第95話 妹と『万能霊薬』
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白波陽花里は飛竜に乗って上空から怪我人が出ていないかを注視していた。彼女の心配をよそに、異世界と転生者の歴戦の猛者たちは面白いように『飢える魔王』の攻撃をかわし触手を薙ぎ払い、切り刻んでいた。
飛竜を操縦していた転移者の仲間が戦士達の奮闘に興奮していた。
「すげぇ!! いけそうだね!」
「……うん、でも……近づけないみたいだね……あれじゃ……」
彼女の心配は的中し、『飢える魔王』の体表に浮き出る『口』に対して攻撃を仕掛ける事が出来ていなかった。
「え? なぁ、……あれって……魔導砲撃じゃ……」
「うん……あっちでも……沢山あれで人が死んだよね……あ……もしかしてあのへんな格好……この魔力は……お兄ちゃん?? 私。行くね! 渡さないと!!」
「え? 行くって? あっ!」
白波陽花里は飛竜から飛び降り、祝詞を紡ぎ始める。
彼女は、女神エネリエスから与えられた力が異世界の門と『地面』より湧き出てくるのを感じる。
『我は祈りをささげる。豊穣と平和を司る女神エネリエスよ。眠りについた古き神々よ。我が祈りを聞き届け聖なる力を分け与え……我に御力を行使させ給え!『審判光楔』!!』
白波陽花里が祝詞を上げると天から巨大な光の槍が降ってくる。
巨大な光の槍は意思があるかの如く『飢える魔王』の魔力が溜まっていた『口』に突き刺さり大爆発を起こしていく。
スドドドドドーン!!!
異世界の戦士や転生者達は『女神の裁き』に似た大樹のように巨大な光の槍を見て唖然としていた。
『なにが??』
『光の聖女様か!』
「……とんでもない魔法だ……」
「陽花里ちゃんだよな? あれ?」
海波は巨大な光の槍に驚いて上空を見上げる。すると視界の片隅に神聖な気配を発する人間を発見する。
(……あの天使から放たれたのか?)
(ねぇ! あの人、大丈夫だよね!?)
(くっ!! 落ちている……まっすぐこっちに来る……飛行能力はなさそうだな!!!)
海波は魔法を放ったであろう『天使』へと魔力を込めた足でジャンプと風魔法を駆使してキャッチしに行く。徐々に近づくにつれて海波は誰が『天使』なのか気が付いていく。
(……え? まさか……)
(これは……君の記憶にある……)
『天使』は微笑みと目に涙を浮かばせながら手を大きく広げる。
海波は『天使』との相対速度を限りなくゼロにして優しく抱きしめてキャッチする。風魔法に守られるように抱き合ったままゆっくりと降りていく。
「陽花里!!! 陽花里なのか??」
「……お兄ちゃん……変な仮面……」
「……ああ……すまない……」
海波がマスクを片手てはぎとると、愛おしそうに、目に涙を浮かべながら懐かしい妹の姿を見る。
(……君の記憶とずいぶん違う……大人らしくなった……戦いを経験した者の目だ……)
「……大きくなったな……」
「うん……もう二年も経つんだよ……」
「そうだな……おかえり……」
「ただいま……」
海波と陽花里はゆっくりと地面に降り立つ。陽花里の体がぼんやりと光り始める。
すると、海波の体の中に、神々しい何かしらの力が陽花里から流れ込んでいく。
「え……」
「エネリエス様から渡すようにって……この力……使い方わかる?」
「……すまない、わからない……え? これは?」
海波は、体と頭の中に伝わってくる何かの意思を感じていた。
海波は思わず陽花里から手を放して自分の体の様子を確かめる。
「なるほど……俺の敵は……あっちか……」
二人が懐かしさと神の力に戸惑っていると、ずたずたになって動けなくなっていた『飢える魔王』の周囲に大量の魔法陣が出現し、そこから大量の魔獣が新たに湧き出てくる。
「師匠!! いちゃついてないで手伝ってください!!」
「エネリエス様は重婚を禁止しておられるぞ!」
羽雪優斗と縮圧元次が新たに出現してくる魔獣を切り伏せながら茶化していた。
「妹だっ!!!」
海波が『飢える魔王』を見ると、瞬く間に傷が修復され、どこかから何かの別の力が流れ込んでいる様な感じがした。
「くそっ……きりが無いな……」
「ねぇ、お兄ちゃん、邪神ソベーレはどこ? あいつを追い払わないと……あいつが力を供給してるのかも」
「場所が分からない……時空を操るらしい……」
「あ、私、場所分かるかも。下の方だね……」
「? 下? 女神の力の導きの方向か?」
海波は『爆心地』の方を見ている陽花里を見て、その方向に何かがあった事を思い出していた。
(あの門か?)
(あそこだね『爆心地』の開かなかった門……)
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邪神ソベーレは珍しく焦っていた。
彼は『爆心地』にあった『異界の門』を開こうとしていた。
だが、人が通れるかどうかの小さな穴が開いただけだった。
「……完全に開かないな……やはり巫女……俺の渡した力が不足しているのか……」
「しかし、人が通れる程度には開いています。力が流れ込んでくるのを感じますが……」
「うーん。時の巫女と空の巫女もつれてくるか……場所分かるかい?」
「ですから……私たちの仲間は時戻しによってやられてしまっています」
「……ああ、そうだったね。面倒だ。俺の力もそろそろ限界だしな……この体もそろそろヤバそうだ」
邪神ソベーレが鼻をぬぐうと、そこには血がべっとりとついていた。
鼓動正史が魔法陣の上に置かれた間空提子を見る。
彼女はただ呆然としながら異界の門に出現した『次元の門』を見ていた。
彼女の巫女の目からは黒い禍々しい何かが天井を突き抜けて上の方に流れているのが見えていた。
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正津成有は『賢者』の返答を待っていた。
砲撃部隊のメンバーも同様に固唾をのんで待っていた。
「……戦術核の使用を……申請します……ここまでの様です……」
紅華が状況を理解し絶望した感じになっていく。
「……って事は……この街が全部……無くなっちゃう……の?」
何とも言えない静寂がその場を包む中、寛治が前線で戦い『飢える魔王』を食い止めている仲間達を見る。
「……仲間達は大丈夫なんだろうな?」
『賢者』はうつむいて地面を見つめながら答える。
「仲間達は大丈夫です……放射能汚染でこの街はしばらく人が住めなくなるでしょう……全部は無くならないと思いますが……」
「そんな……」
「何のために今まで……」
正津成有が控えていた自衛隊隊員に指示を出そうとすると、遠くの方から場違いな大騒ぎをする集団が空を飛んで突っ込んでくる。
「うああああああああ!! どいてぇ!!!!」
「ごめぇえん!! 無駄打ちしすぎたぁあああ!! でかい金属が無いぃいいいいいい!!!」
「きゃあああああ!! 止めてぇ!!!」
遠地寛治が時間遅延を飛んでくる人間にまとめてかけて時間をゆっくりとさせ、切那が『逆加速』で速度を落としゆっくりと地面に降ろす。
「あ、ありがとう!! 寛治さん! セツナさん!」
「すまねぇ……調子乗りすぎた」
「助かります……」
蓮輝、伝地力弥、|伴戸志姫の三人だった。
紅華が間の抜けた三人に思わず声をかける。
「蓮輝……こんな時にあんたなにやってんの……」
「ああ、君たちが瞬間移動する前にって思って力弥君に無理やり間に合わせもらったんだ」
「お、おお。間に合ったな……って……なんか凄い暗い雰囲気が……」
「君たちがポンポン飛んで砲撃するから場所が特定できなくてね。それで撃つ間隔を測って……」
伴戸志姫が場の雰囲気を読んで慌てて話を促す。
「蓮輝君! また話が脱線しそう! 女神さまの導きの話をしないと!」
「あ、そうだった。駄目だ。蓮輝に話させると長い!」
「そうです! ……あ、それを届けに来ました。女神さまの贈り物です! 蓮輝君! 出して!」
蓮輝は二人をジト目で見ながら背中にしょったリュックからケースに入った『万能霊薬』を何個も取り出す。
「なんかひどいな……はい。女神様の特性『万能霊薬』。魔力の減った体もたちどころに癒すよ!」
砲撃部隊のメンバーは蓮輝の取り出した神話級ともいわれる光が輝く『万能霊薬』を見て目の輝きが戻っていった。
蓮輝は彼らのどんな表情をしているかおかまいなしに、制作方法から順に丁寧に解説を始めていた。
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