います!私そっくりの偽物がやったんです!」
「バカなことを、信用できんっ!」会社から走って逃げる。
習慣でモカちゃんの喫茶店に行くと。
マスター「あんた、モカを誘ってデートで押し倒したって。
彼女は未成年だぞ。警察へ・・・」
「ここでもか!」逃げ出す。
自宅
妻「あなた、モカって誰?愛人がいたなんて!離婚しましょう!」
「何の話だ?」
「電話で散々あたしの悪口を言っといて何をとぼけてるのっ!」
「あいつめ、許さんっ!」飛び出す。
5
「私の世界で無茶苦茶やりやがって!やり返してやる!
いじめを受けないコツはイジメをする奴をぶちのめすことだ、
自分の命は捨てて!やってやる!」
店でバット、登山ナイフを購入。バット用バッグで隠す。
異世界へ移動。
課長を襲おうとするが足が震えて動けない。
モカちゃんの帰りを待って後をつけるが襲えない。
「ダメだ、良心の呵責に耐えられない。
私には悪事はできない。出来る奴は悪の心を持ってるんだ。
キカイダーでいうところの良心回路。
ハカイダーやダーク破壊部隊は、心が無いからどんな悪事でも感情無しで行う。
悪人は悪い心を持ってる。
心底、他人を苦しめるのが楽しい蛆虫、地獄の生き物だ。
改心はありえない。刑務所なんて無駄。
害虫駆除するしか対処法が無い!
普通に盗みや脅迫、ポイ捨て、糞放置、汚い大声で叫んで嫌がらせする、
そういうことが楽しくてやってる、あいつら悪人は全部殺さないと。
人の姿だが中身は鬼、悪魔、ゴキブリ。
私に似てるが、あいつは心が腐ってる変質者、
別の生き物、あいつを殺すしか解決法は無い!」
6
別世界であいつを探すが見つからない。
自分の世界に戻ろうとワームホールを通過すると。
「あっ!」
「おっ!、見られちまったか」
深夜の公園で、私そっくりの男(仮名B)がシャベルで死体を埋めている。
死体は、頭をバットで割られた係長(こちらの世界の)。
Bは顔は、そっくりだがニタニタ嫌な笑いを浮かべていて、
チンピラっぽい悪相。
「おまえも死ね!」シャベルを振って、飛びかかってくる。
「く!」バットを入れたバッグで防ぐが、地面に倒れる。
手で掴んだ砂を、奴の顔面にぶつける。
「うわっ!」
シャベルとバットバッグを落とし、素手のバトル。
組み合って殴り合い。
自分だけあって勝負がつかない。
ナイフを出すタイミングがつかめない。
「二人共、動くな!」猟銃を構えた係長。
「えっ、あんたは何で?」
「おまえは殺したはず」
Bは死体を見る。
(異世界の)係長
「只野、おまえの後をつけたんだ。
まさかパラレルワールドに行ってたとは驚きだ。
二人共、殺してやる!」
只野はナイフを出して、棒立ちになっているBの首を刺す。
頚動脈を破られ、血を噴き出して倒れるB。
「・・・・・」
立っている方の只野に銃を向ける係長。
只野「待て、あんたを殴ったり、殺したのはそいつだ。私じゃない!」
「どうせおまえも私を殺したいと思ってたろう!」
「それは・・・」
引き金を引こうとする。
只野は死を覚悟してナイフで飛びかかる。
7
「ギャッ!」光って塵に変わる係長。
「え?」
半透明のクラゲのような生き物が出現。空中浮遊。
触手に筒を持っていて知性が感じられる。
筒が武器で係長を撃ったらしい。
只野「あなたは?」
テレパシーで答えるクラゲ。
「私は次元パトロールのルーバ。
君たち3次元生物の次元間移動は禁止されている。
この通路は閉じる」
「なぜ私を助けてくれたんです?」
ルーバ「悪の心を持った生き物は殺す、そうでないなら生かす。
それは我々の常識でも同じだ。
君の思考で言う所の「係長」、「B」は悪人だった」
そして筒からの熱線でBの死体、埋める途中の係長の死体も焼く。
そしてルーバは消える。
木の上の亜空間通路も無くなっていた。
そして私は元の生活に戻った。
嫌な上司「係長」は、いなくなった。
モカちゃんのいる喫茶店にはもう近づいていない。
会社での悪い評判、女房との信頼は、
時間をかけて修復するしかなかった。
手本は藤子・F・不二雄のマンガ「ぼくの悪行」