第74話 邪神の扉の中で
§ § §
遠地寛治がかなり慌てて女性研究員に問いただす。
「ちょっと待ってくれ。中の調査をしていたのだろう? 配線はドアの隙間を通っている……開いてたんだよな?」
「はい。少し前までは。ただ、主任があと数日間は閉じておいた方が良い……との事で封印を……」
「なんてこった! 美来はどうなるんだ!?」
(どうしよう。破壊の力使えないかな?)
(扉には邪神の……黒魔術的な何かがかかっている様に見えるな。中和が必要か……)
羽雪優斗が前に進み出て、剣を構える。
「んじゃ、破壊しますか……ちょっと皆さん離れてくださいね」
「……レビィ。中止ヲ要請シマス。中ニイル三人ノ生存ガ保証デキマセン」
「……あ、そうか……中がどうなってるかわからないもんな……死んじゃうか……あ、そうだ」
羽雪優斗が思い出したかのように、壁に置いてあった荷物からスマホを取り出す。
「あれ? なんか連絡来てる……」
羽雪優斗が通話ボタンを押した瞬間に大き目の若い女性の声が響き渡る。
『優斗君! 大丈夫!!? ああよかった。どうなってるの? 門を突破されちゃったの?『魔王』の魔力が増大したわ!』
「生きてるよ。扉が開かなくて困ってるんだ」
『……え? あの……? もしかして扉の手前にいるの?』
「扉を守れって言ってただろ?」
『扉を……ああ……なるほど。ごめんなさい。説明不足だったわ。その門を通る人間を何とかしてほしかったんだけど……』
「なんか邪神の力が働いている様で開かない」
『中和だったら特殊対策課の鼓動さんを呼んでくれれば出来るはずよ。鼓動正史さんね』
「鼓動さんって……」
「異能者管理組合の人ね。調査するのが得意だったかな……」
白波浪音が護衛の隊員を連れだって急ぎ足で部屋に入ってきながら鼓動正史の状態を説明する。
「先日から行方不明よ。何かおかしいと思っていたのだけれども……」
「主任!! 丁度いいところに!! 扉の封印を解かないと!」
浪音は女性研究員に落ち着くように優しく肩に手を添えながら部屋を見回し、海波のところで目が止まる。
「はぁ……困ったものね……逃げろって言ったのに……」
(なんかばれてないか?)
(……魔力の感じでばれてしまったのか? 派手に戦っていたからな……)
浪音が扉の前へ進み、手をかざす。かざした瞬間に疑問の表情が浮かぶ。
「……私が封印を壊します。 ……あ、あれ? なんか重ねがけされてる?」
女性研究員が若干混乱しながらも記憶を探る。
「先日、鼓動さん達が封印の様子を見てくる……とか言っていましたね」
「……ああ、そうか……そっちか……家庭のトラブルのせいで気が回らなかったわ……」
浪音が若干うらめしそうに道化仮面をかぶったままの海波の方を見る。
(ばれてるね)
(そうだな。一応隠し続けてくれている様だな)
「鼓動くんは邪神側認定で……」
「そんな……あの真面目な鼓動さんが……」
「すぐに捜索……いやその前にこちらね……ねぇ、賢者さん。良い手法はない? 聞こえているんでしょ?」
『……そうですね。扉以外に封印の薄いところを……』
(なるほど)
(あ、そうか)
(何時もの手段を使えって事だな)
§ § §
言預美来は坂相勘九が黒い触手にのまれ、半魔王と化し魔獣と融合しかけているのに気がついた。彼が力に飲み込まれると同時に彼女にかけられていた戒めもとけ、驚いて逃げ出そうとする提子を抱えて出来るだけ巨大な魔石と、半魔王化した坂相勘九から離れていた。
「なんなのっ、なんなのあれ!! もういやっ!!!」
「落ち着いて……大丈夫……助けに来てくれるから」
美来は女神の加護の力で障壁を作り、実体化した黒い触手から身を守っていたが、想像以上に強い力に押されはじめていた。
「人じゃない。化け物じゃないあれ!!」
「そうね。邪神……魔王の力に取り込まれてしまったわね……」
「この心の声に従うとああなっちゃうの??」
「そうね……」
(邪神の声に耳を傾けてしまったのね……心の弱い子だったわね……それにしても……神が見せてくれた未来は、魔王化する直前……だったのね……もう少しまともな状態を予見させてくれても……)
美来はそう理解し絶望していた。
§ § §
海波は扉の脇の方に移動し、壁をトントンと手で叩きながら向こう側に空間のある薄そうな箇所を探る。殆どの者は何をやっているか理解しきれていなかったが、瑠衣が何をするかを察知して慌てて海波の方に近づく。
「海君! ちょっと待って! 私のギフトをかけておく!」
「助かる」
浪音が瑠衣の発言にぎょっとして彼女の事を仮面越しにまじまじと見てしまう。
(へ? 瑠衣ちゃんも??)
瑠衣が海波にギフト『潜在能力覚醒』を使用する。
海波が湧き上がる力に驚き、思わず自分の体を見る。
(力が沸き上がってくるみたいだね)
(……この力は……『潜在能力覚醒』……どこかで……受けた記憶が)
「凄いな……ありがとう……瑠衣」
「どういたしまして」
海波は瑠衣に対して嬉しいような悲しいような複雑な視線を送る。
紅華が慌てて武器と盾を構えなおし警戒態勢に入る。
「まさか……やるつもりなの?」
「ああ、すまないが何が出てくるかわからん。瑠衣を任せたぞ」
「わかった」
海波は魔力を掌に集中させてギフト『物質を粉に変える能力』を壁に向かって発動させる。
ドン!!!!
扉の横の封印されていない箇所が綺麗に粉となって吹き飛んで大きな穴が開いた。
(力込めすぎ!? 凄い範囲が開いた!?)
(……やばい!!)
海波はすぐ近くにいた瑠衣を抱え紅華の後方に一気に離脱する。
穴を開けた個所から黒い触手がのたうつように、何かを探すかのようにはい回っていた。
紅華が盾と剣で払いながら後ろへと後退していく。
「ちょっとあたしも抱えて行ってよ!!」
「紅華なら大丈夫だろう!」
「ひどいわねっ!!」
「『飢える魔王』の触手!! みんな引きなさい!!」
浪音は叫ぶと同時に胸につけていたペンダントを引きちぎる。
すると、浪音にかかっていた幻惑魔法が解け、白銀の髪で金色の目。この世界でない、異世界の人間の姿となる。
突然の事に驚く一同だったが、浪音は気にせずに魔力を集中させて穴の位置に結界を張る。
海波も浪音の変化を見る事も無く、穴の中の事だけに集中をしていた。
彼の強化された感覚で部屋を調べる。大きな部屋の角の方で魔法の障壁を張って耐えている美来の姿が見える。
(いた!!!)
「ラケシス!!」
海波の中の「ゼフ」は絶叫していた。それと同時に彼は魔力全開で体に蒼い雷をまとう。浪音の展開した魔法障壁から飛び出て黒い触手を切り刻みながら美来へと突撃をする。
(ちょっと大丈夫なの?)
(ラケシスを助ける!!)
海波は「ゼフ」の時のラケシスを失った時の記憶が走馬灯のように駆け巡る。
突撃をしていく海波を見た坂相勘九は彼の動きに目が釘付けになる。
神の声に従って美来を攻撃していたが、その矛先は海波へと向かう。
「ゼファイトスぅうう!!!(やめろ!!!)」
大量の黒い触手が一斉に海波を襲う。彼は難なくかわし触手を切り刻み、雷で焼き払いながら美来へと向かう。
(ゼフ! 僕らが囮になれる! ラケシスさんに近づいちゃだめだ!!)
(くそっ!!)
(ほら! 寛治さんと紅華が助けに行っている!)
(くそっ!! 俺の役目を!!)
(え! ええ? そっち??)
(助かった。一人だけだと突っ込んでいた!)
(どういたしまして!?)
海波は「白波海波」の心が「ゼフ」の後悔と言うよりも「英雄願望」に呆れたため、冷静さが戻り、仲間に任せて囮になっているのに安心をしていた。
「死ね! 死ね!! しねぇ!!!!! ゼファイトス! 死ね!」
坂相勘九が叫びながら新たに発生していく黒い触手を海波へと送り続ける。ドロスカルの強い思念のせいか、坂相勘九の背中から浅黒い人間の様なものが生成されていく。
(あの顔……ドロスカルか???)
(悪徳貴族の??)
(なるほど、恨まれたものだな。転生してまでも敵視してくるとは)
寛治が動けないでいる提子を抱えて海波が開けた穴の方へと移動していく。紅華に守られるように美来も続き、退避がうまく行っている感じだった。
「海波! こっちは大丈夫!! ユートさん! やっちゃって!」
羽雪優斗は紅華の声で一瞬攻撃しようとするが、魔王化していない人間部分がむき出しの場所を見て躊躇してしまう。
「え?! ちょっと人間なんでしょ? あれ? やっちゃっていいの? 浪音さん!?」
「本体以外やってしまっていいわ!! 私なら治せる!」
(母さん過激だね……って、なんか髪の色が変わってる??)
(くっ!! 今は避けるので精一杯だ! 余計なことを考えないでくれ!)
羽雪優斗は剣を構えなおし状況を判断する。
「んじゃ行きます。師匠、すみませんがもう少し左側に!……ありがとうございます」
(え? なにをやるの?)
(ああ、彼の必殺のギフト……『一意専心』だな。周囲の魔力や神の力……あらゆる力をひとまとめにする能力だ)
(……ああ……元気玉か……)
(ん? この世界にもある……ああ、漫画か)
寛治が羽雪優斗に集まる力を感じ取り戦慄していた。
「なんかとんでもない力が……」
「凄い力ね……」
「さすが女神の騎士……」
浪音が羽雪優斗の剣に風と氷と雷の精霊が集まるのを見て、その強さに若干狼狽し始める。
「あの……最終兵器君……力を込めすぎだと思うの……」
『優斗!! 加減しなさい!! 今のあなたは……』
(あれは聞いてないな……)
(ふむ。良い集中力だ)
「いっけぇええ!!!」
スドォォオーン!!!
とんでもない威力の斬撃が半魔王化した坂相勘九の下半身と、魔王化した本体を消し去っていた。彼の体の中から聞こえていた大きな心臓の音もきれいに消え去っていた。
女性研究員が上半身だけになった坂相勘九を見て悲鳴を上げる。
瑠衣がすぐに近づき治療を始め、浪音が先ほど外したペンダントをボロボロになった坂相勘九の首に付ける。
坂相勘九が朦朧とした意識の中、浪音に話しかける。
「……主任……大丈夫……ですか?」
「大丈夫よ。坂相君。ありがとう、ドロスカルを邪魔してくれて……助かったわ。これはあちらの世界の力を封じるペンダントだから……無理に魔力を使わなければ大丈夫」
「ありがとうございます……」
そう言い残すと坂相勘九は意識を失ってしまう。
「どうやら大丈夫な様ですね……」
「ありがとう……瑠衣ちゃん……」
「はい……」
二人は坂相勘九から邪神の力が抜けきっているのを確認した。
瑠衣は目の前の事が何とかなりそうと判断すると、一番気がかりだった事。海波の事を直視する。
彼女の目には美来が海波に抱きついているのが写り、深い悲しみに包まれていた。




