第66話 坂相勘九
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坂相勘九は海波の家の前で様子をうかがっていた。魔力感知を使うと、家の周囲には二人の見張りの姿を感じ取ることが出来た。
(ラッキーだな……多智花夫妻か……事を進めやすい……)
坂相勘九は転生者自由主義の仮面をかぶり、気配も無く旦那の方へと近づいて『感覚操作』のギフトを発動させる。
「ギャッッ!!! ガ、ガ、ガ……」
突然、多智花旦那が苦しみだし倒れて体中をかきむしるように体中をくねらせていた。
(ギフトの力は衰えていないようだな……フフフ……女神教の奴め、良い様だ!……なんてことを! やめるんだ! く……)
坂相勘九は記憶の交じり合いで頭の中での戦いが始まっていた。その瞬間、夫の危機を感じた妻が音も無く素早く坂相勘九を仕留めようと接近してくるが、突然空間から現れた黒い手に巻き取られ動きを封じられる。
「なっ!! しまった……力……が……抜ける……」
完全に動けなくなった二人を見て余裕の表情を口元に浮かべる。
「……さて……あなた達……少々お願いがありましてね……」
「邪神の手先め! 言う事なんて聞くものですか!」
多智花妻が啖呵を切った瞬間に多智花旦那が叫び声をあげる。
「ギャッ!! ギ……ギ……ぜ、絶対に……いうことを……きくな……ギャッゥ!」
「あ、あなたっ!!」
坂相勘九はギフト『感覚操作』を使い、多智花旦那の痛覚をさらに上げていく。叫び声は強くなりのたうち回る。
「なるほど古傷にも有効の様ですね。そう言う仕組みだったのか……さすがは女神教の敬虔な信者……ですが……折角ですから痛みと拘束を入れ替えてみます?」
坂相勘九の突然の提案に多智花夫妻は混乱する。
「なんですって?」
「グ、グ……?」
坂相勘九は楽しそうに黒い手で拘束されて動けない多智花妻に近づき、彼女の腹を魔力視する。
「はたして……痛覚の増加にあなたのお腹の子は耐えられるのでしょうか?」
「!?」
「?! ギ、グ……ぎざまっ……」
「何で知って……」
二人の表情は沈み込み、一気に絶望の淵に落とされてしまう。
「さて、交渉を開始しましょうか……出来るならお互い利益が出ると良いですなぁ……クックッ」
多智花旦那は坂相勘九を睨むも、仮面の奥の目に、無機質なものを見るような目を向けてくるのに狂気を感じさらに絶望するのだった。
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多智花妻は海波父の書斎から封印された何かの中身を取り出して持ってくる。
「ああ、素晴らしい、お告げの通りだ……女神教の信徒ならたやすく封印の中に入れる……一人では無理でした。感謝します」
坂相勘九は邪神からのお告げに感動をしていた。前世では見放されていた感じがしたが、現世では直に声をかけていただける。そう感じ、優越する気分になっていた。
「これで……これでいいんでしょ?」
「上出来です。なるほど……これが鍵……時が止まっているな……」
「そんなものが入っていたのね……」
「ツゥ……魔獣の心臓……グッ……ギ……」
坂相勘九の周りに突然黒い手がまとわりついた後、彼はこの魔獣の心臓がどう言ったものかをすぐに理解をする。
「なるほど……これを扉の奥に……承知しました。我が主よ……」
「交信……しているの?」
「邪神の気配……」
(くっ……知らせなければ……)
「ああ、そうそう、あなた達はしばらく眠ってもらいましょう……『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、混沌と時空を司る神ソベーレの名をもとに我が魔力を糧に、深き眠りに誘う風となれ』」
「ま……魔術師……」
「ああ、くそっ……」
「ゆっくり休め……起きるころにはすべてが終わっているでしょうな……ククッ」
坂相勘九はリビングで眠りに落ちる二人を見届けるとその場から一瞬で姿を消した。
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坂相勘九は転生者自由主義のまだバレていない別のアジトへと赴く。前回のアジト同様、地下に空洞が掘られ隠ぺい工作がされている場所だった。
(さて……次は……間空提子を拉致して……門の向こうか……なるほど……転送陣を書き換えれば……フム)
目の前で召喚術のテストをしている召田宗麻の脇にいる挙動不審気味な間空提子を見る。
その周りで注意深く観察している幹部たちを見て、現状では連れ出すのは無理だと悟る。
(良いタイミングで間空提子を誘導して……転移魔法陣で離脱するか……確か、爆心地直結の者があったはずだなそれを書き換えれば……門も間空提子がいれば開くだろう……)
言預美来が坂相勘九に気が付いて近づいてくる。
「勘九君、今日は出勤じゃなかったの?」
「ああ、今日は休みを取った……」
「あれ? そんな簡単に取れるの? 元気そうじゃない?」
言預美来は全身を魔力を籠った目でくまなく彼の事を上から下まで見る。
(……? どういう事だ? こんなことされた記憶は無いんじゃが……何かバレているのか?)
「なんだ? 不躾な……」
疑いの眼差しで言預美来は坂相勘九を見る。彼女は何かを考えた後、体中に魔力を高める感じで警戒しはじめる。
「うーん。「賢者」の予測が当たってるのかな……ねぇ、勘九君……」
言預美来が話そうとした瞬間、後ろの方が慌ただしくなる。
「おいおい! 元次どうした? ボロボロじゃねぇか?!」
「誰にやられたの?」
伏野一休と雲梯摩帆が歩くのもしんどそうな縮圧元次に近づいて肩を貸す。
「……すまないな……美来……結構キツイ……治療を……」
「わかったわ」
言預美来が慌てて彼を女神の加護を使って治療をする。
「助かる……ありがとう」
「あなたがこんなにボロボロになるなんて……しかも殴り合い? 何をしたの?」
「ああ、過去の因縁……前世の因縁を果たしただけだ。後は……八つ当たりをされたようだ……」
「え? ヤツアタリ? なんの?」
縮圧元次は言預美来を魔力視で見た後に納得した表情になる。次第に怒りに満ちた眼差しになって立ち上がると、ソファでやる気がなくだらけた感じで様子を見ていた遠地寛治の襟をつかんで持ち上げる。
「お、おいなにするんだ? どうした? 怒ってるのか?」
「……歯を食いしばれ……」
「なっ??」
「いや……腹に力を入れろ!」
「ちょ、ちょっとまて!!」
縮圧元次は海波張りに魔力の籠った右手の拳をかなりの威力で遠地寛治の腹にぶち込む。
ドコン!!!ズサァアア! ドン!
十メートル以上離れた壁に遠地寛治は吹き飛ばされて叩きつけられてしまう。
「ごふっ! て、てめぇ! 何しやがる!」
縮圧元次はツカツカと歩いて近づき襟首を両手でつかんで持ち上げる。
そのあと遠地寛治に何やら怒った口調で何かを耳元でささやく。
「え!?」
遠地寛治は一瞬呆けた後、言預美来を呆然とした表情で見つめる。
言預美来は一瞬で何が起きたか理解をした。
(まだ言っちゃダメなのに……しょうがないな……神様はもっと正確に未来を見せてくれればいいのに……)
言預美来は目の前で起きた突然の騒ぎで坂相勘九への警戒を解いてしまっていた。
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