第86話 異世界『飢える魔王』戦
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ここではない、遠い、遠い別の世界……
『飢える魔王』から大分離れた小さな丘の上からとんでもない威力の魔法の魔法金属製の槍が射出される。『飢える魔王』の魔法の盾を貫き、本体の一部を貫通して爆発する。
ドーン!!!!
普通の生物なら一撃で死に絶える所だが『飢える魔王』は攻撃を受けていない場所から『口』の様なものを出して魔力の光の粒子を収束させていく。
『盾部隊前へ!!!』
『砲撃部隊まとまれ!! 来るぞ!!』
『飢える魔王』から放たれた魔力の砲撃は『砲撃部隊』を直撃する。『盾部隊』が展開した魔法の盾を破壊し、魔法金属製の盾を構えた戦士たちを吹き飛ばしていく。
『治療部隊! 盾部隊の治療を!! 砲撃部隊射出準備!! 転移魔法部隊、転移魔法開始!!』
砲撃部隊が編成を整えている間に、制空権を得た友軍が空から爆弾や魔法を『飢える魔王』に放って陽動を続けていた。
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飛竜にまたがって空を滑空していた白波翔と竜族の戦士は現状を分析していた。
『やはり魔力砲の威力が強すぎて『口』が焼け焦げて壊れているな……』
『連射は効かないのはわかったが……聞いていたほど反撃が厳しくないな……ショウ。こんなものなのか?』
『そうだな。以前見た時よりも……ぬるいな……だが、あの時よりも高い魔力反応を感じる……なぜだ?』
「代表!!! 『飢える魔王』の体の表面に大量の『口』が出現!!! キモイです!!」
「なんだとっ!??」
白波翔表が『飢える魔王』を見ると、体中に湧き出た小さい大量の『口』それぞれに魔力が収束していくのを感じた。
「まさか……」
「あれ全部ですか??? なんか……『口』の向きが……ほとんど地面に……」
『狙いは地表の軍勢か……あんな敵味方が混戦の状態で撃つのか??』
『飢える魔王』の大量の『口』からは無差別に魔力の砲撃が始まる。強力な魔力砲は敵味方関係なく至る所に打ち込まれ、人を吹き飛ばし、周囲の地形をえぐっていった。
「めちゃくちゃじゃないですか!?!」
「何を考えているんだ……『飢える魔王』は!」
『ショウ! 地面全体を見ろ!! 魔法陣が浮き上がっている!!』
竜族の戦士が戦場全体を回すように指示す。戦場全体を飲み込むほどの超巨大魔法陣が展開されていた。気が付くと同時に唐突に突然地面全体が光輝く。
「一体何が??」
彼らは状況を確認をしようとしたが砲撃による爆発煙で視界が閉ざされていった。
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女神の軍の本陣。高台から戦況を見ていた軍師は驚きを隠せなかった
『エネリエス様! この魔法陣は?』
『ええ、わかっています。……この戦場の魔力……生命……魂……それを利用した魔法陣でしょう。大量の魔力……あの子はあちらの世界に行きたがっているのね……』
『あの子って……あの『飢える魔王』ですか???』
『ええ、そうよ。成長していない魂……とても危うい子……』
軍師は『飢える魔王』が取り除かれた未来を計算して疑問に思う。
『『飢える魔王』があちらの世界に行ってもらえれば……この世界は安泰では?』
『……そうね。だけどもう少し力をそがないと……あちらにいった子たちが苦労するわ……』
『……はぁ……わかりました。砲撃部隊に伝令! 引き続き予定通りに攻撃を遂行せよ! 魔法陣は無視するように!』
『はっ!』
軍師は事前に事情を知らされていたので、諦めと共に伝令兵と一緒に女神の元を去っていく。
一人残された女神は憐れむように『飢える魔王』を見る。
(それにしても……ソベーレはどこにいったのかしら? いつもだったらこの辺で邪魔をしてくるのに……神威が感じられないわね……)
女神は周囲を見回し、作戦がおおむね順調すぎるのに不安を抱いていた。
(どちらにしろ、この状況だとあちらの世界の子達が「詰む」わね……どうしたものかしら……)
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現実世界にて……
邪神ソベーレは見晴らしのいいビルの屋上から自衛隊の動きを見ていた。
「すごいものだな。「戦車」か小さな家の様だな。……あれの一門が破城槌くらいの威力の砲台なのだろ?」
「はい。そうですね。門くらいは吹き飛ばしてしまうでしょうね」
「それが100両近くあるとは……あとは「飛行機」やら「ドローン」とやらも飛んでくるのだろう?」
「よくご存じで。予想以上に戦力を融通しているようですね。てっきりこの周辺の転生者達だけで戦うことになると思っていたのですが……」
「そりゃ相手に『賢者セレオース』ちゃんがいるんだ。全ての伝手と手段を惜しみなく使ってくるだろうね。自分の命を顧みないくらいね……」
「……『飢える魔王』は勝てるのですか?」
「……五分かな。せめて転生者のみに戦力を削りたいところだけど……情報ある?」
鼓動正史は邪神ソベーレの隣に立ち周囲を見回しながらスマホの情報を見ていた。
「……すみません。相手にバレてしまったようです……私のアカウントではもうアクセスできない……」
「……インターネットとやらか……相手の中枢に『賢者』達、女神の一派がいるのは確定だな」
「そのようで……巫女も数人いるようですし……」
「これはかき回しがいがあるね……とりあえず偵察を続けるか。君も軍属だったんだろ? 解説を頼むよ」
「はい。承知いたしました」
「あとは……うちの巫女も回収しておかないとね」
「……いたのですか?」
「……ああ、あちらの巫女と比べると……大分見劣りするけどね……それでも役に立つさ……」
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異世界にて……
飛竜にまたがった白波翔を先陣に『飢える魔王』をけん制する様に遠距離から魔法やギフトによる攻撃を続けていた。
『ショウ! 魔力の高まりが消えない!! やばいぞ!!』
「代表!! 『飢える魔王』に力を注ぎ過ぎみたいです! 魔王軍が盛り返してきています!!」
「くそっ……この『魔石』のストックは……まだ使えない……今使ったら終わりだ……」
白波翔は飛竜に括り付けた魔獣の『魔石』を見てこの世界の人間を守るのか、『飢える魔王』を倒すのかを悩んでいた。『飢える魔王』を倒さない限りはショッピングモールで待っている人間が、自分の娘が日本に帰れないのを知っていたので『魔石』に伸びる手が苦渋の決断の末に止まってしまう。
『魔法陣が起動……しているのか? なにやらおかしい! 空に穴が!!』
「代表……魔法陣……あの……文字が……日本語……カタカナがあります……」
「……なんだって??」
白波翔が空に展開された超巨大魔法陣を見る。確かに、魔法陣の一部に見慣れたカタカタで住所らしき場所が表示されていた。
「XXケンマクナリシホンチョウイチノハチノゴーロク……ヤバいですよ! あいつ俺たちの世界に行く気だ!!」
「!! 止めるぞ……あちらには……あいつの心臓もある……くそっ!! 前回あちらの世界に帰れたのはやつの魔法陣のおかげだったのか……」
白波翔が前回の『飢える魔王』との戦いの最後に開いた『時空の穴』の向こうに、懐かしい日本の景色を見て戻ったのだったが、転移者の開発した魔法陣で発生した空間が「偶然」日本に繋がっていたと勘違いをしていたのを理解した。
「アイツの目的は……日本に行くこと……だったのか……」
白波翔がどうするかを考えていると、彼の頭の中で過去の記憶がつながり唐突に理解をする。
(……そうか……『飢える魔王』は最初の実験で「俺だけ」をこの世界に持ってきたのか……)
白波翔がショッピングモールの方向を振り返る。
(ショッピングモールは『飢える魔王』の行きたい場所……それを丸ごとこちらの世界に持ってきたのか……めちゃくちゃな野郎だ……)
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女神エネリエス軍の本陣。
軍師が慌てて女神エネリエスの元へと戻ってくる。
『エネリエス様! 戦況が一転しました! 手はず通り一旦軍を引きます!』
『わかりました。死なない様に撤退を!!』
『無茶言わないでください! 多少の被害は覚悟をしてください!』
女神エネリエスは上空に浮かんだ魔法陣を見て理解をする。
『どうやら、『飢える魔王』があちらに行くにはもっと生贄が必要なようですね……』
『あの魔法陣……戦場全体が供物をささげる祭壇になってしまっているんですね……なんて畜生な魔王なんだ』
女神はふと気が付く。
懐かしい気配と、争っている邪神ソベーレの気配が『飢える魔王』の開け始めた『時空の穴』の向こうから感じられることに。
女神エネリエスは理解する。あれは『異界への入口』がすでにつながっている状態だと。
邪神ソベーレはどうやったか知らないが、あちらの世界にいった直後で、彼の存在がこちらの世界で希薄なのに気が付く。
(これは……好機ね。)
『女神エネリエス』は『時空の穴』へとむけて自身が持つ『神威』をあちらの世界にいる、元自分の子達に送り届け始めた。
(それにしても……あの愉快犯はまた変な事をはじめたのかしら……)
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