第91話 絶たれる切り札
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ゴォオオオン!!!!!
紅華のギフト『硬化』と『神の盾』の加護の力によって『飢える魔王』の『魔道砲』を完全に防ぎきる。
彼女を起点として、彼女の背後から放射線状以外の地面は吹き飛び、周囲には煙が巻き上がっていた。
紅華は体を硬直させたまま体全体をぶるぶると振るわせて絶叫する。
「うぐぅ……次は持たないよぉ!! 盾が一発で壊れかけてる!!」
同時にユキナが地図をギフトで探りながら悲鳴を上げる。
「琴音ちゃん! 危険アラートが……次移動できる場所全部に!」
「なんですって??」
早風切那と遠地寛治が慌てだす。
「どうすんだ『賢者』!! このままだとヤバいぞっ!」
「今の場所だったらやり過ごせるぞ! 同じ場所に二回撃ってない! 落ち着いて判断しろっ!」
『賢者』与謝峰琴音は現状を明晰な頭脳でその場を分析していた。彼女の本来の目的である『飢える魔王』の「まだ」破壊していない、残りの「7つの心臓」の位置を探り当てようとしていた。
(くっ、心臓の位置をあと二つ……それさえわかれば……)
「ここで次弾発射後転移を!」
「「了解」」
「転移ってどこへ!」
「一旦『爆心地』へ!!」
「わかった!!」
彼らが手はず通りに特殊弾頭の発射準備をしようとすると、『飢える魔王』の体表が全周囲に向けて『魔道砲』を発射するために『口』が多数出現し、魔力の収束を始めていく。
歩夢が「心臓」があると思われる場所に照準をつけながら額に汗をかき始めていた。
「……やばいんじゃないんですか? あれ?」
「そのようですね……」
「あれだと……どこに行っても……」
与謝峰琴音は苦々しい表情を浮かべながら苦渋の決断をする。
「撃つしかありません!!! 紅華さん! もしもの時のために最大の力を出してください!!」
「わかった!! ここが踏ん張りどころね!!」
「発射!!」
『ギフト相乗効果砲』が発射されると同時に、『飢える魔王』が辺り一帯をめちゃくちゃに攻撃し出す。その『魔道砲』の軌跡が薙ぐようにまわりから『砲撃部隊』へと収束し、数門の砲撃が『魔法の盾』と『物質硬化』と『女神の盾の加護』を使用した紅華を直撃をする。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴオオオオオオオオオン!!!!
絶叫と轟音が入り混じり、『砲撃部隊』の前で大爆発が起きた。
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海波と羽雪優斗は至る所でおきた『魔道砲』の爆発に呆然としていた。
(あの方向って……)
(『砲撃部隊』がいたところ……だな……転移していなかったのか?)
(それに、何で意味不明な場所まで砲撃を……街がめちゃくちゃだ……)
羽雪優斗は険しい表情を浮かべながら冷静に努めようとしていた。
「……琴音の気配は感じます……ただ……これは……ここまで力の差があるのか……」
「そうだな……感じるが……弱弱しい……」
「助けには……戻らない方が良いですよね……」
「そうだな……だが……なにかが足りないな……一手足りない。他に作戦があるのか?」
「ですね……あるはずですが……最初から『飢える魔王』が地面にいる事想定だったんですよね……なぜか」
海波と羽雪優斗はこの世界で作られた魔法の剣を構えなおした。
最初に出現した時よりも体の大きさを半分にした『飢える魔王』へと、陽動のために突撃をしていった。
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ボロボロになった瑠衣は自分に『治療魔法』をかけながら紅華へと近づいていく。
「紅華ちゃん!! 今、助ける!! 気を確かに!!」
「……ぁぁ……」
紅華は力なく答える。全身がズタボロで黒焦げになり、手足が吹き飛んでいた。紅華は駆けつけてくれた瑠衣にぎこちなく微笑みかける。
「……なんてこと……」
「……ぁりがと……今度は……守……れ……た……」
「ごめんなさい……私が結界をはってれば……」
「……ルイーゼ……最後まで生き延びて……」
「大丈夫……大丈夫だから……あぁ……私の回復魔法じゃ……」
「いいよ……もう……大好きだよ……ルイーゼ……声をかけてくれて……ありがと……あの時……うれし……」
「だめ! 意識をしっかり!」
紅華以外のメンバーも爆発で吹き飛ばされそこらじゅうで痛みによる唸り声をあげていた。
「……くっそ……いいとこまで行ったのに……」
「畜生……仲間の……子供の仇を……また取れないのか……」
「……瑠衣ちゃん治療を!! 歩夢が! 息が止まりそう!!」
瑠衣が目の前の死にそうになっている紅華を見て、周囲を見回し惨憺たる状況に焦りから絶望の表情になっていく。
正津成有が周囲を見渡し、殆どの自衛隊、転生者の部隊が今の攻撃で半壊、ないし全滅したことを悟る。
「ここまでですか……よくやりました……」
丸亀礼音がギフトを展開しなおして周囲全体の気配を隠蔽する。
「思ったより強い。これが『魔王』……」
「ぼ、ぼ、ぼくたちは……ど、どどうすれば??」
「落ち着く。次の作戦にシフトする」
「つ、つ、次って??」
『賢者』与謝峰琴音も周囲を見回し、戦えるものが殆どいなくなったことを確認した後、『飢える魔王』を魔力の籠った目で凝視をする。
(……ここまでか……あと一つ……あと一つなのに……)
ふと、与謝峰琴音の上から光の帯の様なものがうっすらと降りそそぐ。
「あれ……は?」
「……え? まさか!」
周囲にいた人間も痛む体を忘れ、前世で見た神の奇跡の時に出る光を思い出していた。
与謝峰琴音は『女神エネリエス』からの意思の伝達を受けていた。
彼女はこの回がここまでなのを判断し、持っていた小さな杖に魔力を込めて天へと打ち放つ。
『光あれ!』
(後は頼みました、伴戸志姫さん……)
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伴戸志姫と「光の女神教」の信徒達は『飢える魔王』の無差別砲撃によって吹き飛ばされていた。
伴戸志姫は途切れそうな意識の片隅で『賢者』与謝峰琴音からの「女神の加護」の使用要請が空に向かって放たれたのを理解していた。
だが、彼女の体は動かなかった。
(……戻さなければ……今、やらなければ……)
伴戸志姫は無理やり体を起こそうとするが、口から出る液体を盛大にせき込んで吐き出す。
鮮血だった。
伴戸志姫は先日、異界の門から来た女神エネリエスから送られてきた『神の加護』で『時戻し』の力を使用しようとするが自分の体が思った以上に動かないのを認識した。
彼女は自分の体がどうなっているかを確認した。
両方の足は折れ曲がりそこら中爆発の破片で切り傷だらけで血が吹きでて、服はズタボロになっていた。
(……諦めては……私が諦めては駄目だ……まずは……治療……)
薄れゆく意識の中で、遠くの方から人の話し声が聞こえた気がした。
彼女は抱き起される。目の前のおぼろげな人影は何やら慌てた感じで二人で話をしているようだった。
彼女はされるがままに口に何かの液体を入れられるがむせて吐き出してしまう。
一人の顔が近づき、彼女の口を口で塞がれてしまう。そのあとに液体を吐き出さない様に完全に密着して離れない様に押さえつけられる。
溺れるような苦しさの後、全身の痛みが和らぎ、手足の感覚が戻っていった。
目の前には夢に見たような「王子様」が心配そうにのぞき込んでいた。
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