第60話 海波逃避する
蓮輝の発言に海波は呆然としていた。
瑠衣が一瞬考えた後に驚いて直ぐに聞き返した。
「それってどう言う事? 海外にいたとかじゃなくて?」
「……その場合は海外に住んでた……まで調べられるらしいから、密入国でもない限りは違うんじゃないかと」
「浪音さん……日本人離れした顔してたけど……」
(……確かに、母さんの学生時代のアルバムとか、写真見たこと無いかも)
(この世界では、生きてきた痕跡が残るものなのだな……あちらの世界ではあり得ないな)
(役所の書類、写真……学校のアルバム……色々残っちゃうからね)
「すまないが、俺もわからない。学生時代の写真なんか見た記憶ないな」
一同は海波の発言に驚きを隠せなかった。
(む? おかしいことなのか?)
(ごめん、僕も分からないや……普通は残ってるものか……)
「あと、こっちは不確定情報になるんだけど、海波君パパも、海波君が生まれる前に五年ほど、履歴、職歴が消えている時があるんだよね。捜索願を出されてたけど……なんか発見されたみたいだし」
「……それは初耳だな……」
(僕が生まれる前になんかあったんだね……)
(さっぱり話が分からなくなったな)
(父さんがいてくれれば……変な人だったが、有能だったからな……)
「そんな感じで、海波君ママも今回の事件の何かのカギを握っているんだけど……謎が多い人なんだ。なので海波君には悪いけど……今回の調査対象だね。それで次は提子ちゃんね」
蓮輝がホワイトボードの「海波ママ」と書かれた文字のところに、「要捜査・海波君情報なし」と書き添える。
海波や浪音と親しい瑠衣は色々と思う事があり、記憶を思い返していた。
紅華はそこまで接点が無かったので次の話を促す。
「提子の能力も謎なんでしょ?」
「今わかっているのは空間系のギフトと、黒い手を呼び寄せる。ここは礼音ちゃんの方が詳しいんだけど……」
「黒い手の能力。あちらの世界での潜入作戦の時に見た。邪神の神官たちが使う闇魔術。ギフトか加護なのかは正直分からない」
「第二のヤマタノオロチを出現させないためにも提子を拉致。隔離する必要があるのね」
紅華の「拉致・隔離」のためらいの無い言葉に蓮輝が若干引きながら話を続ける。
「……そうだね。まぁ、保護……なんだけど。邪神の加護持ちだったら、瑠衣ちゃんとかあちらの世界でエネリエス様の巫女とか聖女をやっていた人間が見張ればいいとは思うけど……ずっとは厳しいよね。加護を封じるギフトや魔術を知っていればよかったんだけど……」
蓮輝がホワイトボードの提子と書かれた文字のところに「能力封印・拉致・隔離? >手段は?」と書き添える。
「最後に一番のカギを握っているミクさん。どう考えても彼女が裏で暗躍して今回の事件が起きているとしか思えないんだ」
「……それは……何故だ?」
「……繋がりかな。今回のカギになりそうな人間全員に繋がっている。中心にいるのは彼女だけだ」
(確かに図解を見ると「ミク」さんが中心にいる感じだね)
(だからと言って、彼女が魔獣を召喚し、あちらの世界の扉を開く……とは考えにくい。街の人間を……仲間の幸せを考える人間がそんなことをするはずがない!)
若干、怒気の籠った声で海波が答える。
「……それだけでは薄いのではないか?」
「……ああ、そうだったね。海波君の前世で……一緒だったんだね。前世と現世を切り離して考えないと駄目だと思うんだけど……」
(……たしかにそうだけど……この感情は……)
(ラケシスがこの世界に来てから心変わりしたと言うのか? この平和な世界で?)
(ゼフ、君の怒りか……)
「海波君の情報だと、ギフトで「予知」らしき能力を持っていたってことだけど……僕の知っている中だと「予知」のギフトを持っていた人間は……最前線の街にいた時詠みの聖女だけなんだ」
礼音が沈黙する空気の中、何時もと変わらない感じで前世の情報を出しはじめる。
「予知能力のあるエネリエスの巫女。「腹黒ラケシス」裏の世界だと有名。神職なのに手段を選ばずに目的を達する」
「!?」
「……えっ? ラケシス?」
紅華は聞いたことある名前に反応し、瑠衣は前世であまりに知っている人間の名前が突然出てきたので狼狽していた。
重石要も思い出したように礼音の意見に補足をする。
「あ、ぼ、僕もしってる。物凄く強い武道家。血の雨をふらせたとか。便利屋で有名だった。」
紅華もおぼつかない前世の記憶をたどっていた。
「……私も聞いたことがあるな。確かウチの団長と知り合いだったと思う……また上手く逃げられたとか……敵意がある目はしてなかったかな? たしか大戦の前に……どっかの街の悪徳貴族と争って死んだって……」
蓮輝がホワイトボードに今の情報を記述していく。
「……同一人物だとすると、予知能力を持った彼女が……前世の世界とこちらの世界をつないで何かをしようとしているとしか思えないんだけど……」
「確かに……平和を望む人間だったら、「予知」できていれば止めるよね? 前回の魔獣召喚とかも」
「……それって、この世界でも魔獣が蔓延る危険な世界にしようとしているって事?」
「な、な、なにかきっかけがあって、邪神側に寝返ったとか? 邪神教の扉……調査してるし」
(邪神!?)
(違う!)
海波は座ってたソファから立ち上がりながら感情のこもった大きな声で反論をする。
「違うっ! 彼女は……ラケシスは……ラケシスはそんな人間ではないっ!!! 俺たちの街を……スラムを守るために戦っていたっ! 俺たちを救ってくれた人間なんだっ!」
普段は淡々としゃべる印象の海波の突然の態度に、その場の人間が驚き、呆然として海波の事を見る。瑠衣は驚愕の瞳になった後、崩れ落ちるようにうなだれていた。
(あ……)
(ぐっ……くそっ。感情が制御できない!)
「……すまない……頭を冷やしてくる……」
海波はその場の視線を無視して部屋を足早に出て外へと向かっていった。




