第77話 つながっていく『異世界』と現実世界
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ここではない遠い、遠い別の世界。
草木が少ししか存在しない荒涼とした荒れ地の中心には、その場にはそぐわない建物があった。
廃墟となりガラス窓が割れてはいたが、明らかにその建物は突然そこに現れた感じだった。
現代人から見たら、なぜ荒野であるそこに唐突に「巨大ショッピングモール」が存在しているのかわからないくらいだった。
建物の前の駐車場だったであろう場所には数百人の人間が集まっていた。
植え込みの場所に建てられた数十本の木で作られた杭の前で男が全員に向かって語りかける。
「いよいよだ。いよいよ俺たちは帰ることが出来る。今日の決戦で『飢える魔王』を撃退すれば……俺たちは元の世界に帰れるんだ! それまで……ここまで……皆はよくやってきた。あと少しだ。あと少しで……最後の踏ん張りだ。それで家に、日本に帰れる!」
男は木の杭の前で振り返る。木の杭にはよく見ると日本語の名前が刻まれたネームプレートが括り付けられていた。簡易的な墓標だった。
「帰ることのできなかった……散っていった同胞達も……連れ帰ってやろう! さぁ! みんなで家に帰ろう!!」
「「「「オー!!!!」」」」
男のそばに、明らかに現実世界では見ることのない猫耳猫顔の獣人が近づいてくる。
それに気が付いた側近らしき人物が感慨深い表情をしている男に近づき耳打ちをする。
「代表、エネリエス様の使者が来ています。こちらへ」
「わかった」
代表と呼ばれた男のそばに随行する日本人男性が敷地を振り返り、彼の方を見ている若者たちの集団の方を見る。彼等には戦う意思のある目を宿した人がかなりいる様に見えた。
「代表……ほんとにいいんですか……」
「ああ、これからの未来がある人間は……前線には連れて行かない……俺たちだけで何とかするんだ」
「そんなに大変なんですか……今までだってうまくやれたじゃないですか?」
「その比ではない……『飢える魔王』……アイツの攻撃はシャレにならないからな……俺では守り切れない」
代表と呼ばれた男は墓標の方を振り返る。
散っていた人間たちの墓標を見て憐憫の眼差しを向ける。
「……代表がいなかったら……あんなもんじゃすまなかったです……多分俺も……あの中に入っていましたよ……」
「……救えなかったのには変わりがない……」
「代表……あ……聖女ちゃん……」
二人の視線の先には一人の少女がいた。彼女の周りにはうっすらと光の粒子が漂い、何やら神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「連れていけ……ってもう言わない。だけど……皆に少しでも力を……祝福をさせて……」
少女は持っている杖を地面に突き刺して魔力を杖に込め始める。
神聖な力が光の粒子となって彼女の周囲に集まり始める。
『我は求める。女神エネリエスよ……光を司る神々よ……眠りについた古の神々よ……戦に赴く勇敢な者達へ……魔を打ち払う戦士たちが傷つかずに……望む地へと帰る事の出来るように戦いの祝福を与え給え』
杖から放たれた光の粒子が辺り一帯に降り注ぎ、その場にいる者達に吸収されていった。
「相変わらずすごいですね……力が沸き上がっていく感じがします……」
「ありがとう……絶対にこの……ショッピングモールから出ては駄目だぞ……あちらに帰れなくなる」
「わかってる……いってらっしゃい」
「ああ、いってくる。それでは皆を頼みました」
代表と呼ばれた男は転移者の周りを守るように展開していた兵士たちのリーダーに声をかけ、その場を去っていった。
学生、若い人間、戦えない人間は、この世界で戦う事の出来る、志願して戦っている戦士たちを見送っていた。
残された殆どの人の表情は不安と疲労感に包まれていた。
だが、一人の少女とその周囲を囲む仲間達の目には戦う強い意志が感じられた。
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現実世界にて
上空に出現した巨大魔法陣を中心に空は赤黒く染まり、完全に異界な雰囲気になっていた。
同時に魔獣がそこらじゅうで出現し始めて周囲の生きる人間へと襲い掛かっていた。
海波達は『爆心地』で働いていた職員たちや民間人をなるべく救出しながら後退していった。
海波達は魔獣を切り刻みながら突き進んでいたが、爆心地周辺から出るのにてこずっていた。
想像以上に魔獣が出現して取り残された民間人の数が多かったのと、主力組が思ったより疲労していたのが原因だった。
(魔獣が湧き出てくる数が多すぎだよ)
(そうだな……こんなにひどい戦場も珍しい……)
海波達は本陣の方へと逃げる仲間をかばい、魔獣を切り倒しながら殿をつとめていた。
同じく仲間を守りながら移動をしていた浪音がぼそっと呟く。
「まるで魔界のようね……」
「経験があるの?」
「ええ……あちらの世界との境目……魔の者達の生息する場所……一度足を踏み入れたことがあるけど……こんな感じだったわね」
浪音が話しながら『光の矢』を放ち魔獣を貫いて黒い煙へと返していく。
(母さん……魔法使いだったんだね……物凄く流れるように魔法で魔獣の核を貫いてるね……)
(素晴らしい魔力操作だ……あそこまで簡単には当てられないものだが……)
海波が感心していると、羽雪優斗が魔獣を切り刻みながら接近してくる。
「師匠! 寛治さん! 引きましょう!! もう十分だそうです!」
「おう!……ジリ貧だなこりゃ……」
「わかった! 母さん、行こう」
「ええ……なんというか……こんなにもたくましく、しっかりしちゃって……」
(何で母さん涙目なの??)
(親心というやつではないのか?)
(……見た目がなんかきれいに若返っちゃって……どこかのお姉さんに見えるから……)
(……変な感じがするな……)
海波達の上空に飛ぶヘリコプターから一般人へ非難の呼びかけと共に、『ギフト持ちは作戦本部がある丘に集まる』ようにと、あちらの世界の言葉で指示が出ていた。
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本陣にて
自衛隊の特殊対策課が臨時の陣営を築いていた。海波達は自衛隊の特殊対策課の隊員たちに誘導されてたどり着く。
たどり着くと同時に蓮輝が飛び出してきて海波に飛びつく。
「良かった!! 無事だと信じていたよ!!」
「ああ、心配かけさせたな……そっちも無事だったようだな」
「うん。途中からセツナさんとゲンジさんがすごくて! 助けてもらったよ!」
海波が周りを見渡すと、石きり場で分かれたメンバーは無事にここまでたどり着いているようだった。
異界倶楽部のメンバーも合流し、情報を交換しているようだった。
紅華が安堵の表情を浮かべながらも怪訝な表情をする。
「蓮輝、抱きつく人間違えてるよ……それにしても……凄い雰囲気だねぇ……まるで戦場……」
「うん……最終決戦前の……あの時みたい」
瑠衣が紅華の意見に同意し、空を見上げる。
段々と赤黒く染まった空は別世界のようで、彼女たちが経験した『不死の魔王』との最終決戦の雰囲気に酷似していた。
重石要が海波達の周りを気にしながら近づいてくる。
「あ、あ、あれ? れ、礼音は一緒じゃなかったの?」
「そういえば……いないね」
「どこかで諜報活動……って今はする必要ないはずだけど……」
「彼女だったら察知して先に来てると思ってたんだけどねぇ……」
海波達が情報交換をしていると、『賢者』こと与謝峰琴音が拡声器をもって台の上に上がる。
「はい、お集まりいただいた皆さん。現在の状況と今後の作戦などの概要を連絡します……ん? 音大きいわね……」
(賢者……って言うより普通のお姉さんだね)
(……ふむ……セレスの表情が大分和らいでいるな……)
(……ゼフの記憶だと……大分鬼気迫る感じだったんだね)
(ああ、いつも追い詰められている感じだった。なぜだろう?)
「おい、おじょーちゃん。大丈夫か?」
「ほんとに賢者さま??」
「魔力少なくねぇか?」
与謝峰琴音がその場に集まった人間が騒ぎ出すとちょっと困った表情をする。
それと同時に脇に控えていた羽雪優斗から殺気の様なものが漏れ出して一瞬にしてその場が静まる。
「……優斗くんやりすぎ……あ、えっと失礼しました。まず現状ですが、簡単に言うと、私たちの大半がいたであろう「女神エネリエス様と男神ソベーレ」の世界がつながりかかっています」
その場に集まった転生者達がざわつき始める。早風切那が『賢者』に質問をする。
「おい、あの魔法陣は『邪神ソベーレ』の力を引き出すものだろう? なんでつながるってわかるんだ?」
「はい、それはこれから解説します。おそらくですが、「爆心地」と呼ばれるあの『邪神の門』自体があちらの世界とこちらの世界を繋ぐ上空の巨大魔法陣の起動キーだったみたいです。今は、ただ世界がつながりかかっている……魔力の道が出来た状態になっています。ただ、大きな問題が起こるのはこれからです」
会場が一気にざわつき始める。
紅華がたまらずに隣にいた瑠衣に思わず話しかける。
「大きな問題って……もうすでに大きな問題が起きてるよね?」
「うん。魔獣が沢山わいてるしね……魔界みたいになってるし……」
騒ぎが収まり始めると『賢者』が言葉を続ける。
「今は時詠みの巫女の予見通りに現実が進んでいる感じです。その道をたどってこちらに来るであろう存在があります。」
会場が静まり『賢者』の言葉を待っていた。
「来ます。この世界に、この世界に『飢える魔王』が」




