第90話 全滅への道程
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現実世界にて……
言預美来は空を飛ぶ魔道機械人形の背に乗って『爆心地』付近の魔獣との戦場になっている空を駆け回っていた。
「下ろして!! 頼むから下ろしてください!」
「ダメデス。アナタハコノ「回」ハ見て覚エる事シカ許可サレテイマセン」
「でも……でも……これはひどい……ひどすぎる……」
「セレオースとの約束デス。あなたは過去のアタナにすべてを見せる必要ガアリマス」
「……わかってはいるけど……見殺しにするなんて……思ってなかった……あれはこの風景だったなんて……」
「……大丈夫デス。セレスの作戦ニシッパイはアリマセン」
言預美来は目下で行われている激しい魔獣との戦闘で、どう見ても甚大な被害が出ているのと、『飢える魔王』の砲撃で自衛隊が陣営を構えていた周囲の山が吹き飛んでいるのを見てとてもそうは思えていなかった。
ただ、彼女の背から見上げる『飢える魔王』の体は、まさしく彼女が『未来視』で見た光景そのものだった。
(全然違うじゃない……本当に私は天から女神の使途たちが降りてくるのを見たの??)
言預美来は未来視で見た情景と、今の情景がつながるとは、とてもではないが思えなかった。
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自衛隊特殊対策課本部にて……
「第03中隊……応答ありません!」
「第2連隊……連絡……途絶! 応答ありません!」
惨憺たる報告を次々と受け、首脳部は苦虫をつぶしたような表情をしてうなだれていた。
『飢える魔王』に攻撃をした部隊がことごとく『魔道砲』によって壊滅していっていた。
「……転生者達は……正津君はこうなる事を理解していたから攻撃の中止要請をしていたのか……」
「あれは未知すぎる……攻撃がきかないなんて……そんなバカげた話があると思うのか」
「ゴジラの方がまだましですね……攻撃が通じる……」
「……そうだな。あれは「生物」ではなく、「未知のなにか」だな……」
幹部たちはモニターに移される、空中の魔法陣から生えている様に見える『飢える魔王』を見て呆然とするだけだった。
「とっておきを使う必要がありそうだな……」
「ええ……不本意ながら要請する必要がありますね」
彼らの頭の中では、「戦術核」を使用しないとどうにもならないと判断を下しかかっていた。
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最終兵器君こと羽雪優斗は絶叫していた。
「手出しできないじゃないですか!!!」
「……そうだな……どうすりゃいいんだ? 俺たち?」
(困ったね。まさか次元の門から宙づりになって落ちてこないなんて……)
(……形状が不安定だからわかりにくいが、次元の……入口に挟まっている様に見えるな……)
「落ち着け。『賢者』からの指令は。地面に落ちてから『飢える魔王』をここにくぎ付けにすることだ。想定内だろう」
「……そうだといいんですけど、意外と彼女……そそっかしいんですよ……」
「……」
「ミスだったら厳しいな……」
(計算間違いもあるって事か……)
(そんな……こんな大事な時に……)
転生者前線部隊に不穏な空気が流れ始めていた。
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『飢える魔王』が『ギフト相乗効果砲』の一撃を受けて魔法陣との付け根部分辺りが爆散する。
それと同時に魔法陣の『向こう側』からも爆発が起こり、『飢える魔王』の巨体がゆっくりと地面に落ちていく。
「うっし!! 落とした!」
「「やった!!」」
「転移を!!!」
『転生者砲撃部隊』はすぐさま転移魔法で次のポイントまで移動をする。
『賢者』は次のポイントで準備を開始するとともに、反撃の反応速度が上がりすぎているのに焦りを感じていた。
(……困ったわ……計画がずれている……次は……少しでも遅れると直撃ね……前線部隊がひきつけてくれれば良いんだけど、あの状態じゃ……)
「マホさん。ユキナさん。次はもう少し早く!! あと少しで直撃を受けてしまうわ!」
「わかってます!!」
「無理言わないでー! 今でも結構限界だよ?」
丸亀礼音が『風景同化』を展開しながら珍しく慌てている感じだった。
「やばい! 『飢える魔王』がエリア一体を気配を探る何かで探知している!」
「え?」
「……『ギフト』か魔術か……何方にしろ、次からは『飢える魔王』の攻撃に注意を!」
紅華は新たに作成された盾を構えなおし、気合を入れ直していた。
(今度は……みんなを絶対に守らないとね……)
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自衛隊特殊対策課本部にて……
邪神ソベーレは部屋全体にいる自衛隊員幹部を『痺れの魔法』で動けなくさせていた。
あまりに突然の出来事でその場にいる全員が状況を把握すら出来ていなかった。
「おおっと、君はしゃべれるようにした方がいいか……」
「ええ、その人が一番この場で偉い階級の様ですね」
「……僕からはわからないなぁ……このマークみたいのが偉いマークなのか? こちらの世界では勲章だらけとか、偉い椅子とか……場所が無いからわかりにくいんだよねぇ……」
邪神ソベーレが一番階級が高いであろう人間に近づき、魔法をかける。
すると階級の高い人間の顔から上だけが動くようになる。
「な、なんだあんたは……転生者か……」
「ん? 違うな……神だ」
「……なに?」
邪神ソベーレは自衛隊幹部を頭をわしづかみにして、何やら魔力を流し始める。
「ちょっと失礼……」
「ぐっ……敵側……『魔王』側の人間か?」
「君達の指示系統と今後の作戦を知りたい」
「喋るわけないだろうが……」
「ありがとう。全部わかった……支部ってやつなのね。ここ」
「……なに?」
邪神ソベーレが頭をわしづかみにしたまま振り返って正津成有に質問をする。
「ねぇ、「統合作戦司令部」の場所ってわかる? そこに行くとなんか凄い爆弾の攻撃止められるみたいだけど」
「……なに……なんだと……」
「東京の市ヶ谷でしょうか……」
「わかった。ん~遠いねぇ……そこの人間をしばらく麻痺させればいいんだね。うーん、現場から離れるのはイヤなんだけどなぁ……ああ、なるほど……そこの連絡を使わなければ撃つことは無いか……」
邪神ソベーレは大量に配置された部屋のモニターを見てしばらく考える。
「どちらにしろ、ここの人間を動けなくしておけば、最後まで『飢える魔王』君は頑張れるかな……」
「いいのですか、戦力の均衡を……」
「どちらにしろ『飢える魔王』君が勝っても戦術核とやらが使われるみたいだから……全部の戦力がチャラ。無かったことになる。引き分けってやつだね」
邪神ソベーレは自衛隊幹部の頭を離し、傍らで座ってかたまっていた提子を引っ張り上げて立たせる。
「さぁ、行こうか。最後の仕上げ……今回の目的を果たしに行こう。その「戦術核」とやらが使われる前にね。『飢える魔王』が止まるまでが僕たちのタイムリミットみたいだね」
「……わかりました……」
邪神ソベーレは彼らの記憶を頭の中で反芻し、理解する。
「それにしてもすごい兵器だ……あっちでは核反応無効とかつくったほうがよさそうだねぇ……」
「……なんでもありですな」
邪神ソベーレ達は転移魔法を使いその場から姿を消していった。
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「ぐおおおおおお!!!」
伏野一休が『飢える魔王』の体から出た触手で激しく殴られて吹き飛んでいく。
質量差からかなりの速度で吹き飛び、近くの一軒家の壁を突き破って土煙を激しく上げていた。
「! 大丈夫っすか!!」
「レヴィ! やつを気にするな! 前に集中だ!」
「はいっ!!」
海波達前衛部隊は『飢える魔王』に近接攻撃で攻撃を仕掛けていた。
彼ら以外にも転生者や自衛隊員が散発的に攻撃をしかけていたが、魔力反応が高い海波達がターゲットになっているようだった。
((撃ちます!! 避けて!!!))
彼らの頭の中にギフト『以心伝心』が鳴り響き、声に従い『飢える魔王』近辺から急速に離脱をする。
離脱した瞬間に轟音が鳴り響き、『飢える魔王』の体の一部が爆散する。
それと同時に『飢える魔王』の『口』に魔力が収束していく。
((お願いします! 反らして!!))
「無茶ぶりだなっ!!」
縮圧元次が『飢える魔王』の『口』に近づき高くジャンプをする。『魔道砲』を使うタイミングでギフト『次元圧縮』を『賢者』のイメージに伝えられたように使用する。
とんでもない威力の『魔道砲撃』が放たれると同時に、砲撃の光は少しだけ歪曲し、上空へと飛んでいく。
(やった!!)
(成功だな。となると次は……)
海波は『飢える魔王』の体表を足場として地面を駆け回り、空中で早い動きが出来なくなっていた縮圧元次の体を高速で回収する。ほぼ同時に『飢える魔王』の触手の攻撃が彼の体のあった場所を串刺しにしようとぶつかり絡み合っていた。
「助かった……こんなに対応が早いとは……」
「次は俺たちが的だ、逃げ回るぞ!」
「承知!!」
前衛の三人は襲い掛かってくる触手を巧みにかわし続けていた。嵐のような攻撃をかわし終えると、一瞬の静寂が生まれる。
「はぁ、はぁ……師匠、ありがとうございます! 俺、動けなかったっす」
「厳しいな。この紙一重が続くのか……」
「はぁ、はぁ……気にするな。次の攻撃は……」
(え? 変な気配がする!!)
(これは??)
海波が『飢える魔王』の攻撃によって大量の煙が舞い上がる中、『飢える魔王』を見ると、『口』が複数展開され、その一つが海波達、縮圧元次の方を向いていた。
「げ、まじっすか?」
「なんと……」
「ちっ、反らすぞ!!!」
「くそっ!! 他の『口』はっ!!」
海波が砲撃の方向を確認しようとすると同時に轟音が鳴り響く。
『ギフト相乗効果砲』の爆発と共に、それぞれの『口』から『魔道砲』が放たれる。
「うおおおおおおおっ!!!」
縮圧元次がギフト『次元圧縮』で無理やり『魔道砲』の方向を変えてギリギリ空の方へと捻じ曲げて被害を軽減する。が、彼の両手が『魔道砲』に巻き込まれ、吹き飛んでしまう。
「ぐおおおっ!!」
「ゲンジさん!!!」
海波が吹き飛ばされながらも縮圧元次を抱きかかえて回収する。
彼の片方の腕の先が無くなり、もう片方の手は黒焦げて固まっていた。
「ディムメス卿!!」
「ぬぐ……置いていけ! 私はもう足手まといだ!」
「大丈夫だ。こちらの陣営には『聖女』が3人もいる!」
「ここが……今が私の贖罪の時なのだ。離してくれ……」
海波が縮圧元次をゆっくりと降ろす。
「贖罪?」
「ああ……君にはわからないだろうが……前世の記憶が……悪事に加担している事を知っていたなら……ふとした瞬間に後悔と罪悪感に包まれるのだよ……」
「……俺も人の事は言えない様な事をしてきた……」
「君は生きるために仕方なしにしたのだろう……私は領主の顔色を窺い、民を虐げてきたのだ……」
「……だが……今は……」
「私は行く。君たちは生き残ってくれ!」
縮圧元次は痛む素振りも見せずに海波達とは違う方向へと走り出す。
羽雪優斗が『飢える魔王』に注意を払いながら近づいてくる。
「師匠、いいんですか?」
「……ああ。男の決めたことだ……」
「はぁ……自殺願望っすよ……それ。今回は敵のパターン覚えるだけが目的なんだから……」
(パターンを覚える?)
「……? どういうことだ?」
「あ、口止めされてるんですけど、実は……」
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