第93話 決死隊・異界の門へ
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ここではない世界。
異世界人の魔術師と転移者達によって『飢える魔王』への総攻撃が行われていた。魔法だけではなく、化学の力が乗った魔法化学術によって大爆発が起き『飢える魔王』を撃退というより、転移魔法陣の方へと押し込んでいた。
色々な人種から歓声が上がる中、白波翔は冷静に飛竜の上で『飢える魔王』に接近し分析する。これ以上の反撃は「こちらの世界」側にない事を悟った。
「……『飢える魔王』が逃げているのか? あれは?」
『……どうやらあれで転移するのが目的のようだが……』
「代表。なんか……魔法陣の穴に詰まってますね……体が大きすぎて……え? 体から血が??」
「引きちぎっているようだな……」
「自分の体なのに……痛くないんですかね……」
『恐ろしい魔物だ……さすが『魔王』か』
「なんか、滑稽ですね……あちら側からも押され返されている感じですし……」
「転移した先でも攻撃を受けているのかもしれないな。あれだけの魔力だ。流石に気が付かれるだろう」
『飢える魔王』は自身の体をそぎ落とし、向こうからの何かしらの力を押しのけながら無理やりに異次元の門へと入っていく。それを見届けた異世界人達から大きな歓声が上がり、『魔王軍』は落胆し、我先に逃げ出すもの、撤退の準備をして仲間と共に後退するもの、各々の自衛のために奔走していた。
突然、転移魔法陣の揺らぎの向こうから衝撃が走り、止めと言わんばかりに『飢える魔王』から大量の血しぶきが舞い散り、体全体があちらの世界へと落ちて行った。
「終わりましたね……」
「ああ……勝利……だな、この世界の人間にとっての勝利だ」
竜族の戦士が喜びの少ない白波翔を見て問いかける。
『追うのか?』
『ああ。あいつの心臓をつぶさない限りは……同胞たちが帰れないからな……』
白波翔はショッピングモールの方向を見て、まだ『飢える魔王』の魔力が切れておらず、この世界にショッピングモールが繋ぎ止められていることを確認する。
『飢える魔王』が向こう側に落ちて行き、遮る事も無くなった空間には揺らめく次元の門があった。そのまわりを一同はこれからどうするか躊躇しながら旋回して注視していた。
歪んだ空間の先には明らかに近代的な都市の様なものが映し出されていた。
「アイツ、本当に逃げたのか? 移住したんじゃ?」
「なぁ、あちらに見えるのって……違う世界っぽくないか?」
「街が見えるな……」
「Googleマップみたいだな……空なのか?」
『すごいものだな……あれが異世界か……』
『ああ、そうだね。こちらから見たら『異世界』だ』
白波翔は歪んで見える「あちらの世界」が、自分たちのいた「世界」かの確信は持てなかったが、日本に似た現代的な世界だという事には気が付いていた。
「俺は追う! 今まで世話になった!! みんなはショッピングモールに戻って帰還を楽しみにしていてくれ!!」
白波翔が飛竜の蔵の上に立ち上がり、飛行魔法を使おうとすると、後ろに座っていた竜族の戦士に腰ひもをつかまれて強制的に座らされてしまう。
「なっ! なにを!」
『私たちも行くぞ』
『っ……帰れない可能性があるんだぞ!』
竜族の戦士に引き留められていると、続々と飛竜や飛行魔法で転移者達、異世界の戦士たちが集まってくる。
「代表! 俺たちも行きます!」
「そうです。僕たちは待っているなんてできませんよ!」
娘の陽花里も強い意志を持った瞳で白波翔を見てくる。
「父さん。私も絶対についていく。父さんの知識があれば。ここにだって戻ってこれるでしょ?」
「しかし……」
飛竜にまたがった猫族の戦士が魔石で作成された特製爆弾を手に、白波翔に見せつける様にしていた。
『これが無いと、一人で行ってもダメなんじゃないかにゃ?』
『え? いつの間に……何故それを……』
『エネリエス様は全てを見透かしていたにゃ。ショウは一人で行こうとするはずだ。っていってたにゃ』
「……ショウさん……すいません。俺たち知ってたんで……」
「ですよ。俺たちはもう守られているだけの存在じゃないんです!」
異世界人の様々な種族の戦士達も武器を掲げながら自分たちを鼓舞する。
『俺たちも行くぞ!!』
『散っていった同胞たちの仇を!!』
『そうだ仲間の仇を、友の、母の敵を討たねば!!』
異世界人の戦士達も続々と集まり、反撃の声を口々に上げていく。
『そんな……戻れないんだぞ……』
『大丈夫だ。ショウ。ここにいるものは次の世代に、子供を、知識を。次を託せた人間ばかりだ。問題ない』
『……だとしても……親子で会えなくなるなんて……駄目だろ……』
猫族の戦士が飛竜の蔵の上に立ち上がり全体に聞こえる声で話す。
『大丈夫だにゃ! あちらには『賢者』が。セレスがいるにゃ! だからあたし達は帰れるにゃ!……死ななければね!』
異界の戦士たちは猫族の戦士の言葉を笑い飛ばしていた。
白波翔が展開についていけずに狼狽していると、女神エネリエスが天をかける翼馬にまたがっていつの間にか近づいてきていた。
女神の戦士たちは道を開けて左右に分かれていく。
『ショウ。よくやってくれました。こちらの世界はもう大丈夫……あとはあなた達の世界を守りなさい。あなたの帰りを待って居る人達の事を考えなさい』
『……はい。ですが……この世界の……仲間達が帰れる保証が……』
『大丈夫です。あの悪戯好きの神が開けさせた『穴』はしばらくこのままです』
『……わかりました。なるべく全員を……返してみせます』
『気負ってはだめよ。あちらの世界で助けてくれる人間を頼りなさい』
話が終わったと悟った犬族の重戦士が飛竜にまたがり大きな声で仲間を鼓舞する。
『女神の戦士達よ! 『飢える魔王』の討伐はすぐそこだ! 勇気と根性を見せろ!! 行くぞ!!』
犬族の重戦士がまたがった飛竜が臆する事も無く空に開いた『異次元』への扉の中に入っていく。それに続いて異世界の戦士や転移者の精鋭たちが続いていく。
「さぁ! 父さん行こう!」
「わかった……母さんになんていえば……」
「大丈夫よ。父さん。あっちで待ってるから!!」
「……え? あっち??」
白波翔が驚いているうちに陽花里達を乗せた飛竜が勢いよく『異次元』の扉へと入っていく。
「だいひょー行きましょうよ~」
『出遅れたな……』
「ああ、くそっ! 俺たちも行こう!」
「はい! ワクワクですね。異次元の扉の先になにがあるのか!」
『セレスの転生した世界……会えたら礼を言わないとな』
「何で君たちはそんなに緊迫感が無いんだ!」
白波翔達三人を乗せた飛竜も続いて扉の中へと入っていった。
女神エネリエスは勇ましく突撃する勇士たちをやさしい目で見守り、自分たちを信じてきた元信者たちに最後の加護を送り届けた。
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