第82話 ここではない世界の戦争
§ § §
ここではない、遠い、遠い別の世界。
顕現した女神エネリエス率いる女神の軍勢と、『飢える魔王』、邪神ソベーレを信望する軍勢が対峙していた。
『飢える魔王』の軍勢は数を頼りに盾を構えながら前へとじりじりと進み寄っていた。
『補助魔法陣起動!!!』
『魔法部隊構え!!! 撃て!!!』
『女神の軍勢』から様々な破壊の魔法が放たれる。
一方、対峙する『飢える魔王の軍勢』は笑っていた。この世界の常識では届かない距離からの魔法の行使に呆れている感じだった。
『馬鹿じゃねぇのか? あんな距離から当たるわけないだろう……』
『焦ってんだろ……え?』
『ちょっと待て……』
『来るぞっ!!』
『届くのか!!!』
ドーン!! ズドーン!!! ドコォン!!!!
そこら中から聞こえる爆発音とともに『飢える魔王』の軍勢の先鋒部隊はまとめて吹き飛ばされていた。
『っ……何が起きて……』
『くそっ! 引け! ぐぞっ!!』
ドーン!!! ドコーン!!!
状況を確認する暇も無く、さらなる魔法の砲撃で『飢える魔王』の軍勢がさらに吹き飛ばされていく。
『女神の軍勢の本陣』で、この世とは思えない雰囲気の女性が戦況を見届けていた。そこに参謀らしき人間が声をかける。
『うまく行ったようですね』
『ええ。さすが一度『飢える魔王』を撃退している異界の魔術師の知識ですね。こうも一方的になるとは……』
地上で両軍勢同士の戦いが行われている中、上空では転移者達が竜に、空を飛ぶことのできる騎獣、乗り物に乗って駆けまわり空中戦を行っていた。
「あっちの竜騎士は殆ど落ちていきました!! 制空権確保しましたね! 行きましょう! ん? 代表?」
「わかった……少々歯ごたえが無さすぎ……なのと『飢える魔王』がいないな……」
「そうですね。遠距離からの『無慈悲な魔力砲』……って話の割には砲撃が……ないですね」
「心配だが……作戦は進めないとな……」
代表は手を上げて指示を出すと、戦う事の出来る転移者達は空飛ぶ騎獣にのって『飢える魔王』の軍勢の上へと飛行する。
『投擲開始!!』
女神の軍の竜騎士団の団長が合図を送ると、騎獣や飛行可能な鳥人達が持っていた「爆弾」を投擲していく。
『飢える魔王』の軍勢は「それ」が何かを理解できずに手で受け止めたりしようとする。理解する頃には跡形も無く消し飛んでいた。
「……すごい……一方的ですね……」
「今のところはな……前回と同じ展開だ……」
「二十年前の話ですよね……それ」
「ああ、二十年前から学習していない……とも言えるな……」
「バラバラなんですね、あっちの勢力は……」
『女神の軍』は異世界の軍事の知識と、異世界の知識と、ギフトの相乗効果で押し気味に戦闘を進めていた。
「あとからあとから……湧き出る様に……」
「代表!! これだけ押していても削り切れません!!」
「あいつら……なんかゲート使って召喚してるみたいです!!」
代表と呼ばれた男は多少焦って近くにいた「通信兵」の役割を持った魔導士に質問をする。
「わかっている!! 魔道機械兵たちからの連絡は!!」
「まってください……来ました!! 情報を送ります!!」
「助かる!!……頼む」
「わかりました」
傍らに控えていた転移者の魔導士が魔法を唱え始める。
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、光の導く座標を示せ!!『標的補足』!!』
そこらじゅうの魔獣、魔族の魔石の核付近がぼんやりと光り出す。
「ありがとう。助かるよ……」
代表は魔法の結果を見届ける前に手に持った大量の魔石から魔力を供給すると、にじみ出た魔力を体にまとわせて呪文の詠唱を始める。
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、光の導く座標へと魔を射貫く光の矢となれ!!|『多重奏・標的追跡光弾矢』《マルチ・ターゲットホーミングライトアロー》!!』
代表から発せられたすさまじい光の帯は雨のように地面へと降りそそぐ。
ズドドドッドドドッドーン!!!!!
綺麗に魔獣、標的になった生物の魔石、心臓付近をきれいに貫き大量の魔獣が戦闘不能になっていく。
「何だこれ……すげぇ……」
「半分はやった……とんでもない魔法だ……」
代表は手持ちのポーションを飲みながら状況を見守る。
「はぁ、はあ……みんなの協力のおかげだ……一発でこれだ、連発は厳しい……俺の魔力変換が追い付かない……」
魔王の軍勢はパニックに陥り、知能の高い部隊は退却をし始めていた。
だが、突然そこに禍々しい何かが地面から湧き出てくる。
「来ました!! 魔王。『飢える魔王』です!!」
「あれか!!」
代表は『飢える魔王』を見て違和感を感じ、背中がぞっとし始める。
「……以前見た時よりはるかに大きいな……行けるか?」
「恐竜サイズっていってましたけど……アルゼンチノサウルスとかそんなサイズなんですね……」
「……すまん、恐竜にもいろいろいるのをわすれていた」
「……大丈夫なんすか?」
「……はぁ……困ったものだ。散開!! 手はず通りに回避行動!! 食らったら終わりだと思え!!」
「「「了解!!」」」
女神の空軍は散開し、ランダムに回避運動をしながら大空を飛行する。
『飢える魔王』の体表の『口』が大きく開かれ光が漏れ出してくる。その戦場にいた誰もがすさまじい高魔力反応に驚きおののいていた。
「え?」
「代表!! アレどう見ても地面を!」
「……なんてことだ……攻撃元に来ないとは!」
『飢える魔王』の無慈悲な魔力砲は、人間が密集した、敵も味方も関係ない一番多い場所へと放たれる。
ドーーーーーーーーーーーーーン!!!
凄まじい破壊は戦場の最前線をまとめて吹き飛ばしていた。高い魔力を持った個体は何とか耐えきっていたがそれも少数。直撃を受けた場所には死体すら残っていなかった。
「なんてことだ……」
「ああっ、くそぉ!!! 盾の護符はあっちに必要だった!」
「計画変更!! プランC! 『飢える魔王』に攻撃を仕掛けるぞ!!」
『計画変更!! プランC! 『飢える魔王』に攻撃を仕掛けるぞ!!』
『『「「「了解!!」」」』』
地表でも恐れる事もなく『飢える魔王』に対して攻撃を仕掛け始める人間達がいた。
彼らは口々に『飢える魔王』への恨み節を吐きながらありったけの力を注いでいた。
『飢える魔王』が再び出現した新たな『口』に魔力を集め始める。それに気が付いた女神の空軍は上空へと飛行を開始し、対『飢える魔王』用の魔法の杭を『口』にむかって投擲する。
魔法の杭は高高度から投擲された重さと威力で『口』を半分ほど『飢える魔王』の体に縫い付けて暴発を誘発させる。
ドォオオン!!!
「やった!!」
「よっしゃ!!」
「……え? また新たな口が……」
「そんな……あの口全部から……」
『飢える魔王』の体からは暴発と同時に新たな「複数」の口が出現し始める。
「くそっ!! 無理して使うしかないか……」
「代表、ターゲットおくりますか?」
「頼む!!」
「魔道機械兵部隊! 目標補足を! 助かります! もう既に行っていると!」
「ではいきます!」
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、光の導く座標を示せ!!『標的補足』!!』
魔導士が魔法を唱え終えると、『飢える魔王』の口がそれぞれぼんやりと光っていく。
それを見た代表は大き目の魔石を複数握りしめ、魔法の詠唱を始める。
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、光の導く座標へと魔を射貫く光の槍となれ!!『多重奏・標的追跡光弾槍』《マルチ・ターゲットホーミングライトランス》!!』
代表から放たれた光の槍は『飢える魔王』の複数の口を串刺して暴発をさせるが、いくつかの口からは無慈悲な魔道砲が地表で戦っている戦士たちに降りそそぎ大爆発を起こす。
ズドーーン!!
「なんてこった……」
「人を大量に殺すのが目的なのか……こちらに攻撃が来ないんなんて……」
「核に攻撃を食らわないと高をくくってやがる……早く本体に攻撃を食らわせないと……くっ」
魔法を撃ち終えた代表は意識を若干失いかけ倒れそうになるが、飛竜に同乗していた竜族の戦士に支えられる。
『大丈夫か?』
「……見当違いだったか……くそっ……」
竜族の戦士は代表に簡易的な治療魔法をかけながら話しかけてくる。
『ショウ……なにやら聞いた事も無い呪文を唱えているようだ』
『……これは……「日本語」??』
『飢える魔王』からはその戦場の最前線にいる人間たち全員に聞こえる様に呪文を唱えている様に見えた。だが、異世界から来た日本人たちはそれが呪文ではないのを理解していた。
「……XXケンマクナリシホンチョウイチノハチノゴーロク……XXケンマクナリシホンチョウイチノハチノゴーロク……」
「代表!!! これは!!」
「……住所を呟いているのか??」
「『飢える魔王』の呟いている場所はどこだ!!? 近所じゃないか!!?」
「代表!! たしかショッピングモールがあった場所です!!」
「なんだと……『飢える魔王』は……また転移を?? もしかして「そこ」に行きたいのか??」
代表こと白波翔は戦慄を覚え、頭が激しく痛む中、次の最善の手を模索していた。




