第83話 飢える魔王
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ここではない、遠い、遠い別の世界。
あるモノは地面をはいずっていた。
あるモノは気が付くと魔獣の死骸を食べていた。
魔獣の死骸を食べると、不思議と彼の肉体に力が満ち溢れていく感じがした。
ふとある時、魔獣を殺し食べつくしていくと、みなぎっている力とは別に知能が進化していた。
進化した高度な知能になると、ある光景を何度も見ていた。
彼は前世を思い出していた。それは温かく、何とも心地よい風景だった。
暖かく優しい目、楽しそうに微笑む少女……
殺伐とした魔獣の住む魔界とは違う、とても、とても美しい場所に思えた。
あるモノはその光景に魅了されていた。
あるモノは、魔獣を食べると温かい光景が見えると思い、満腹でも魔獣を殺し食らいつくしていった。
あるモノは食らいつくしても、一番最後の白い部屋のベッド以降の記憶を見ることが出来なかった。
あるモノはそれ以上のものを見ることをあきらめていた。だが、ある時、自分を襲ってきた黒髪の人間を返り討ちにして食らっているといつもと違う光景が見えた。
彼の記憶で見た光景ではなく、違う人物が見た夢の中の光景だった。
あるモノは全てを理解した。
人間を食らうと記憶が見られることに。
あるモノは魔獣を食らい、襲い掛かってくる魔法使いを食らい、力を存分に蓄えると、小さな村の知能がありそうな「人族」を襲っていった。
彼らの見る世界の記憶は、知識と能力を彼に授ける事になったが、彼の見たかった「前世の記憶」を見ることが出来なかった。
人間の知識から、彼は「前世の記憶の場所」は『この世界』に無い事を理解していた。
彼はその事実に怒り、その地域一体の村々の人間を食らいつくした。
たまたま遭遇して襲ってきた黒い髪の人間を食らうと「前世の世界」の光景を新たに見ることが出来た。
あるモノは食らいつくした後に理解をした。
黒髪の人間を食らうと「前世の世界」の光景を見る事ができると。
あるモノはいくら食べても満たされなかった。
あるモノは渇望していた。
「前世の記憶」の先をもう少し見る事を……
あるモノは授かった知識と能力をフルに活用して「黒い髪」の人間を狩り、食らう事だけを考えていた。
§ § §
あるモノは追われていた。
あるモノはここまで沢山の街や村、国を食らいつくしていた。
黒い髪の人間がいない村や町はあるモノの配下になっていた。
人間から得た知識と能力は彼を「全能の王」へと変えていた。
転移魔法を使い「日本」のものを呼び出そうとしていたが中々成功していなかった。
ある時、大きな街を襲ったら「黒い髪」の人間たちが大勢いた。
喜び勇んで捕食をしに行ったら想像以上の手痛い攻撃を受けて逃げていた。
準備不足だった。
彼は理解すると魔獣を食らい、さらなる力を蓄えていった。
強い力の人間に対抗するために、命を分けて行った。
彼の「前世」の記憶だと「心臓をたくさん」用意すると何度でも蘇るはずだった。
彼の命を分けた「分体」はあまりに強い一団に出会い、戦闘の末に瀕死になっていた。
彼は心の中で呪った。
「なんで僕をいじめるの? 僕は悪役なんかじゃない!! ヒーローなんだ!」
彼の強い思念はテレビで見た戦隊ものの大砲を思い浮かべていた。
彼の体から「大砲」が生れた気がした。
彼はロボットから放たれる「必殺のビーム砲」を思い浮かべていた。
凄まじい光と共に、悪役が倒れる時に見える大爆発が見えた。
彼は確信した。
これで僕はこの世界のヒーローだと。
彼は慢心していた。
あまりの力に酔いしれていたので自身に危機が迫っているのに気が付けなかった。
彼はまた逃げ出した。
あまりに強い魔術で体は焼かれ、死なないハズの心臓を体ごと引きちぎられてしまっていた。
彼はやり過ごそうと、知識を頼って転移魔法を使ってみた。
彼は見た。転移門の先に見た事のある「夢の光景」の街並みが広がっているのを。
呆然としていると、先ほどの強い魔術師が接近しているのに気が付いた。
彼は焦った。急いで地中に戻ってスキルの「仮死」を使用した。
彼は見た。相手の黒髪の魔術師が彼の文体の心臓を持ち、見た事もない転移魔法で消えていくのを。
彼は魔術師が会話で使用していた「日本語」は理解できた。
あちらの世界に帰ったのだ。
彼は「転移魔法」を使える人間をもっと吸収すればあちらに帰れると確信をした。
彼は前世の母親に言われたことを思い出していた。
「迷子になったらXXケンマクナリシホンチョウイチノハチノゴーロク……って言うのよ……そうすればお家に帰れるから……」
彼は優しい母親と、かわいい妹を思い出していた。
彼は帰るために「がんばろう」と決めた。
彼は動かない体から頑張って「本体」へとこの情報を送り続けていた……
本体は「分体」からの情報を理解し、しばらく回復のために眠りにつくと……知識のあるモノたちを食らい始めた。
そして配下を操り「黒い髪」の人間の情報を集め始めた。




