第59話 状況整理
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ここではない世界。
現代とは色の違う空は雲に覆われ始め、これから雨が降ろうとしていた。
スラム街にある孤児院の近くの墓場でラケシスは一人祈りを捧げていた。
ゼファイトスは彼女に近づいていく。彼女は背を向けているのに泣いている様な気がした。
「……泣いているのか……どうしんだ?」
「……ん。そうね……お別れをしていたの」
ゼファイトスはこれから行う作戦が非常に困難なことを知っていたので思わず肩をすくめてしまう。
「……不吉な事を作戦前に言わないでくれ」
「そうね。ごめんなさい」
「君の事は俺が絶対に守る。絶対に帰って来るんだ……泣かないでくれ」
「……ええ、ありがとう……ゼフ」
ラケシスは振り返ってゼファイトスを見る。悲しそうな表情を隠しきれなかった彼女にゼファイトスは困惑してしまう。
ラケシスがゼファイトスの複雑な表情を見て、涙がまたあふれ出そうになる。
が、彼女の頭の中で『未来予知』のギフトが発動し「未来」の映像が断片的に流れてくる。
「え……?」
ラケシスが驚きから複雑な笑顔になり、困惑した表情になる。
「これは……どう言う……違う人……異文化? ……世界? これはなに?」
「……天啓が下ったのか?」
「ええ。そう……多分……大丈夫よ。必ずあなた達は……私の事を守ってくれるわ」
「……そうか。それは……よかった」
ラケシスは天啓で見ることのできた未来を理解するのに若干の時間がかかった。
この街を守るための作戦に向かう覚悟が出来た様だった。
「行きましょう。ゼフ。私たちの幸せのために」
「ああ。この街の解放のために」
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海波は見知らぬ綺麗なベッドで目を覚ました。
部屋が違う事よりも、先ほど見た鮮明な夢、記憶の方が気がかりだった。
(……あの後ラケシスは死んだ……)
(……彼女は何の未来を見ていたんだろう……)
(……)
(世界……違う人……彼女の見た未来はこちらの世界の未来だったのかもね)
(そうだな……今ならわかるが……こちらの事だったのかもしれない)
(転生した後の事を見ていた……なんて……すごいギフトだね)
(……たしかに)
海波が暫くラケシスとの夢の事を整理していると、部屋のドアを開けて瑠衣が入ってくる。
「あ。よかった……どう? 体調、大丈夫そう?」
「……ああ、ありがとう……一体どうなったんだ?」
「海君、あの後……ソファに座ると眠ってしまって目を覚まさなかったんだよね。それで蓮輝君の離れで……」
「蓮輝の家のアトリエか……」
「治癒魔術をかけたから……体は大丈夫だと思うんだけど……」
「そうだな……どうやら心のダメージが大きかったようだ」
「……そう」
(……るーちゃんも疲れている様に見えるね)
(ああ、隣の部屋で多数の人間の気配がする。既に集まっているのか? かなり朝が早い気がするのだが……)
海波がベッドから起き上がり、リビングの方へと移動をすると、そこには雑魚寝をしている仮面連盟(仮)の仲間たちがいた。
ホワイトボードには人間の相関図がかかれ、色々と議論をし終えた後の様に見えた。
(これは……)
(今わかる情報をまとめてくれていた様だな……わかりやすいな)
「一旦家に帰って、家族にばれない様に深夜に家を抜け出してから議論始めたから……さっきまでやってたんだ」
「……すまない。俺が倒れたせいで……」
「みんなそんな事思ってないと思うよ……」
海波達の声に反応して、ホワイトボード近くの床に転がっていた蓮輝が起きて寝ぼけながら状況を確認する。
「ふぁぁああ……おはよう。無事みたいだね。どうなるかと思ったよ……あ、トイレ……」
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全員が目を覚まし、蓮輝が母屋から持ってきたコーヒーやらパンを食べた後、ホワイトボード前に集まる。
ホワイトボードには、誰が何の目的で動いているか、動機なども推察されたものが書かれていた。
■ 状況整理
・転生者自由主義のアジトの施設 >(幹部以外いなかった)
幹部の魔力はかなり強かった。セツナさんクラスが六人?
ソーマ君と提子ちゃんを発見。>ヤマタノオロチの再現を狙ってる?
セツナさん、カンジさんとミクさん、長髪の人がいた。 >中心人物? 詳細は後程海波君に聞く
見たことのない怪力系?の人・魔術師っぽい人が二人
目的 ・魔獣の世界とこちらの世界をつなげるのが目的?
・前世の世界に行きたいだけ?
・邪神の何かの儀式? 危険!?
>ミクさんと長髪の人にはエネリエス様の雰囲気がした >瑠衣ちゃん感知で
・消失事件の現場
海波ママが主任? > 海波君に動機があるかを聞いてみる?
特殊対策課と自衛隊が守っている
一般人だと潜入不可能 > 魔力持ちだらけだった
黒い大きな魔石がある > 調査している感じ? やばい感じだった
邪神教の扉? > 中に何があるかは不明
・駅前付近での魔獣騒ぎ
魔獣は弱めだったけどたくさん
狐の仮面の軍団が魔獣退治をしていた。 >それなりの手練れが多い印象
警察、機動隊、自衛隊も知って動いている感じ? >対魔獣用の武器を使用していた
海波ママ(ナミネさん)とミクさんと長髪の人につながりあがあるかも
異能者管理組合の正津成有さんと鼓動正史さんも発見
>異能者管理組合・特殊対策課・自衛隊は繋がりがある? 幹部だけ?
・海波君の住んでた家もおかしい?
海波パパの書斎に封印された異物? >ナミネさんが何か隠しているのかも……
調査後に確認したところ、特殊対策課らしき人物が二人で見張っていた。(常駐?)
処分されたはずがそのまま残っているのは何故?
・提子が黒い手の鍵になっている?
提子を利用して異界の門を開く? (ソーマ君は必要なしかも?)
>提子を魔術師から遠ざけると安全になる?
>提子が邪神の巫女の可能性あり
海波がホワイトボードの情報を何度か読みながら頭で整理をしていた。仮面連盟(仮)のメンバーが軽食を取り終わるとバラバラに近くの椅子や床に座って経緯を見守っていた。普段のほんわかとした雰囲気はなく、皆真面目な視線を海波に送っていた。
「とりあえず、海波君の寝ている間に色々とまとめてみたんだけど……追加で情報あったりするかい?」
「……無い……と思う……が、これは……」
人間の相関図、利害関係などが線を引かれてまとめられていた。それとは別に人物の図解があり、その線をたどっていくと中心に来る人物に驚きを隠せなかった。
(……すべての中央にミク……ラケシスさんだね)
(……ああ、知らない事が多かった様だな……どう考えればいいんだ……母さんと繋がっていたのか……)
蓮輝が海波の表情を伺って、やっぱり落胆するか……と思いながら説明をする。
「ほとんどが状況証拠になるんだよね……話すかどうか話し合ってたりしたんだけど……どう考えても鍵になる人物なんだよね……海波君のママ……」
礼音が補足するように説明をしてくれる。
「駅前の騒ぎの後、私だけ残って観察してた。海波ママとミクさんは繋がってる。あと、異能者管理組合のリーダーと思われる人間も特殊対策課の制服を着ていた。訳がわからない」
「話の内容を聞いていたわけではないのか?」
「全員手練れ。魔力の残量が少なかったから、ビルの上からの観察のみ。初対面の雰囲気ではなかった」
「……そうか……」
蓮輝が沈む雰囲気の中、ため息をついた後に言いにくそうに発言をする。
「あと……これは……伝えるか迷ったんだけど……海波君のママが鍵になりそうだったから、パパの知り合いの探偵に調べてもらったんだけど……」
(え?)
(そんなことまで?)
蓮輝が持っていた資料を机の上に広げる。
「……白波浪音の情報は……海波君の母親になるまで……無いんだ」
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