第97話 邪神ソベーレ
雲梯摩帆の転移魔法によって『賢者』達は異界の門の前へと瞬間移動をしてきていた。
転移してきた瞬間、その場にいた人間は敵味方お互いに状況を理解できない状態だった。
紅華は盾を構えながら最大限の警戒をしていた。
「宗麻?? 」(……じゃない……あれが邪神ソベーレね……)
蓮輝の目からは間空提子が魔法陣に縛り付けられて苦しんでいる様に見えていた。
「提子ちゃんもいるね……動けないみたいだね」
『賢者』与謝峰琴音は状況を理解し直ぐに行動に移す。手近な石を魔力で飛ばし魔法陣へと射撃するが、何かしらの力ではじき返され粉々になってしまう。
「魔法陣から……神の加護の力を吸い取って……あの門を開けている……ようですね……」
瑠衣が前に進み出て、強い警戒をしながらいつでも全員に『盾の加護』を使えるように準備をする。
「琴音さん。どうしましょう?」
「……魔法陣を破壊……すればいいのですが……結界が張られています。問題は……ソベーレと……鼓動さんがあちら側って事ですね……」
「……鼓動さん……」
「寛治さんがいれば『振動』の攻撃を無視できたのですが……困りました……」
瑠衣と琴音は目の前にいるのが邪神ソベーレだけでなく、鼓動正史がいるのに厄介さを感じていた。彼のギフト『振動操作』が巨大な地下室とはいえ、すべてを一瞬で破壊し、強制的に気絶させられてしまう力を持っていることを知っていた。
鼓動正史が突然現れた「五人」に驚き、異界の門から流れる黒い魔力の本流を見ていた邪神ソベーレに近づいて念話をする。
(神ソベーレよ。これはいささかまずいのでは……)
(ああ、そうだね……まだ開ききってないのに壊れては困るね)
(はい……私のギフトで気絶させる事はできますが、魔法陣もろとも破壊してしまいます)
(だねぇ……俺がなんとかするしかないねぇ……)
邪神ソベーレはゆっくりと振り返り、五人を順に品定めをするように見る。
『……すごいね! まさかいきなりここに飛んでくるとは!!! 困ってたんだよ……巫女の力が足りなくて……全部開かなくて困ってたんだ』
『賢者』は邪神ソベーレ達が対話してくれるのに安堵をしていた。
少しの時間を使って裏で作戦を考え最適解を導こうとしていた。
『あなたの目的は……なに?』
『『賢者』セレオースの魂を引き継ぐ者。君ならわかるだろう?』
『あちらの世界とこちらの世界を繋ぎ続けるつもり?』
『正解! さすが『賢者』様』
『それに何の意味が?』
邪神ソベーレはきょとんとした表情をする。
『何を言ってんの。面白いからに決まってるでしょ?』
『え?』
『へ?』
『……え?』
鼓動正史が本気で動揺する。
『か、神ソベーレよ……本気ですか?』
『ん? 本気だよ。だって不公平だろ? ほんとは世界が分かれているのに『あちらの世界』の力が使える人間がいるなんて。魂の力が強くてあっちの世界で貢献してくれた人間だけが得するなんてさぁ……あとさぁ……僕らの世界の人間があんなに苦しんでいるのに……ずるいじゃない? この世界に魔獣がいないなんて。魂のトレードをするなら……悪い部分もトレードしようよ』
蓮輝が思わず感想を口に出す。
『……神も暇なんだね……』
『はははっ! それを言ったら君達の心棒する女神もだね。わざわざ疲れた魂をいやすために別の平和な世界に送り付けるなんて……考えもしないよね。同じ世界だけで回した方が楽なのに。弱肉強食のほうがわかりやすいのにねぇ』
邪神ソベーレは突然瑠衣の横に出現する。邪神ソベーレの周りに遅れて突風が吹く。
「なっ?!」
「えっ!?」
驚いている間に、邪神ソベーレと、彼の肩に担がれた瑠衣の姿が誰もいない魔法陣の上に出現して、同じように部屋に突風が吹く。
「ぐっ……うぇっ……」
「ん? 大丈夫だよな……ちょっと早すぎたかな?」
瑠衣が突然の高速移動で険しい表情になりぐったりとしていた。邪神ソベーレは彼女をやさしく地面に降ろし魔法陣から出る。すると魔法陣が光り輝き、異界の門へと流れ込み始める。
『ん~足りないな……あと一人かな?』
「瑠衣ちゃん!!! こんのっ!!!」
紅華が瑠衣の方に突っ込み、持っていた剣で魔法陣を破壊しようとするが見えない壁に走る魔力で吹き飛ばされてしまう。
雲梯摩帆が驚きの声を上げる。
「今の転移じゃなかった!! なにあれ!!」
『賢者』与謝峯琴音は焦燥に満ちた表情になっていく。
「……ソベーレは時を司っています……時を操作する能力があるのかもしれません……」
「えっ! それってやりたい放題じゃない!?」
「時間停止能力???」
「寛治さんのすごいやつか……」
邪神ソベーレは開き始める『異界の門』を前に興奮し始める。
『ほらもうすぐ門が完全に開く……これであちらの世界とこちらの世界は完全につながる……新たな混乱の誕生だ!』
ドーーーン!!!
一同が絶望に包まれる中、突然壁が破壊され粉煙が舞う。
海波達だった。
「すごいな……土木作業が簡単にできるじゃないか!」
「お兄ちゃん、これでこの世界でも稼げるね!」
「……二人とも何を言ってるんだ……」
『強い力を感じる。警戒を……』
白波翔が彼の周囲に様々な魔法陣を展開しながら部屋の状況を観察する。
「……これはどういう状況なんだい?」
白波陽花里が驚きながら周囲に光の加護を展開する。
「え……瑠衣ちゃんも転生者だったの??」
(これはどういう事?)
(……聖女の力が流れ込んでいるな……魔法陣から吸収をしている様に見える)
(なるほど、あれを破壊すればいいんだね)
(?)
(ん? なんだ? 袖を引っ張られてる??)
海波が不自然に袖を引っ張られる感じを受け、そちらに注目をしていた。
何もない空間に見知った視線だけを感じていた。
邪神ソベーレは白波陽花里を見て興奮を隠せないでいた。
『待っていたよ! まさか巫女が来てくれるなんて!! しかも素晴らしい神の力を持っているとは!!』
竜族の戦士が非常事態に気が付き、異世界言葉で『賢者』に話しかける。
『セレス!状況を!』
『! (コーム兄さん!)……邪神ソベーレが異界の門を開いてるの……魔法陣を破壊すれば止まる……あとはソベーレは時を、そこにいる転生者はギフトで『振動』を操作するわ』
『なるほど……ショウ! いつでも準備はいい!』
『ああ、わかった……破壊なら任せろ……』
鼓動正史がひきつった表情になっていく。
『くっ……竜族の戦士とは……相性が悪い……』
『おぬしのギフトと私の『咆哮』何方が早いか試してみようじゃないか』
『ちっ……』
邪神ソベーレはいろいろと感じ取れたのか交渉に切り替え、考える時間を確保しようとする。
『ちょっと待った!! いいのかい!? この体……君たちのお友達のものだろ? ……あと少し俺が力を使ったなら……どうなるかわかるかい?』
邪神ソベーレは口元に付いた血を手に付け見える様に大げさに腕を広げる。
魔法陣に囚われた瑠衣が冷めた目で邪神ソベーレを見る。
『……別に何とも……』
紅華が魔法陣周りの地面を剣で突き刺し、一瞬止まった後に同意して作業を再開する。
『そうね……やっちゃっていいね』
蓮輝が自身のギフトの使いどころを考えながらも同意する。彼が今授かっている『神の加護』を上乗せすれば、この辺の空気を一点に集め、真空状態にすることもできた。
『そうだね。誰も困らないな……ね、提子ちゃん?』
邪神ソベーレは思わぬ反応に間空提子に話しかける。
『ちょっと待て……君の彼氏なんだろ??? 返してほしければ……』
間空提子は涙目になりながらも声を振り絞った。
『そんな人……彼氏じゃないです! ……それに私には、私を待ってくれている人がいる!』
『……へ? ……そうなの? こいつの記憶と違う? ちっ……作戦変更か……』
邪神ソベーレが自身の周りに黒い魔力の手を幾本も出現させ迎撃態勢を取り始める。
白波翔が大量の魔法陣を周囲に展開させる。
『黒い腕は俺が封じる。あとは任せた』
全員が戦闘の構えをし、各々が魔力を高め始める。
その場に凄まじい緊張が走り始める。
今、まさに口火が切られようとしている時に鼓動正史がふと違和感に気が付く。
『神ソベーレ……人数が減っています……』
邪神ソベーレは意外な言葉に少し前の記憶をたどろうとする。
『……なに? ……あ』
ドコォオォオン!!!!
突然、どこからともなく現れた海波の雷と神の加護を持った拳が綺麗に邪神ソベーレの腹に突き刺さって
いた。
『……グァアアアアアッ!!!!』
あまりの威力で彼の下半身が吹き飛び、上半身は人形のようにくるくると空を舞った後、地面に落ちて行った。
(よし! 女神の加護で邪神ソベーレにもダメージがいったようだ!)
(……グ、グロイ……)
『な……そ……ゴフッ……い、痛い……俺にも……痛み……エネリエスめ……力を……』
「取り付いた人間を間違っていた様だな。おかげで「思いっきり」やれた』
(……すっとした……)
(ああ、俺にも君の気持ちが伝わってくる……)
邪神ソベーレは憐れみを一切感じない海波の瞳ですべてを理解する。
『ぐ……コイツ……どれだけ恨みを……はは……確かに……この記憶は……こいつは人に好かれる人間じゃないねぇ……くそっ……たのしく……な……い…』
邪神ソベーレの気配が召田宗麻の体から消えていった。
すると突然日本語で絶叫が聞こえる。
「い、いてええええええ!!! な、んじゃこりゃぁ!!」
海波は傍らにいた丸亀礼音とハイタッチをしてお互いをたたえていた。
「いぇい! ラスボスに完全不意打ち成功♪」
「良い戦略だった」
「もっと褒めろ」
その場にいた二人以外は呆然とし、次の行動がとれなかった。
「あ……お兄ちゃん……やりすぎだよ!!」
陽花里が、上半身だけになった召田宗麻に癒しの力をかけ始める。彼の体は不自然なレベルで癒され、下半身もみるみると再生していく。
「っつぅー……ありがとう……くっそ……海波め……ちくしょう……」
「……随分と……はぁ……まぁいいです……」
白波翔は警戒態勢の鼓動正史に声をかける。
「あんたはどうする? 投降するか?」
「……撤退させてもらうよ」
鼓動正史が煙幕の様なものを放つと、それと同時に白波翔の拘束魔法が放たれる。だが、拘束魔法は何にも当たらずに彼の姿が描き消えていた。
「逃げられたか……」
「転移魔法の気配があった。発動媒体あったのかも」
雲梯摩帆が部屋に残された魔力を見て推察する。
『賢者』が周囲に満ちた固定された魔力の揺らぎを感じ始め、真帆に話しかける。
「私たちもこの場から離れましょう。あちらの世界に行ってしまうかもしれません」
「わかった。魔法陣を壊し終わったらみんな集まって! 外に出るよ!!」
一同は魔法陣を神の加護の力で破壊し、囚われていた瑠衣と提子を救う。『異界の門』が小さく閉じていくのを確認すると、真帆の元へと集まっていった。
真帆が転移魔法を唱えると『異界の門』の前から全員が姿を消していた。
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犬族の重戦士が異変に気付き、周囲に大きな声で指示を出す。
『『飢える魔王』への流れる魔力が止まった!! 総攻撃だ!! 畳みかけるぞ!!!』
『『『オーッ!!』』
異世界の戦士と転生者達がなだれ込むように『飢える魔王』に攻撃を仕掛けていく。
力の供給源を絶たれた『飢える魔王』は攻撃にさらされ、徐々に体を小さくしていく。
早風切那は『飢える魔王』の触手を風が舞う様に切り落としながら、勝利を手中に収め始めていることに気が付いていた。
『みなさんどいてください!! 行きます!!』
羽雪優斗が剣に魔力と神の加護を纏い、『飢える魔王』の心臓へと凄まじい威力の剣戟を放った。
とんでもない威力の光の斬撃は『飢える魔王』を袈裟切りにし吹き飛ばしていた。
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