第75話 お互いの未来
美来は海波と目が合うと駆け寄って抱きつく。海波は優しく美来を抱きしめる。彼女の表情は崩れ、ボロボロに泣いている状態だった。海波の仮面の奥の目も潤んでいた。
「……ありがとう……ゼフ……」
「ああ、約束しただろう……君を守るって」
「そうだね……でも……私は……私は……あなたの約束は……守れないよ……」
「あれは前世での約束だ。気にすることは無い」
「でも……でも……ごめんなさい……」
寛治はあまりの事に呆然として固まっていた。自分に来ると思っていた美来が海波の方に行くとは全く思っていなかった。
紅華は瑠衣の事を振り返り、どうしたら良いか迷っていた。
浪音も協力者である大人な美来と息子が恋仲なのか? と、目の前にいる悲しみの表情を浮かべる瑠衣と見比べる感じになっていた。
「ラケシス。君が望んでいた未来をつかめたんだ。気にすることは無い」
「ゼフ……」
「それに……ラケシス。抱きつく人間を間違えているぞ」
「あ……ごめんなさい……」
美来は突然現実を思い出したかのように海波から離れる。
海波は美来の背中を押して寛治の方へと優しく押し出す。
寛治は成り行きに混乱をしていて状況がつかめていなかった。
「……え?」
「ごめんなさい! 浮気じゃないの! 前世の……これは……約束だったの……」
「カンジ。ここからはあなたがラケシスを……美来を幸せにするんだ」
「あ、ああ……わかってる……」
「幸せにしないとぶちのめす」
「だ、大丈夫だ」
「浮気をしたら半殺しにする」
「……わかった」
「美来を悲しませたら腹パン入れる」
「……そこまで……善処する……」
海波が瑠衣と浪音の方へと歩いてくる。紅華も気になったので三人の元へと駆け寄ってくる。
「どう言う事?」
「……てっきりラケシス様と……」
「ああ、前世のラケシスの時は……子供が作れなかったからな」
「……?」
「海波、言っていることが分からないんだけど?」
海波は目の前の女性たちが本気で混乱しているのを理解した。
(説明不足だったのかな?)
「ああ、すまない。魔力感知を高めてラケシス……美来を見てみろ」
「へ?」
「うん……あ!!」
寛治にやさしく抱きしめられる美来を見て、瑠衣がすぐに海波が何を言っていたのかがわかり驚きの表情のまま固まってしまう。
「……俺も最初に見た時に混乱して……すまなかった」
(ショックだったものね……転生した先の元カノが妊娠してたなんて……)
(……すまない、そう考えるのも……まだ心の整理がついていないんだ……)
紅華が色々と理解した様で納得な表情になる。
「それで海波はずっと情緒不安定だったんだね。行動が感情的だったし」
「……そういえば……そうだね……海君にしては……」
海波が成り行きを見守っていた浪音の視線を感じる。
顔の印象は同じだが、髪や目の色が全く違うので別人のようだった。
「それで……母さん……やはり転生者だったのか?」
「え? 母さん??」
紅華は目の前にいる女性はてっきり外国の人かと思っていた様だった。
瑠衣は中身に気が付いている様ですぐに質問をする。
「私も聞きたかった……浪音さんなのに髪の色と目の色……耳もちがうのね……」
「……そうね。私は転生者ではないわ。転移者……と言うらしいわね。あちらの世界から来てしまった」
「え? あちらの世界からこっちに来られるの?」
「どういう事なんですか?」
浪音が説明しようとすると、外から慌ただしい感じで集団の足音が近づいてくる。
「優斗君!! 大丈夫!?」
「琴音……名前呼んじゃダメなんじゃ?、コードネームは?」
「大丈夫そうね……ごめんなさい。準備してたら色々手間取っちゃって……」
浪音の元にも特殊対策課と思わしき人物達が歩み寄ってくる。
「主任??? うわさでは聞いていましたが……別人の様ですね」
「外では未だに出現した魔獣との戦闘が続いています。異能者達が手伝ってくれていますのでそれで何とかなっている感じです」
彼らの周囲にはなんとなく勝利後の、気の緩んだ雰囲気になっていた。
が、魔道機械人形が警告を出す。
「『魔王』ノ魔力ハ消エテイマセン。注意ガ必要……」
「なんだって!?」
「地面から巨大な魔力が!!」
「どうなってんだ??」
(地面から……強い魔力を感じるね……)
(ああ、丁度その黒い魔石の……下になるな……)
美来が突然大きな声で叫ぶ。
「視えた!! 来るわ!! 黒い触手の……おそらく『飢える魔王』」
「コチラデモ確認シテイマス。上空ニ巨大ナ『魔王ノ魔力』ヲ感知シマシタ」
邪神の間にいた人間は、彼女の言葉に嬉しさが吹き飛んで一気に絶望の淵に叩きおとされていた。
一人だけ冷静だった「賢者」が出来る限りの大きな声で叫ぶ。
「全員ここから退避!! 大量の魔獣が湧き出るわ!」
一同はヤバい雰囲気に包まれたその室内から出来る限りの速度で逃げ出していた。




