第89話 空から『飢える魔王』が降ってきた
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現実世界にて
『爆心地』の近くにいた殆どの人間は上空を見上げて呆然としていた。
自衛隊、転生者、情報をつかんだ諜報員。情報を聞きつけたマスコミも姿を見せていたが、あまりの事に思考が停止しているものが大半だった。
『爆心地』から少し離れたビルの上で海波達も同様に唖然としていた。
(あれが……)
(『飢える魔王』って……あんなにでかいのか……)
前世で『飢える魔王』との戦闘経験があった伏野一休はかなり驚いている感じだった。
「……俺たちがあちらの世界で見たやつより大きいな……」
「……触手もたくさんあって、何でも食べる……から大きくなんたんすかね?」
縮圧元次は見上げながらも冷静に今後の戦闘方法を模索していた。
「あのサイズの『ローパー』と仮定して、あの触手を避けられるか?」
(ろーぱー?? )
(この世界でいうと、イソギンチャクのでかいやつだな)
(……うへ……気持ち悪いやつだね。『飢える魔王』のほうが黒いからまだ気持ち悪くないや……)
(すまん。その感性が分からない……)
「俺は大丈夫だ」
「自分も大丈夫です。避けられると思います」
伏野一休は頬を指でポリポリとかきながら答える。
「俺はちと厳しいな……まぁ、頭か心臓をぶち抜かれない限りは死なないから安心してくれ」
(……凄いギフトだね……)
「……わかった」
「……超回復系のギフトっすか……いいなぁ……」
「ああ、だけどよ……『飢える魔王』がギフトを奪えるとしたら……アイツも持ってんだよな……俺が食われたわけだし」
「まじっすか?」
(……心臓がたくさんあるうえに超回復って……無敵じゃないか……)
(魔力が尽きるまで攻撃を続けるか……か……)
(心臓が他の心臓を回復させたらどうするんだろ?)
海波は若干不安になり、縮圧元次に問いかける。
「心臓を破壊しても回復してしまうのではないか?」
「『賢者』の情報だと、心臓と主要部分の脳などの回復は遅いか、しないそうだ……要するに攻撃し続ければ……完全には回復は出来ない」
「……それでも無理ゲーっすね」
「……安心しろ、攻撃は全部かわせ。私たちは陽動だからな。砲撃間隔の40秒だけ抑えればいいだけだ」
「……簡単に言いますね」
(あ、この音は……)
「戦闘機!」
「自衛隊による攻撃の開始だな」
「ああ、この世界の兵器がどれほど通じるか見てみたいものだ」
四人は空を飛ぶ戦闘機を見て、少しでも力になってくれればと願っていた。
§ § §
自衛隊の戦闘機は『飢える魔王』の小さなビルほどもある半身が出てきている魔法陣の周りを旋回していた。
飛行機のパイロットたちは標的の巨体さと異様さに本能的に畏怖を感じていた。
「……標的……確認??」
「……なんなんすかあれ……黒いタコ?」
「とりあえず攻撃指令でたな……」
「撃ったら離脱しましょう! 危ない感じしかしない!」
「りょー!」
複数の自衛隊の戦闘機からミサイルが同時に放たれる。特に邪魔されること無く吸い込まれるように『飢える魔王』に直撃をするかと思われたが、『飢える魔王』の周りに光る盾が展開され、そこでミサイルが爆発する。爆発の余波で『飢える魔王』の体勢が大きく崩れたかのように見えた。
「っっ!! ATフィールドかよ!!」
「届く前に爆発しちゃいましたね……」
「ん? なんだあれ? 光ってる?」
「ちょ、離脱を!!」
「あっ!」
『飢える魔王』の体表に出現した『穴』に光が収束する。そこから光の砲撃が戦闘機を襲う。次弾の発射のために旋回していたが、完全に無警戒だったため、何機かは魔道砲の直撃を受けて爆散してしまう。
『爆心地』の周囲に展開された遠距離攻撃用ミサイルが発射された後、戦車による一斉砲撃が開始される。だが光る盾の壁に阻まれて『飢える魔王』に直撃をしていなかった。
§ § §
ある丘の上で、『転生者砲撃部隊』は戦況を見守っていた。
正津成有と『賢者』が双眼鏡を手に爆発に包まれている『飢える魔王』を観察していた。
「やはり、魔道砲を撃った『口』は破損していますね……」
「あれだけの威力です。体が、生物では耐えられないのでしょうね」
紅華が落ち着ている二人に焦れはじめていた。
「ねぇ! 攻撃しなくていいの? あれ……死んじゃってるよね……」
琴音が申し訳なさそうな表情をする。
「……ええ、そうですね……」
正津成有が苦虫をつぶしたような表情になる。
「紅華さん……指示があるまでは私たちは攻撃しない。そういう約束なのです」
「正津さん……」
正津成有の板挟み感をみて一同にがっかりとした雰囲気が流れる。
「こんな時まで、なんか、その、政治的判断なの?」
「そういう組織ですので……」
「はぁ、どこも同じだねぇ……」
「だな……」
『飢える魔王』からは新たな『口』が開き光が収束する。そうすると先ほどよりは細い魔道砲が発射され、戦車隊を薙ぎ払う。直撃を受けた戦車はなすすべも無く爆散していく。
「着弾地点を確認して!」
「わかったわ!」
雲梯摩帆と振水ユキナが地図を広げて、目視とスマホの地図を見比べて場所を確認する。
「大丈夫……あそこに転移陣は敷いてない!」
「反応も……大丈夫……今はどこも安全あつかいね……」
瑠衣が涙目になりながら琴音に訴える。
「……ねぇ……犠牲が出ないと……やっちゃいけないの……?」
「大丈夫です。全て覚えているので……」
「覚えてって……それでいいの?」
紅華の憐憫の視線を感じて琴音が動揺する。
「大丈夫です……今度は……犠牲は出しません……」
「それって……転生者達……あっちの世界で犠牲になった人間……のこと? この世界の人は良いの??」
「……」
自衛隊の通信兵が報告の声をあげる。
「自衛隊特殊対策課本部より攻撃開始要請来ました!」
「わかりました。では……皆さんは手はず通りにここから至急離れてください。では……行きますよ!」
自衛隊の隊員がバイクをかり、急いで転生者達から離れて行く。
琴音が隊員たちが十分な距離をとれそうと判断をすると振り返って『ギフト相乗効果砲』のメンバーを見る。
「さて……いきますよ。イメージ通りに行きましょう!」
はやる心を抑えつつ、瑠衣がその場にいる人間にギフト『潜在能力強化』をかける。
「……みんな……お願いします!」
丸亀礼音が『超風景同化』をそのエリア全体にかけ、完全に魔力を発する気配を絶つ。
「おけ。みんなやっちゃって」
「ま、ま、まかせておいて!」
その場に準備して置いてあった巨大な二メートル近くもある特殊弾頭を重石要が『超重力操作』で軽々と持ち上げる。
「と、と、特殊弾頭装填! こっちでいい?」
「大丈夫だ……感じる……あそこだな……」
真直歩夢が伝わってくる意思をもとに『飢える魔王』の心臓付近に狙いを定める。
「ターゲット、固定した! 行けるぞ!」
「うっし、まかせろ……」
遠地寛治が特殊弾頭に『時間超遅延』のギフトをかけてほぼ時間を固定する。重石要が手を放し、空中に静止したかのように見える。
「よし! みんなギフトかけろ!!」
重石要の『超重量化』がかかり、正津成有『摩擦超軽減』がかかる。すぐに真直歩夢の『物質直進』が弾頭の方向を完全に決めゆっくりと動くように見える。早風切那が特殊弾頭に『超加速』をかけて殆ど時間の止まっている空間ですらゆっくり動く様に特殊弾頭を加速させていくかしていく。
『賢者』が頃合いを見て掛け声をかける。
「発射!!」
遠地寛治が『時間超遅延』のギフトを解くと、特殊弾頭は見えない弾となり空気を引き裂く。
『風景同化』のギフトの加護が届かない場所まで到達すると轟音を鳴らし『摩擦軽減』が切れると空気との摩擦で爆発を起こしながら巨大な光の槍となる。
ゴオオオオオオオオオーー!!!!
特殊弾頭は赤暗くなった空を照らし『飢える魔王』の魔法の盾を軽々と貫通し、本体へと吸い込まれるようにあたり大爆発を起こす。
ドォオオオオオオオンン!!!
「やった!」
「あたった!」
「すげぇ!!」
「なにあれ……吹き飛んだ……」
沸き立つ一同をよそに、『賢者』はすぐに近くにいた二人に指示を出す。
「ユキナさん、真帆さん転移開始!!」
「全エリア大丈夫!!」
「転移するよ! みんな集まって!!」
一同が雲梯摩帆の近くに素早く移動すると、転移魔法が発動し、一瞬にしてその場から一同は姿を消す。
姿を消した後しばらくすると『飢える魔王』からの魔道砲が放たれ、射撃した場所がえぐれるように吹き飛んでいく。
ズドーーーン!!!!
彼らがいた場所は爆煙があがり、とてもではないが生物が存在するとは思えないほどになっていた。
§ § §
海波は『飢える魔王』への攻撃の被害具合と、砲撃を終えた場所への『魔道砲撃』での爆発を見て動揺していた。
(始まったな……映画で見た戦争の様だな……)
(凄い一撃だね……体が……一部えぐれるくらいなのか……あれで……)
(相当強い魔力反応だな。高速で体を再生しているな……)
一休が『飢える魔王』の魔道砲による反撃の惨状を見て口をポカーンとあけていた。
「……俺の知っている……『飢える魔王』よりはるかに強いな……丘が吹き飛んだぞ……」
「……大丈夫なんすかね。……転移魔法失敗したら……死ぬんじゃないかあれ?」
(紅華ちゃんの『超硬化』と『神の盾』の加護を使ってもきびしそうだね)
(ああ……)
「紅華なら一撃は持ちこたえる……とは思うが厳しいな……」
羽雪優斗が上空を見上げ、『ギフト』か飛行魔法でもないと届かないところに『飢える魔王』がいるのに若干焦り始める。
「……あの、ゲンジさん。俺ら手を出せない気がするんですが……陽動しようにも……」
「うむ……あれが空の魔法陣から離れない限りは……駄目だろうな……」
「どうやって時間稼ぎを……すればいいんだ?」
四人は空を見ながら戦闘が始まっているのに何もできないでいた。
「さぁ……」
「誰かあちらから押してくれないですかね……」
「あのサイズなら……ドラゴンにでも頼むしかないな……」
『飢える魔王』を前にして、なぜか緩んだ空気がその場を支配する。
ゴオオオオオオオオオーー!!!!
ドォオオオオオオオンン!!!
『ギフト相乗効果砲』の第二射が放たれて『飢える魔王』を直撃する。
(早く落ちてきてくれ……)
(もどかしいね……参加できないと……)
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邪神ソベーレは絶句していた。
『ギフト相乗効果砲』のあまりの威力で魔王の体、心臓の一つが吹き飛んでいくのを感知していた。
「……あんなの反則だろ……あれは、魔力を感じるな……こちらの兵器じゃないよな?」
鼓動正史は呆れた感じで彼の脇に控えていた。
「だから言ったではないですか。こちらの世界の知識と『賢者』の知識が合わさり、そこに権力が乗れば『飢える魔王』は撃退されると……」
「あっちの世界だと無敵かと思うくらいに強かったのにねぇ……こんな一方的に……」
邪神ソベーレは昨日転生者達が作戦会議していた場所まで来ていた。
数人の転生者や自衛隊員が連絡役として残っている以外はほとんど空となっていた。
そこの一角に全く迷わずに二人は普段通りに歩いていく。
この陣を見張っていた自衛隊員が二人に気が付き、銃を構える。
「……見ない顔だな? 止まれ!」
「ん? 邪魔」
邪神ソベーレが手をかざすと、常人には見えない魔力の黒い手が出現して自衛隊員を包むと、崩れ落ちる様に倒れてしまう。
「……眠り……ではないのですね……」
「ああ、精神をちょっと破壊しただけさ」
「精神を破壊? ……治るのですか?」
「それは、その人次第かなぁ……」
鼓動正史はあまりの躊躇のなさと魔術の発動の速さにぞっとしていた。
「あ、いたいた。駄目だよ逃げちゃ。すぐに見つかるって言っただろ? なんで移動しちゃったの。待っててって言ったのに」
「……ひ、ひいぃっ……」
彼らの目の前には腰を抜かして動けなくなっている間空提子がいた。
「君は重要なカギなんだから……おいたは駄目だよ」
「……あ、あ……」
豪利竜太が飲み物をもって部屋に入ってくる。彼には提子が腰を抜かして二人の人間に襲われている様に見えていた。
「て、てめぇ!! 提子になにしやがる!!」
豪利竜太が掴みかかろうとすると、鼓動正史から衝撃波が放たれて吹き飛ばされて通路の壁へと激突してしまう。
邪神ソベーレはゆっくりと提子の手と鼓動正史を触ると一瞬にしてその場から姿を消した。
「な、なんなんだ……? 別の転移魔術師か?? くそっ……報告しないと……誰か!! 誰かいないのか??!」
豪利竜太は持っていたペットボトルを放り投げて助けを呼びに行った。
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