第94話 異界からの援軍
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正津成有は隣に立つ『賢者』与謝峰琴音がこらえ切れずに泣き出しているのに驚いていた。
「『賢者』……与謝峯さん……大丈夫ですか?」
「……ダ、ダイジョウブですっ! 大丈夫です……ひぐっ……」
琴音は涙を拭きながらその場にる全員に聞こえるくらいの大きさで凛とした声で話す。
「このエリアに全体に通達を!」
『以心伝心』のギフトを持った自衛隊員が驚きの声を上げるとともに抗議する。
「エリア全体ですか!? 『飢える魔王』にも伝わっちゃいますよ! 『以心伝心』は知能あるモノ全部に伝わっちゃいます!」
「大丈夫です!」
表情を崩しながらも自身に満ち溢れた瞳をしている『賢者』を見て自衛隊員は色々と悟る。
「セレオース様が言うなら……わかりました。どうぞ!」
『賢者』は自衛隊員の肩に触れて感情を捨てきれない、感動が入り混じった声を発する。
『……80秒後に砲撃を開始します! それまで『飢える魔王』の攻撃を退けてください!! 繰り返します。砲撃開始の80秒後まで『飢える魔王』をひきつけてください!』
その場にいた人間は指示の短さに呆気にとられる。
「え? それだけでいいのか?」
「やること変わらないんじゃ、反撃食らっておしまいだろう?」
『なんでわざわざ異世界語で?』
与謝峰琴音は涙を拭きながら上空を見上げていた。
「いいんです。……エネリエスの……『女神の騎士』達が駆けつけてくれました。戦友たちが……」
早風切那も何かに気が付いた様で準備を開始する。
「なるほど……皆準備開始だ! 懐かしい顔が参戦してくれたようだ! お前たち気合入れな!」
『転生者砲撃部隊』は一番作戦に反論しそうな早風切那がすんなりと言う事を聞いて準備を始めるのを見て自分のセットポジションについていた。
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白波陽花里は飛竜にまたがり上空を滑空しながら感動していた。
眼下に広がる光景はまさしく現代の日本だった。
彼女の前後に座っている仲間達もその光景に驚きを思わず口にしていた。
「おおお!! 日本じゃないか!? ってか、俺たちのいたところじゃない?! あれ、ショッピングモールのところなんか変な建物あるし!」
「うん! そうだね! 懐かしい!!」
『『光の聖女』よ! すごいな! これが「ニホン」か!! なんと巨大な街なのだ!!』
『これで地方都市、『辺境』ですよ!』
『なんと!! それはすばらしい!!』
飛竜に同乗していた同級生の男子と異世界の戦士は興奮していた。
彼女もその興奮にあてられるように嬉しくなっていたが、この世界では見慣れないハズの戦車や戦闘機や戦闘ヘリが飛び回っているのを見て一気に冷静になる。
すると突然彼女達の頭の中に聞いたことのない女性の声が響き渡る。
「へ? なんだこれ? 頭の中に……」
『声が響き渡る……『意思伝達』のギフトか?』
白波陽花里は声の主がすべてを把握しているのを理解した。
「さぁ、私たちも行きましょう!」
「りょうかいー!」
『承知仕った』
三人を乗せた飛竜は仲間達の飛竜に追従するように落下していった『飢える魔王』へと近づいていった。
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遠く離れた自衛隊の作戦本部では、新たに出現した空を飛ぶ飛竜や異界の戦士達に動揺を隠せなかった。
さらに作戦支部が勝手に何かを絶叫しながら撤退を開始し、各部隊が勝手に動き始め、撤退や標的を変えていく報告を裁き続け、現場では混乱が巻き起こり……というより混沌としてコントロール不能状態に陥っていた。
さらにモニターに映された新たな異界の生物達が拍車をかけていた。
「……なんだあれ?」
「ドラゴンですかね?」
「……着いていけない……めちゃくちゃだよ。もう」
頭がマヒしかかっている上層部にさらに追い打ちをかける様に新しい情報が入ってくる。
「未確認の飛行型の魔獣を確認!! 人が乗っています!!」
「『転生者砲撃部隊』の『賢者』より通達! 飛行する魔獣は味方! 攻撃するなと連絡あり!」
司令官と側近たちはモニターを見ながら呆然としながら現実に追い付かない頭で会話をする。
「……あれか? ドラゴンライダー……だな」
「見た事も無い人間……人間なのか?……」
「日本人らしき人間もいますね……」
「本当に巻き戻ったんだな……あの怪獣が突然ワープだもんな……」
「って事は、あのエリアだけ時間がもどったんですかね。先ほど撃墜されたシグナルが何故が復活してますし……」
「戦車隊も無事ですしね……」
「摩訶不思議な能力を……どうすればいいってんだ?」
「さぁ……」
返答もせずにモニターに食い入りながら、雑談をしている上層部達に業を煮やした部下たちが詰め寄っていく。
「司令!!」
「情報を! 連絡を早くしないと!!」
「……すまない。あまりの事に……全域に通達! ドラゴンライダーは攻撃するな! 空飛ぶ竜は無視しろ! 各自、前回の記憶をもとに遊撃!!」
「了解! 遊撃?? ですか? あと……日本語で分かる感じで……空飛ぶ竜に乗った騎兵で通達しますね!」
「任せる」
その場にいた隊員たちは空気を読み、よほどの事が無い限り上司に連絡をせずに、各々が独断で「遊撃」をはじめていた。
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白波翔は天に開かれた異界の門をくぐった瞬間にすべてを理解した。
だが目下に広がる景色を見て、ここが「地元」のすぐ近くの上空だと判断した。2年半ぶりの帰郷に感情の堰が外れかかっていた。
(……泣くな……まだ泣くときじゃない……あれを何とかするんだ!)
白波翔は異世界にて仲間達を引き連れ、死んでいった者達や辛かったことなどを走馬灯のように思い出してた。
「代表!! 既に……すでに攻撃対象が「ロックオン」されています!!」
「……なん……だと!??」
「この世界の転生者の魔法でしょうか?! 僕の感知魔法でも大量の魔獣を確認!!」
白波翔は直ぐに理解をする。
彼の体は興奮と感動で指の先まで痺れていくような感覚を受けていた。
「……ああ、わかった……このオリジナル魔法を使えるのは……この世界に一人しかいない……」
白波翔はバックから取り出した大粒の魔石からとりだした大量の魔力を体にまとわせて呪文の詠唱を始める。
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、光の導く座標へと魔を射貫く光の槍となれ!!『多重奏・標的追跡光槍』!!』
白波翔の周囲に発生した大量の魔法陣から発せられたすさまじい光の帯が空へと放たれた後、幾千にも別れて流星の様に地面へと降りそそぐ。
ズドドドッドドドッドーン!!!!!
千もの光の槍の魔法は『爆心地』から湧き出ていた大量の魔獣たちの核を自動的に追尾して貫いて黒い煙へと返していく。
「やりましたね!! ってか『標的補足』どうやったんだろ? こっちにも魔道機械兵がいるんですかね?」
『……ふむ。レヴィとセレスの気配を感じるな……「のぞみちゃん」がやったのだろうな』
「え? のぞみちゃん??」
『先に来ていた魔導機械人形だ』
「お、おけ、たぶん理解している……と思う」
「……ありがとう……浪音……グラシェレン……」
白波翔が次の手を考えていると、彼の頭の中にも女性の声が響き渡る。
「……これは?」
「代表!! 俺にも聞こえます! こっちの司令部ですかね?」
『ああ、聞こえる……セレス……『賢者』の発音だな……懐かしい……』
竜族の戦士の目には涙が浮かんでいた。彼は『賢者』の声にも強い感情が乗っているのに気が付いていた。
白波翔達の飛竜は、声の導きのとおりに『飢える魔王』へユラユラと回避運動をしながら接近を開始した。
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海波達は血しぶきをまき散らしながら落下してきた『飢える魔王』から被害を食らわない様に緊急離脱をしていた。
それとほぼ同時に上空ですさまじい魔力が放たれたかと思うと、空を覆いつくすような光の流星があたりに降り注ぐのを目撃する。
(なんだあれは?!)
(凄い!! 敵に向かって曲がってる! ホーミングレーザーだ!!! 綺麗!!!)
(ほ、ほーみんぐ……自動追従型の魔法か……すごいな……あれではよけられない……ひきつけて寸前でかわせばいいか……)
(何で戦う事を考えてるの!!)
伏野一休が周囲を見回し、あたりに存在していた大量の魔獣の気配が一気になくなったことをを悟る。
「おいおい。凄い魔法だな! こんなの見たこと無いぞ!」
「ほんとっすね! こんなすごいのあったら……あの時も楽だっただろうなぁ……」
羽雪優斗が魔法の威力に感心しながらも何かに気が付き空を見上げる。
「師匠!! これは……います! 仲間が! あちらの世界からの援軍だ!」
伏野一休が飛竜に乗った異世界人の種族に驚いていた。
「すげぇ……まさか同胞が……こんなに……」
「……」
感動する二人とは別に縮圧元次は地面を見つめていた。
(あれ? どうしたんだろ? ゲンジさん?)
(ディムメス卿は時が戻る前は決死の覚悟だったのだ……触れないのがいいのだが……この場合は……)
「大丈夫か?」
「……恥ずかしさで死にそうだ……早く体を動かしたい……」
「そうだな。次はあの状況にさせない」
「くっ……すまない」
羽雪優斗が援軍に知った気配を大量に感じ心の底から勇気が湧き出てくる。
「えっ……お、おお!! 大丈夫っすよ! アハハッ!! まさかアイツらも来てくれるなんて!!!」
「ど、どうした突然??」
「……大丈夫かレヴィ??」
「ええ、大丈夫っす。師匠、あなたにとっても懐かしい仲間が来てくれましたよ!」
「俺にとって……」
海波も確認するために上空を見上げる。
そこには飛竜にまたがった戦士達が『飢える魔王』を囲う様に旋回をしながらこちらへと舞い降りてきていた。
その飛竜の背中には前世でレヴィと共に戦闘訓練をした仲間達の顔ぶれがそろっていた。
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