第63話 魔道機械人形
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伴戸志姫たち「光の女神教」の信徒たちはある郊外の工場跡に来ていた。
総勢二十人くらいの「和風狐の口出し仮面」をかぶった軍団が気配を殺して様子をうかがっていた。
「情報通りですね。やはり……あるようですね」
「大丈夫でしょうか? 襲撃など……野蛮な……」
「聖女様。この街を守るためです。あんな邪神の意思の入った魔石など処分するに限るのです」
「……そう言われると……」
伴戸志姫は信徒たちの熱心な活動に感謝をしていたが、最近は活動しすぎなのではと心の中で思っていた。
「人数が確認できました。おそらく七人。手練れはいないかと思われます」
「……では参りましょう。絶対に殺さないでください。少々の怪我くらいなら私が治します!」
「はい!」
「承知しました!」
光の女神教の信徒達はなだれ込むように工場跡へと突撃をしていく。壁に張り付くと訓練された兵士のように相手を気取りながら侵入を開始していった。
「みなさん……手練れの様で……」
「ええ、軍隊経験のあるものだけを連れてきました。他の者は違う案件にあたってもらっています」
「そ、そうですか……」
「では私も行ってまいります。動かずにいてくださいね」
「え?……あの、私の守りは……」
伴戸志姫は前世の事を思い出し、優秀すぎる部下に引っ張られ前線に出すぎて死んだ事を思い出していた。
(前世と同じことにならないと良いのですが……)
彼女にはどうやら周りを必要以上にやる気にさせる何かがあるようだった。
§ § §
襲撃を受けている側の転生者自由主義のメンバーは完全に浮足立っていた。
「敵襲!?」
「え? そんな情報なかったんだが!?」
「異能者管理組合じゃないっぽいぞ!」
「防御魔法陣起動させろ!!」
「わかってる!!」
転生者自由主義に鞍替えをした釜背修太は得意の魔術で防御結界の魔法を発動させる。魔石貯蔵庫を綺麗に覆っている感じだった。
「すげぇな……これなら少しの時間稼げるな」
「おい、入口を固めろ!」
「わかってる!」
一人の少年が魔力を込めて手をかざすと、入り口に砂が集まったと思ったら石となり入口をきれいに塞いでいた。
「連絡を!」
「くそ、入口塞いだら電波が……」
「おい! ダクトからくるぞ!!」
部屋のダクトが破壊され、中から数人の狐の仮面をかぶった人間が飛び出してくる。
迎撃しようと魔術を放とうとしていたが、先頭に立っていた人間が『魔法壁』のギフトを展開させながら降りてきたので手を出せずじまいだった。
「動くな。その邪神の魔石を渡せば手を出さない事を約束する」
「え?」
「なに言ってんだ?」
「ちょっと、リーダーさん。聞いてないんだけど?」
「俺も聞いてねぇ! 邪神は関係ないだろ? 魔石だぜ? 魔獣のコアだろこれ?」
転生者自由主義のメンバーの本気で慌てた様子に、女神教の信徒たちは若干気が緩んでしまう。
「魔石の危険性に気が付きもせずに使っているのか……」
「呆れたものだな……」
釜背修太は後ろを振り返り、「邪神の魔石」があるのかを確認しようとしていた。確かに普通の魔石より黒々とした「何か」が見えるものが数個混ざっている感じだった。
「この黒いやつか?」
「そうだ。話が分かるな。浸食された黒い魔石だけ渡せば他はいらない……まぁ、寄付してもらえると今後の活動が楽になるんだが……」
「てめぇ、善人ぶりやがって! 強盗と同じじゃねぇか!」
「やってやる!!」
「ちょっと、戦うのはないっていったじゃない!」
自由主義のリーダーが魔力を高める。その場の全員が戦闘態勢に入った瞬間、重量のある何かが突然天井を破って降ってきた。
ズドーーン!!!
「え?」
「なんだ?」
落ちてきた重量のあるものは人間の女性の形をしていた。髪は緑色にそまり、体形はマネキンのように均整のとれた形状をしていた。場違いなきらびやかな戦闘服が周囲を困惑させていた。
「え? リアル初音ミク?」
「……えっ? 魔道……機械人形?!」
その場の人間が驚いて手を止める中、ゆっくりと魔導機械人形は立ち上がる。
「邪神ノ残滓ノ確認。転生者ト思ワレル魔力ヲ複数確認。交渉ヲ開始シマス」
転生者自由主義の構成員が魔石の後ろ側で、逃走用の転移魔法陣の準備をしていた。
「じゅ、準備完了!! みんな集まって!!」
「お、おう! これでも食らいな!!」
転生者自由主義のリーダーが白い球を地面にたたきつけると煙幕が放たれ始める。警戒をしていた光の女神教の信徒は一歩出遅れててしまう。
「ちっ!! 煙幕??」
「毒か?」
「まさか転移魔術? 逃げる気か!」
「魔力反応を確認。阻害シマス。視界不良……空気ヲ浄化シマス」
機械的な声と共にあたり一帯にノイズが走った後、風が巻き起こり煙幕が魔道機械人形の手の方に吸い込んだ後、天井の穴に煙を放っていく。
「え? 転移魔法陣……起動しません!!」
「なんだとっ??」
釜背修太は自分の手からも魔術が発動しないのを見てすぐに理解をする。
「魔術ジャミングだな……王国製の殺戮兵器か……懐かしいな……」
「暫く魔法使えないのか?」
「いや、あいつの周囲に近づくとと魔術をキャンセルされてしまう感じだ……身体能力強化のみで戦う必要があったはずだ……」
「詳しいんだな……新入り……」
(何度煮え湯を飲まされたことか……)
「んで、あの機械人形はどれくらい強いんだ?」
「守護騎士と同等かそれ以上だ」
釜背修太の話は、女神教の信徒にも聞こえていたので動揺が広がっていた。
魔道機械人形の左手が変形し、中から大砲の様なものがあらわとなる。
感じようとしなくても、かなりの強い魔力反応を放ち始めていた。
「抵抗スルト撃ッチャウゾ?」
「……さらに俺の知らない新型だな……」
その場にいた人間が逃げようとするが狭いダクトと突き破られた天井しか逃げ道がないのを確認する。その場にいた人間は動きを止めて、手を上げて降参の意を伝える。
「賢者様ノ言ウ通リデシタネ。デハ交渉ヲ開始シマショウ……」
釜背修太は手を上げながら悪態を心の中でつく。
(どっちも強盗じゃねぇか……さて……どう逃げるか……)
§ § §
伴戸志姫は重石要に抱えられて転生者自由主義のアジトから高速移動で離れていた。
「ありがとうございます」
「ど、ど、どういたしまして。ここなら安全」
重石要は伴戸志姫をアジトが見える位置に降ろすと、アジト方面の観察を続ける。
「ま、ま、まさかガーディアンが来るとは……お、思ってなかったよ」
「王国製の魔道機械人形の事ですよね? 何故こちらの世界に?」
「し、召喚されたのか、異界の門が開いたんだろうね。ぼ、僕はあまり詳しくないよ」
「……それで要君はなぜこんなところに?」
重石要は名前がばれたのに気が付くと自分の仮面をピタピタと触っていく。
「喋り方でわかりますよ……声も同じですし」
「あ、あ、そうだったね。ちゅ、中学時代はありがとう。お、お、お世話になりました」
「私が誰かはわかるみたいですね……あなたが所属しているグループは……紅華ちゃんのグループでいいのですか?」
「え、え、え? あれ? あの現場にいたの?」
「ええ、後ろの方で支援をしていただけですが……そろそろ相談するころあいかと」
シューーー! ドン!!!
重石要と伴戸志姫の観察する目の前で、魔道機械人形はアジトからロケットの様に飛び上がり、空中でジェット噴射をして飛び去って行った。
「アイアンマン……だな。かっこいい……」
「……私の記憶だと飛行機能はなかったはずなのですが……」
魔道機械人形が飛び出た穴から人間がわらわらと外に出てくる。彼らも魔道機械人形の飛び去った方向を見て何やら話し合っているようだった。
「あ、な、な、仲間が探しているみたいだよ。そ、それじゃ僕はここで」
その場を去ろうとする重石要の服のすそをがしっと伴戸志姫が握って引っ張る。
「あ、待ってください。連れて行ってください。あなたの仲間の元へ」
「へ、へ? ど、ど、どうすれば……待って、れ、連絡を……」
伴戸志姫は魔道機械人形を見て裏で暗躍している人物の異質さに気が付き、真実を確かめる必要がある事を悟った。
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