第87話 『飢える魔王』降臨
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現実世界にて……
『爆心地』の中心からは黒い空間のひずみから新たな『魔獣』がそこら中から吹き出し始めていた
だが、自衛隊の統制の取れた銃の一斉射撃と、対魔獣用の魔法金属のクロスボウガンで殆どの魔獣の息のねが止められ、魔石を残して黒い煙となって消えていった。
『爆心地』に近いビルの屋上で転生者の近接部隊は待機しながら周囲を警戒していた。
海波、羽雪優斗、縮圧元次、伏野一休など近接戦を得意とする人間だけが集められていた。
(すごいものだな……こうも一方的に……)
(流石に銃にはかなわないね。これなら『飢える魔王』にも行けるんじゃないの?)
(話を聞くと、魔法障壁が強すぎて遠距離攻撃がすべてはじかれる……らしい。俺は戦っていないからわからないのだが……)
(全部魔法の盾で防がれちゃうのか……それだと僕らの攻撃も効かないんじゃないの?)
(それは大丈夫だ。魔力を乗せた物質、ギフトなら届く……ヤマタノオロチと同じだな)
(え? 魔法障壁あったのあれ?)
(ああ、魔法の剣でないとあそこまで簡単に切断することは難しかっただろう)
(……まじか……)
海波の隣にいた羽雪優斗がソワソワとし始め、今にも飛び降りて加勢をしようとしていた。縮圧元次が肩をつかみ動きを止めさせる。
「最終兵器君……君が行っては駄目だ。あれくらいの魔獣ならば魔力を持たない人間でも、銃があれば何とでもなるだろう」
「ですが……なんだかんだで被害が……」
「君も師匠と同じで突っ込みたがりなのだな……隣にいる師匠を見ならえ」
「……ハイ……わかりました」
(師匠……面白がってるね、ゲンジさん)
(場を和ませようとしているのではないのか?)
(そうだったのか……あれで……何て不器用な……)
伏野一休が大きな槍を背中で無駄に持ち替えて手持無沙汰にしながら若干緊張した面持ちで質問をする。
「なぁ、最終兵器君よ。勝算はどれくらいあんだ? 本当のところ」
「……俺は知りませんよ。琴音……『賢者』の作戦通りにやれば勝てますよ。あの時も勝てたし……あと、優斗でお願いします……」
「はぁ……まぁ、近接戦が俺たちだけ……って時点でヤバいのはわかってんだけどな……」
「死なない可能性が高い人間だけを前衛って言ってましたからね……本気出さないと俺らも死ぬんでしょうね……」
縮圧元次がやれやれといった表情になる。
「私はさらに『飢える魔王』の砲撃を上空に反らせ……と言うお題もいただいている……私のギフトだと出来るらしい……が、ぶっつけ本番なのがな……」
「『賢者』様も意識共有できるからって……無茶ぶりするやつだったんだなぁ……」
「こちらの世界に来てから拍車がかかってますけどね……こちらの軍事知識も取り入れてるし……」
海波は後ろを振り返り、はるか後方に陣取っているはずの『賢者』率いる砲撃部隊の方を見ていた。
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邪神ソベーレは目下で繰り広げられる戦闘を見て圧倒的な大差が開いているのに愕然としていた。
「……すごいねぇ……銃火器って……」
「ええ……本気を出してきましたね。自衛隊が……」
「ここまで統制取れた動きをする人間の部隊を見るのは初めてだよ……」
「そうですね。情報として知ってはいましたが……あちらの常識とはだいぶ違うようです」
「……なるほど……あれだけ統制が取れていれば……あそこ……とあそこだな。奴らの本陣。複数あるな……」
「……ですね。つぶされても大丈夫なように分散させています」
邪神ソベーレは魔石を片手に念じると、魔法陣が周囲に展開され、鼓動正史と共に姿を一瞬で消した。
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『飢える魔王』『転生者砲撃部隊』は小高い丘の上に陣取り『飢える魔王』の出現を待っていた。
正津成有は無線から上がってくる報告に愕然としていた。
「第3から5陣営……すべてに魔獣が出現、いったん本陣を立て直しているとのことです!」
「第1陣からも連絡! 魔獣が多数出現!!」
「……なんてことだ……」
正津成有は『飢える魔王』砲撃部隊に参加していたのでどうすることもできなかった。この現場の作戦指揮をとっている琴音の方へと振り返る。
「……邪神の邪魔が入りましたか……」
「……これでは市街の魔獣が……」
「想定内ですが……出来るなら『爆心地』から遠ざかるように連絡を……」
「わかりました……」
切那が動揺する仲間を安心させるために発言をする。
「ってことは……アタシ達は、邪神に見つかっていない。そうだろう?『賢者』様」
「そうですね。あまり動かないのを見ると……どうやら未来や危険を予測するギフトや能力は無いみたいですね。これで勝ち筋が見えてきました」
話を聞いていた振水ユキナは動揺していた。
「あ、あの……この位置がやばいって……ギフトが頭の中で鳴り始めているんだけど……」
「危機察知……ここが危険なのか?」
「はい。地震が来るときとか……そんな感じなんです。逃げた方が……」
琴音は落ち着いて解説する。
「恐らくですが、ここから遠距離砲撃しますので……ここら一体が吹き飛ぶからかもしれません」
「……ええ……マジ?」
「マジです。なので意思伝達した通りに撃った後にすぐ空間転移で逃げる感じです」
雲梯摩帆が背中に背負ったバッグから地図を取り出し、何やら確認をしてる。
「あー拠点は20くらいあるから安心してね。ゆきなんには場所をチェックしてもらいたい感じ。ほらあの、ユラユラを早くする感じで……」
「ダウジングですね。危険じゃない場所を確認かぁ……うまく行くと良いんですけど……そんなに早くできるかな……」
琴音が不安そうなユキナを見て声をかける。
「瑠衣さんのギフトをかけながら私たちは行動しますので、おそらく大丈夫でしょう。ただ……」
「……ただ?」
「いえ……想定している最悪の『策略』を使用しないで勝てればいいのですが……」
遠地寛治が怪訝な顔をする。
「なぁ、セレス。またアンタらが犠牲とか……無いよな?」
「それはありません……何方かというと……」
「何方かというと?」
琴音が沈んだ目をして地面の方を見る。
「戦場全体が犠牲になる感じですかね……」
「戦場全体……」
「どういう事だ?」
「美来さんの未来視に変化が無ければ……最終的には犠牲はほとんどない予定なのですが……」
瑠衣と紅華は話を聞きながら遥か遠方で見える市街地での現代的な戦闘音に不安を隠せなかった。
「大丈夫かな……海君……」
「アイツらだったら大丈夫だって。それよりもあたし達の心配した方が良いよ」
「そうだね。……それだといいんだけど……」
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邪神ソベーレは高笑いしていた。
「どうだい? これでいい感じに戦力を間引けたかな? これでちょうどいいバランスだろ?」
鼓動正史が呆れた感じで、魔法を自在に操り妨害を楽しんでいた主神を見ていた。
「はぁ……ですが、転生者達が上手に対処している感じに見えますが……」
「いいのさ。準備万端で「異世界軍」と「転生者」を同時に戦えなんて……『飢える魔王』君も大変だからね……はっはっは! ……ぐ、げほっ!」
邪神ソベーレはせき込んで思わず手を顔に当てる。手にはべったりと血がついていた。
「困ったね……この体そろそろ限界か?」
「力を使いすぎです。もしもの時もしもの時は私の体を……」
「それはしないよ。君がいないとあちらの世界からこちらに干渉できないからね。君を送るのにどれだけ苦労したと思ってるんだい?」
「……まだやるつもりなのですか?」
「楽しいからね。こちらの世界のように娯楽がないからなぁ……あっちは」
邪神ソベーレは空を見上げる。
『爆心地』のはるか上空に突然巨大な魔法陣が展開され始める。そして中央部には妙な空間のひずみが生まれ、そこから黒い触手の様なもの、触手の先が目玉になったものがこちらの状態を伺っていた。
鼓動正史が思わず数歩後ずさりしてしまう。
「……本当につながるとは……あれが『飢える魔王』……とんでもない力だ……」
邪神ソベーレは嬉しそうに微笑みながら『飢える魔王』に言葉を放つ。
「お帰り……君の行く末を見せてくれ……」
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